堂々巡りから抜け出すには

執筆者:公認心理師・山崎孝

「同じことを繰り返し考えているだけで進展がない」

堂々巡りという言葉は、信徒や僧侶が祈願や儀式として、神社やお寺の堂の周りを回ることに由来しています。私たちの思考も、時として堂々巡りに陥ってしまうものです。

堂々巡りから脱却する方法をいくつか紹介します。

堂々巡りに陥る原因

堂々巡りに陥る原因には以下のようなものがあります。

認知の偏り
物事を極端に捉えたり、一面的に解釈したりするなど、思考の癖が偏っていると、堂々巡りに陥りやすくなります。認知の偏り白黒思考や完璧主義、過度な一般化などがあります。

ストレスフルな状態
体調不良、仕事の忙しさ、ショックな出来事などによるストレスは、思考を硬直させ、柔軟な発想を妨げる可能性があります。

思考の習慣
物事を特定の角度からしか見られない、あるいは一つの解決策にこだわり過ぎるなど、思考のパターンが固定化していると、堂々巡りに陥りやすくなります。

情報不足
問題解決に必要な情報が不足していたり、偏った情報だけに基づいて判断したりすると、思考が停滞し、堂々巡りに陥ることがあります。

不安や恐れ
未知の領域に踏み出すことへの不安や、失敗に対する恐れから、新たな視点や解決策を探ることを避け、同じ思考を繰り返してしまうことがあります。

自分に自信がない
自分の能力を信じられない、自分の意見に価値がないと感じている場合、新しいアイデアを出すことを躊躇し、堂々巡りに陥ってしまうかもしれません。

周囲からの圧力
周囲の意見に流されたり、期待に応えようとするあまり、自分の考えを押し殺し、同じ思考を繰り返してしまうことがあります。

過去の経験
過去の失敗経験から学ぶことは大切ですが、それにとらわれ過ぎると、新しい可能性を探ることを避けてしまい、堂々巡りに陥る可能性があります。

堂々巡りから抜け出す方法

あるところで「臆病でチャレンジしない」と評価されている人が、別のところでは「慎重で安心できる」と評価されることがありえます。

他者から「バカ」と言われたとき、言った相手が仲の悪い人ならそのままの意味でしょう。恋人なら好きの意味の「嫌い♡」かもしれません。

様々な視点を持つことは、堂々巡りから脱却するきっかけをくれます。以下に例をあげていきます。

他者の視点で考える

  • 「(友人の)○○さんなら、どのように考えるだろう」
  • 「(上司の)○○さんなら、どのように考えるだろう」
  • 「(尊敬する)○○さんなら、どのように考えるだろう」

他人の視点で考える事例

会社員のYさんは、新しい企画案を提出したものの、上司から厳しい指摘を受けてしまいました。Yさんは、自分の企画案が完璧だと思っていたため、上司の指摘を素直に受け止められず、反論ばかりしています。しかし、反論すればするほど、上司からの評価は下がり、企画案も進展しません。

Yさんは、「自分の企画案は間違っていない」「上司の理解力がない」と憤りを募らせています。会社に行くのも嫌になり、仕事への意欲も低下してきました。Yさんは、このままでは自分のキャリアにも影響すると不安になりますが、どうすればいいのかわからず、堂々巡りに陥っています。

ここで、Yさんは「他者の視点で考える」ことを試みました。

尊敬する先輩Aさんなら、上司の指摘をどう受け止めるだろうか
Aさんなら、上司の指摘は企画案をより良いものにするための建設的なフィードバックと捉えるかもしれない。Aさんのように上司の言葉を真摯に受け止めるのはむずかしいが、成長の機会と考えて踏ん張ってみよう。

自分が上司だったら、この企画案をどう評価するだろうか
上司の立場で考えると、企画案の長所も短所も冷静に評価しようとするはず。反論ばかりする部下よりも、指摘を前向きに受け止め、改善に取り組む部下を高く評価する。

同僚は、私の行動をどう見ているだろうか
同僚の目から見ると、上司とコミュニケーションがうまく取れず、仕事への意欲を失っている自分の姿は、チームワークを乱すマイナス要因だと映るかもしれない。上司の指摘を受け止めて改善に努める姿勢は、同僚の信頼につながるかもしれない。

他者の視点から自分の状況を見つめ直すことで、Yさんは新たな気づきを得ました。上司の指摘は自分の成長のためであり、それを前向きに受け止めようと気持ちを切り替えました。何より、自分は周囲に良い影響を与える人でありたいと思いました。

過去または未来から考える

  • 「5年後の私はどうしているだろう。5年後の私なら今、何を選択するだろう」
  • 「3年後から現状を見たとき、まず着手するのは何だろう」
  • 「現状が変わらないままでいると、1年後に何を後悔しているだろう」
  • 「1年前に戻ったら、今の自分に何と声をかけるだろう」

過去または未来から考える事例

看護師のKさんは、病棟での人間関係に悩んでいます。先輩看護師との意見の食い違いから、自分の意見を主張することがむずかしくなっています。さらに、患者さんとのコミュニケーションでも、思うようにいかないことがあり、自分の能力に自信が持てなくなっています。

Kさんは、「自分は看護師として不適切なのではないか」「このままでは患者さんに良いケアができない」と自分を責め、一人で悩み続けています。先輩看護師との関係改善に努めようとしても、うまくいかず、堂々巡りに陥っています。

ここで、Kさんが「過去または未来から考える」ことを試みます。

1年前に戻ったら、今の自分に何と声をかけるだろう
1年前の自分は、看護師のキャリアをスタートしたばかりだった。その時の自分なら、今の自分にこう声をかけるだろう。「まだまだ成長の途中だから、完璧である必要はない。先輩の意見に耳を傾けながら、自分の意見も大切にしよう。患者さんとのコミュニケーションも、試行錯誤しながら学んでいこう」

5年後の私はどうしているだろう。5年後の私なら今、何を選択するだろう
5年後の自分は、経験を積んで自信を持って働いているはず。5年後の自分なら、「先輩とのコミュニケーションは、お互いを尊重し合うことが大切だよ。意見の相違は成長のチャンスだ。患者さんとの信頼関係も、一つ一つの積み重ねで築いていくもの。今の経験が、将来の自分の糧になると信じて」と今の自分に言うだろう。

過去や未来の自分の視点から現在の状況を見つめ直すことで、Kさんは新たな気づきを得ることができます。看護師としての成長は一朝一夕にはなし得ないこと、先輩看護師との意見の相違は成長のチャンスであること、患者さんとの信頼関係は一つ一つの積み重ねで築いていくことの大切さに気づくでしょう。

俯瞰して観察する

  • 「この状況を2階から眺めたら、何を考える・感じるでしょう」
  • 「あなたと関係者たちを通天閣から見たら、どんな風に感じるでしょう」

※ 通天閣は、大阪市浪速区の新世界地区にある高さ108mの展望塔です。大阪では「高い場所」の比喩として用いられます。

俯瞰して観察する事例

大学生のSさんは、就職活動で思うような結果が出ず、自信を失っています。エントリーシートの作成や面接での受け答えなど、自分の行動を細部まで分析し、完璧を求めるあまり、行動が制限されてしまっています。

Sさんは、「自分には能力がないのかもしれない」「このままでは内定がもらえないかもしれない」と不安に思い、一人で悩み込んでいます。就職活動に関する情報を集めれば集めるほど、自分の不足ばかりが目につき、堂々巡りに陥ってしまっています。

ここで、Sさんは「俯瞰して観察する」ことを試みます。

この状況を2階から眺めてみる
2階から自分を見下ろすと、就職活動に必死に取り組む自分の姿が見えます。真剣に自分と向き合い、努力を重ねる姿は、応援したくなるような、頼もしい姿だと感じられます。完璧を求めるあまり、行動が制限されているのは少し窮屈そうですが、それだけ真摯に就職活動に臨んでいる証拠だと捉えることもできます。

自分と就活中の学生たちを通天閣から眺める
もっと高いところから俯瞰すると、多くの学生が就職活動に奮闘している姿が見えます。みんな不安を抱えながらも、懸命に努力しています。行き詰まっているのは自分だけではありません。それぞれが自分なりに就職活動に取り組んでいることがわかります。

このように、俯瞰的な視点から状況を観察することで、Sさんは新たな気づきを得ました。完璧を求めすぎることで自分を苦しめていました。また、自分だけが悩んでいるわけではなく、多くの学生が同じように奮闘していることにも気づきました。

状況が変わったわけではありませんが、気持ちのあり方が変わり、前向きな姿勢を取り戻していきました。

状況が変わるとどうなるかを考える

  • 「もし何の障害もなければ、どのような選択を行うでしょう」
  • 「もし何も変わらなかったら、何を失うでしょう・失わないでしょう」
  • 「10億円の宝くじが当たったら、現状はどのように変わるでしょう」

状況が変わるとどうなるかを考える事例

会社員のTさんは、現在の職場環境に不満を抱えています。上司とのコミュニケーションがうまくいかず、自分の意見を反映させることがむずかしい状況です。また、同僚との関係も良好とは言えず、孤立感を感じています。

Tさんは、「このままだと自分のキャリアが停滞してしまう」「でも、この会社以外に選択肢があるだろうか」と一人で悩み続けています。転職を考えてはみるものの、現在の職場環境に不満があるからといって、新しい環境で上手くやっていけるかどうか自信がありません。結局、行動に移せずに堂々巡りに陥っています。

ここで、Tさんが「状況が変わるとどうなるかを考える」ことを試みます。

もし何の障害もなければ、どのような選択を行うでしょう
現在の状況に縛られずに自由に選択できるなら、Tさんは自分の能力を発揮でき、やりがいを感じられる職場を探すかもしれません。理想の状況を思い描くことで、Tさんは自分が本当に求めているものが明確になるかもしれません。

もし何も変わらなかったら、何を失うでしょう・失わないでしょう
現状が継続した場合、Tさんはキャリアの成長機会を失うかもしれません。しかし、同時に安定した収入や職場環境は維持できるでしょう。変化には勇気が必要ですが、現状維持にも一定のメリットがあることに気づきます。自分にとって本当に大切なものは何か、冷静に見つめ直すきっかけになります。

10億円の宝くじが当たったら、現状はどのように変わるでしょう
経済的な制約から解放されたら、Tさんは自分のやりたいことに挑戦できるかもしれません。新しいキャリアにチャレンジしたり、自分で事業を始めたりすることも可能になります。あるいは、上司への自己主張や同僚との関係構築にチャレンジするかもしれません。

このように、状況が変化した場合を想定することで、Tさんは現状を分析する新たな視点を得られます。自分の真の望みは何か、現状維持のメリットは何か、キャリアアップのために必要なことは何かが明らかになるかもしれません。

原因探しにこだわりすぎない

「決断できない」「先延ばししてしまう」のような問題が起きているとき、「どうして俺は同じことを繰り返すだろう」「なぜ、わかっているのにできないのだろう」と原因を考えると思います。自分の心に原因を探すことが多いと思います。

心の中の原因探しは堂々巡りを深めることが多いです。なぜなら、原因は多岐に渡り、すべての特定は困難だからです。原因探しはほどほどにして、上手くできていたときのことを振り返ったり、ここまで紹介した視点で考えて、解決の構築に向かうことをおすすめします。

まとめ

紹介したことを実践するコツとして気分転換をあげておきます。

私はカウンセリングを終えるとすぐに記録を書くのですが、終了直後は頭が煮詰まっていて、書けないことがあります。そのようなときは、トイレに行くなどして身体を動かします。ちょっとした刺激が硬直した頭をほぐしてくれるようです。頭の中で自動的に整理が始まる感覚を覚えることがあります。

堂々巡りから抜け出す方法
  • 他者の視点で考えてみる
  • 過去または未来から考えてみる
  • 離れて眺めてみる(俯瞰する)
  • 状況が変わるとどうなるかと考えてみる
  • 原因の特定にこだわりすぎない
  • 気分転換すると上記の視点を持ちやすくなる