「過去と他人は変えられない」のか?

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

「過去と他人は変えられない。変えられるのは自分自身のみ」という言葉があります。精神科医エリック・バーンの言葉とされています(この説には出典がなく信憑性に欠けるようです)。

「ニーバーの祈り」も同じことを言っています。

神よ、変えることのできるものについては、それを変える勇気を我に与えたまえ。 変えることのできないものについては、それを受け入れる平静さを我に与えたまえ。 そして、その二つを見分ける英知を我に与えたまえ。

「ニーバーの祈り」アメリカの神学者ラインホールド・ニーバーによって書かれた短い祈り

実際、過去の出来事そのものは変えられません。また、他人の考え方や行動を直接変えることはできません。そして、私たちの苦しみは、変えられないものを変えようとすることからも生じます。

だからこそ、

  • 変えることができるものを変える勇気
  • 変えられないものを受け入れる勇気
  • その2つを見極める知恵

を求めるのです。

では、「過去と他人は変えられない」は絶対的なものでしょうか。

結論から言うと、

  • 過去の出来事そのものが変わることはないが、意味づけは変わりうる
  • 自分が変われば他人が変わることもありうる

です。

過去の失敗があったからこそ、改善や努力を重ねて能力が向上しました。失敗で終わるのではなく、未来への糧となりました。このような例は世の中にたくさんあります。過去の意味づけは未来によって変わります。今の積み重ねで変えられることもあります。

自己主張の強い上司が、ある日ミーティングを欠席しました。いつも消極的な部下たちが積極的に発言していたと報告を受けました。以降、上司は発言を控えて、部下の話を聞くことに徹しました。部下の積極性が増していきました。自分が変わることで、結果として相手が変わることもあります。

「過去と他人は変えられない」は必ずしも真実ではありません。変えられるものを変えることで、結果として変わることもあります。過去と他人が変わらなくても、変えられるものを変えようとした姿勢と行動は未来につながるはずです。