アダルトチルドレンのカウンセリング

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

アダルトチルドレンは、本来子どもの頃に得られるべき適切な愛情やサポートを受けられなかった影響で、大人になってからも生活において困難を抱えている人を指す言葉です。

アダルトチルドレンについてもう少し詳しく

アダルトチルドレンとは?

アダルトチルドレンは、機能不全家族で育ち、成人後もその影響を受け続ける人々を指します。機能不全家族とは、アルコール依存、虐待、無視、過剰な期待などの問題を抱える家庭のことです。医学的な診断名ではありません。個人の状態を理解するための言葉として使われています。

アダルトチルドレンは、幼少期に受けた心の傷が癒えず、自己評価の低さ、対人関係の難しさ、感情の抑圧などの問題を抱えがちです。これらの影響は成人しても続き、日常生活や人間関係において困難を引き起こすことがあります。

アダルトチルドレンの起源

アダルトチルドレンの概念は、1980年代にアメリカで広まりました。この語の語源は、アルコール依存症の親を持つ人々を支援するためのプログラム「アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリックス」(ACoA・アルコール依存の親のもとで育ち、大人になった人たち)にまで遡ります。

その後、この概念はアルコール依存症の家庭に限らず、様々な不安定な家庭環境で育った人々を包括するように拡大されました。

アダルトチルドレンの特徴

アダルトチルドレン(AC)の人は以下のような傾向が見られます。

自己評価の低さ・自信のなさ
自己評価が低く、過度な自己批判を行う傾向があります。これにより、自信を持てず、成功や達成感を感じにくくなります。

対人関係のむずかしさ
親密な関係を築くことが難しく、他人の期待に過度に応えようとすることが多いです。このため、他人に対する過剰な依存や依存心を抱くことがあります。

感情のコントロール
感情を抑え込む傾向が強く、過剰なストレス反応を示すことが多いです。自分の感情を表現することが難しく、内面の葛藤を抱え続けることがよくあります。

これらの傾向によって、日常生活において以下のような困難に直面することがあります。

  • 見捨てられる不安を抱えている
  • 他人の評価を過剰に気にする
  • 自分の考えに確信を持てない
  • 自分自身を厳しく批判する
  • 完璧主義が強すぎて物事を最後までやり遂げられない
  • 常に責任を取りすぎるまたは取らなさすぎる
  • 自己愛的な傾向が強く自分が中心にいることを強く望む
  • 他人の誘いや依頼にNoを言えない
  • 共依存的な関係になりやすい
  • 他人の言葉や行動に対してから否定的な裏読みをする
  • 感情表現が苦手

アダルトチルドレンが家庭で果たしてきた役割

これらの特徴は、アダルトチルドレンの人が家庭の中で強いられた「役割」を果たし続けることで形成されます。その役割には以下の6つのタイプがあります。

ヒーロー(英雄)
自分が活躍すると両親が喜び家庭の空気がよくなります。そのため家族の期待に応え続けようと過剰に努力を続けます。

スケープゴート(犠牲の山羊)
問題行動を起こしたり、病気になるなどして、家族の葛藤を一身に背負います。

ロストワン(いない子)
傷つけられない方法として目立たないように過ごします。

プラケーター(慰め役の子)
家族の中でいつも暗い顔をしている人(多くの場合、母親)の慰め役になります。

クラン(道化師の子)
両親の間に葛藤が生じたりすると、わざとふざけたりして、悪い空気を和まそうとしています。

イネイブラー(支え役の子)
必要以上に他者の世話を焼きます。親の代わりに一家の世話役を請け負います。

このページを書くために改めて関連書籍を読み返しました。家族の中で最も弱く守られるべき立場にある子どもが、家族を守るために心をすり減らしている姿が浮かんできて、読むたびに切なくなります。

生きづらさはあなたの責任ではない

あなたが今、生きづらさを感じているのは、決してあなたの責任ではありません。アダルトチルドレンの特徴は、子ども時代に経験した家庭環境が原因で形成されたものです。

機能不全家族で育ったことにより、あなたは自分の感情を抑圧し、他者からの承認を求めるようになりました。自己評価が低く、人に頼ることが苦手で、完璧主義に陥りやすいのも、すべて子ども時代の経験が影響しているのです。

これらの特徴や行動パターンは、あなたが意図的に選んだものではありません。あなたは生き延びるために、その環境に適応するしかなかったのです。あなたの生きづらさは、あなたの責任ではありません。あなたの責任ではないことを強く訴えます。

あなたは、自分の置かれた状況に最善を尽くして生きてきました。今、生きづらさを感じているのは、あなたが真摯に人生と向き合っている証拠です。あなたを心から応援しています。

アダルトチルドレンのカウンセリング

当カウンセリングルームで行う「カウンセリング(心理療法)」と「安心の基地」について述べます。

カウンセリング(心理療法)について

当カウンセリングルームでは、個人の思考と行動の変化を通じて問題を改善する認知行動療法と、対人関係における相互作用(コミュニケーション)の変化を通じて問題を改善する家族療法・ブリーフセラピーにてサポートを行っています。

認知行動療法

同じ状況や出来事に遭遇しても、どのように考えて、どのように行動するかは、人によって異なります。その思考と行動の様式は、これまでの人生で身につけたものであり、概ね上手く機能しています。しかし、上手く機能しないときがあります。問題が生じるのはそのときです。

以下の図は、「駅で友人に会ったので声をかけたのに、友人は反応せず素通りした」という出来事が起きたとき、個人に起きることを、認知(思考)、感情、身体、行動の4つの面から理解するモデルです。

ここでは、①と④に焦点を当てて違いを検討します。

①の人は、「友人は私に怒っているのかも?」と考えて不安になりました。友人に存在を気づかれないように、その場から離れました。

④の人は、「聞こえなかったのだろう」と思いました。特に何も感じず、そのままやり過ごしました。

アダルトチルドレンの人は、④より①の思考を選択することが多いはずです。意識してというより、自動的に①を選択しています。そして、友人から距離を取る行動を選択します。その後も友人を避けがちになり、それに気づいた友人も本人を避けるようになり、疎遠になることがあります。

また、友人から「なぜ避ける?」と問い詰められて、「やっぱり怒っている!」となることもあります。悪い予測(思考)に基づく行動は、その予測(思考)を実現させる傾向があります。実現した結果、その思考と行動が強化されてしまうことがあります。

④の人はその後、何もなかったように過ごしているかもしれません。もしくは、「この間はどうしたの?」と聞いて、「気づかなかった」で終わることあるかもしれません。本当に怒っていたとしたら、その理由や誤解について話し合えるかもしれません。

④が良くて①が悪いということではありません。自動的に選択するのではなく、その場や状況に応じて現実的な選択を行えるように支援します。また、相談者が自分自身のカウンセラーになることを目指します。自分自身の思考と行動を俯瞰する視点を持つことで、セルフケア能力が向上します。

家族療法・ブリーフセラピー

家族療法の家族は、複数の人からなる集団を意味します。集団を一つのシステムと見立てて、システム内の相互作用の結果、問題が生じていると捉えます。システム内の相互作用を変化させることによって問題解決を図ります。

集団の中でも家族は成員同士のつながりが強く、この心理療法は家族に適用されることが多いことから、家族療法と呼ばれます。ブリーフセラピーは家族療法の一学派から生まれました。ブリーフ(短期)の名の通り、効率的かつ効果的なサポートを志向しています。

家族療法・ブリーフセラピーでは、問題を個人の内面に求めません。システム内の相互作用(コミュニケーション)に焦点を当てて解決を目指します。個人を問題としない、個人に優しい心理療法です。

安心の基地(アタッチメントの観点から)

安心の基地とは、心理学のアタッチメント理論による概念です。

アタッチメントとは、不安などのネガティブな感情が生じたとき、特定の誰かに「くっついて」安心感を得る、不安解消のための行為や行動のことです。

特定の誰かとは多くの場合、です。安心の基地である親を起点に、子どもは好奇心のまま外の世界を探索します。痛い目に遭ったとき、子どもは親にくっついて安心感を得て、立て直します。そして、また探索に出かけます。

このサイクルを繰り返すことによって、子どもは親に受け入れられる体験を積み重ねます。これは自己肯定感を育てます。探索を繰り返すことで、できなかったことができるようにもなります。自己効力感(できる感覚)が育ちます。

アダルトチルドレンの人は、機能不全家族で育ったために、安定したアタッチメントを形成する経験ができませんでした。アダルトチルドレンによる生きづらさを改善するには、チャレンジが必要です。チャレンジを積み重ねるには、安心の基地を持つことが望ましいです。カウンセリングは最初の安心の基地となる場です。

参考文献
  • 斎藤学 1998 アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す 学陽書房
  • スーザン・フォワード(著) 玉置悟(訳) 2001 毒になる親 一生苦しむ子供 講談社
  • ダン・ニューハース(著) 玉置悟(訳) 2012 不幸にする親 人生を奪われる子供 講談社
  • 白川美也子 2016 赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本 アスクヒューマンケア