執筆者:公認心理師・山崎孝
自分に自信がない悩み
Aさんの「自信がない」と、Bさんの「自信がない」は必ずしも同じとは限りません。「自信がない」を掘り下げてみると新たな気づきがあるかもしれません。
自分に自信を持てない2つの原因
私たちに自信を持てなくしている原因は、大きく2つに分類できます。2つを理解すると、自信を育てるためにするべきことがより明確になります。
1つ目は、自信を持てなくなった原因です。これを自信喪失の起因と表現します。2つ目は、自信のなさが持続する原因です。これもを自信不足の持続要因と表現します。
この2つの原因について掘り下げていきます。
自信喪失の起因(自信を持てなくなった原因)
以下は自信を持てなくする原因の代表的なものです。自信喪失の起因の中には、自信喪失の起因であり、かつ自信不足の持続要因となっているものもあります。
- 育った環境
- 親や教師からの厳しい批判や過度の期待、他者との比較は、自己価値観の形成段階において深い影響を及ぼすことがあります。
- 【例】幼少期に親から絶えず「他の子と比べてできが悪い」と言われ続けた子どもは、大人になっても自分を低く評価する傾向があります。
- 失敗体験
- 失敗や否定的なフィードバックの繰り返しは、自己効力感を低下させ、自信を喪失させる原因となります。
- 【例】新しい仕事に挑戦したが失敗し、それ以降新たなチャレンジを恐れるようになったケースです。
- メンタルヘルスの問題
- 不安障害、うつ病などの心理的な健康問題は、自己評価や自信に大きく影響を及ぼします。
- 【例】不安症により社会的な場面での自信が低く、避けるようになる場合です。
- 対人関係のトラブル
- 友人や同僚との衝突や関係の破綻が、自信を損なうことがあります。
- 【例】友人との大きな口論。
- 身体的・精神的な健康問題
- 長期的な健康問題が自己評価を下げる要因になり得ます。
- 【例】慢性的な病気や精神的な障害。
- 社会的比較
- SNSなどでの他者との比較は、現代社会において劣等感を引き起こす主要な要因です。
- 【例】SNSで友人たちの成功を見て、自分の成果が十分でないと感じることがあります。
- 社会的ステータスの変化
- 職を失う、経済的な困難など、社会的な地位の低下が影響を及ぼすことがあります。
- 【例】リストラによる職の喪失。
過去の体験、例えば育った環境や失敗体験などは、自分自身に対する認識に強く影響を及ぼします。これらの体験は、その人の思考や行動の枠組みに影響を与えます。以下のような例です。
【育った環境】Aさんは、成績が常にクラスでトップでなければならないという家庭の期待を受けて育ちました。この期待は、Aさんが自己価値を成績にのみ連動させるようになり、自信を外部の評価に依存するようになる基盤を作りました。
【失敗体験】Bさんは高校時代、重要なスポーツ大会でミスを犯し、チームの敗退の原因となりました。この経験は、Bさんに「何かを間違えると人から否定される」という恐れを植え付け、新しいチャレンジを避ける傾向を作りました。
自信不足の持続要因(自信のなさが持続する原因)
自信不足の持続要因は、まさに今行っている行動や思考パターン、環境的要因などによるものです。
- 体験の回避
- 自信がないことにより、新しいチャレンジや社交的な場面を避ける傾向。この回避行動は自信を高める機会を失わせ、不足を維持します。
- 【例】断るべき要求を断らずにいると、前も受け入れたからとますます断りにくくなります。自信不足の維持すると同時に、自信を更に低下させることにもなります。
- 否定的な自己対話
- 自分に対する否定的な言葉は、自己評価を下げて、自尊感情を損ないます。
- 【例】何か小さなミスをした際に「私はいつも間違いばかり」と自分自身を責め続ける。
- 社会的比較
- 特にSNSなどでの他者との比較は、自己評価を低く保ち、劣等感を感じさせることが多いです。
- 【例】友人のキラキラしたプライベートの写真を見て自分と比較する。
- 過去の失敗への固執
- 過去の失敗体験に過度に焦点を当てることは、現在の自信を低下させ続けます。
- 【例】以前の恋愛関係がうまくいかなかったことを何年も引きずる。
- 肯定的フィードバックの無視
- 他人からの肯定的なフィードバックを無視するか、その価値を低く評価することは、自信不足を強化します。
- 【例】上司からの肯定的な評価を「彼はただ親切なだけ」と一蹴し、自分の成功を認めない。
- 完璧主義
- 高すぎる基準を設定し、それを達成できないことによる自信の損失。
- 【例】自分の仕事が完璧でなければ価値がないと感じ、できている部分を評価しない。
- 無理な目標設定
- 非現実的または達成困難な目標を設定することが、継続的な自信の欠如につながります。
- 【例】過度に高いまたは不適切な目標設定。
- 環境的要因
- 置かれた環境の影響で、それが自信のなさを維持する要因になることがあります。
- 【例】機能不全家族やハラスメントが横行している職場など。
以下に例をあげます。
【否定的な自己対話】Cさんは、新しい仕事のプロジェクトに取り組む際、常に「私には無理だ」「失敗するに決まっている」と自分に言い聞かせます。このような否定的な自己対話は、Cさんが自信を持って挑戦する機会を減少させ、自信不足を持続させています。
【社会的比較】Dさんは、同僚や友人の成功を見るたびに自分自身と比較し、「自分は彼らほど成功していない」と感じます。この比較は、Dさんの自己価値感を下げ、自信不足を継続させています。
まずは自信のなさを持続させている要因に対処する
自信喪失の起因は過去の体験に基づき、自信不足の持続要因が現在進行中のものです。
自信喪失の起因となった過去の体験を理解することは、自信を育てるにおいて有益です。しかし、必須ではありません。多くの場合、今まさに起きている自信不足の持続要因を明確にして、それに対処できれば十分なケースがほとんどです。
自信を持てなくなった原因に対処する必要があるケース
ただし、過去の体験による影響を現在も強く受けている場合、例えば、機能不全家族に育った人(アダルトチルドレン)や、いじめや犯罪被害などのトラウマ体験を持つ人は、過去に取り組む必要がある場合が多いです。
小さな出来事の積み重ねが自信を持てなくする例もあります。
例えば、子どもの頃、父親がいつも「ちっ」と舌打ちしていたという人がいました。その人は、「父親は自分を嫌っているのだ」と思っていたそうです。無条件の愛情を注いでくれるはずの親から嫌われる体験は、自分自身を肯定するのを困難にします。
こうして自信を持てなくなる
ここまで原因について考えてきました。次は、認知行動療法のモデルを用いて、自信を失った仕組みと、自信のなさを維持している仕組みについて考えます。
自信がない人とある人の感じ方の違い
下図は、同じ出来事でも、人により受け取り方(認知)が異なり、受け取り方によって生じる感情が異なることを示しています。
- Xさんは、自分にとってマイナスな解釈(予想)をした。
- Yさんは、Aさんに悪いことがあったのかもと解釈(予想)した。
Xさんタイプの中には、その時点では解釈(予想)に過ぎないのに、あたかも事実のように捉えてしまいます。
自信がない人の思考の枠組み
XさんとYさんの解釈(予想)の違いは、認知の深い層の違いによるものです。Xさんのそれを視覚化したのが下図です。
Xさんには、「(いかなる状況においても決して)相手の気分を害してはいけない」「相手の気持ちを害しなければ自分は受け入れられる」という思い込み・ルールがあります。
そのルールから外れたのではないかと感じて、「怒ってる!?」「何かした!?」という認知(自動思考)が生じました。その認知が否定的な感情と行動につながりました。
そのルールが作られたのは、「私は好かれない」「私は見下される」という自己認識(中核信念)によるものです。その自己認識が形成されたのは、先に紹介した自信喪失の起因によるものです。
自信に関わる問題がない人の思考の枠組み
Yさんの認知の深い層を視覚化したのが下図です。図のタイトルは「こうして自信を持てなくなる」ですが、Yさんの場合は「こうして自信が育つ」と表現しても良さそうです。
Yさんのルールと自己認識は、Xさんと比較するとバランスが良いと言えます。
自信を持てなくなる、もしくは育つ仕組みを知っておくだけでも、堂々巡りに陥りにくくなります。また、自分の責任と他者の責任を区別しやすくなります。自信がない人は、すべてを自分の責任と思いがちです。
ちなみに、図の黄色の部分(媒介信念と中核信念)をスキーマといいます。英語の「schema」で「思考の枠組み・構え」を意味します。
こうして自信のなさが持続する
思考と感情は行動を生起します。XさんのAさんに対する行動は、Aさんの思考・感情・行動を生起します。それを示しているのが下図です。
Xさんは不安から、Aさんを避けるようになりました。それを感じたAさんも、不安になってXさんを避けるようになりました。悪循環です。
もし、XさんがAさんに、「昨日、声をかけたんだけど…」と聞いてみれば、「えっ、気づかなかった」「ボーッとしてた」「ごめんね」で終わったかもしれません。Aさんを避けることで、実際を確認する機会を失います。
体験の回避は、自信不足を持続させる要因の一つです。回避を繰り返すと、不安や恐れが増大することがわかっています。それを視覚化したのが下図です。
パワハラなど回避すべきことはありますが、回避を重ねて人生が窮屈になっているなら、それは回避せず、対処しなければならないものかもしれません。
自信を育てるステップ
一般的なステップは以下のようになります。
- 【問題の明確化】自信がないを掘り下げる
- 【目標設定】適切な目標が解決のカギ
- 【行動実験】失敗も貴重なデータ
【問題の明確化】自信がないを掘り下げる
「自信がない」ことで何が問題となっているのか、どのような困っているのかを具体的にします。具体化できければ、解決に向かって進んでいる感覚を持ちやすくなります。
下図を例に考えます。
例えば、以下のような困りごとが考えられます。
- 自信がないから、自分の意見を言えない
- 自信がないから、新しい人との交流を避けてしまう
- 自信がないから、自分の考えや感じたことを正直に伝えることができない
- 自信がないから、他人の評価や意見に過度に左右されてしまう
- 自信がないから、他人の成功を羨ましく思い、自分を貶めることが多くなってしまう
- 自信がないから、他人との競争を避け、チャレンジすることを躊躇してしまう
- 自信がないから、自分の実力や能力を過小評価し、適切な機会や役職を逃してしまう
- 自信がないから、他人との会話で過度に自分を貶める言葉を使ってしまう
具体的になりましたが、上図の黒の部分です。「自分の意見を言えない」について、より具体化します。赤のレベルに具体化します。
- ミーティングで発言できない
チームで新しいプロジェクトの方針について話し合っている際、自分はその方針に疑問を持っている。しかし、他のメンバーが賛成しているように見えるため、自分の意見が浮いてしまうのではないかと心配し、結局何も言わずにその場を終える。 - 素直な気持ちを表現できない
友人たちとレストランで食事をしているとき、自分はある料理が気に入らなかった。しかし、友人たちがその料理を絶賛しているのを見て、自分の感じたことを言うのは場を悪くするのではないかと思い、黙っている。 - 目上の人に意見を言えない
先生や上司から提案された方法やアイディアに対して、改善点や違う視点を持っている。しかし、その人の地位や権威を恐れて、自分の意見を伝えることができず、ただうなずくだけになる。 - 恋人や友人関係にて
映画を選ぶ際や休日の過ごし方を決める際など、自分は特定の選択をしたいと思っている。しかし、相手が強く自分の意見を主張しているため、自分の意見を押し通すのは難しく感じ、結局相手の意見に従う。
カウンセリングでは対話を重ねながら、より具体化に理解するように努めます。カウンセラーが頭の中で映像を描ける程度まで理解しなければ、クライエントさんは理解された実感を持てないことが多いです。
【目標設定】適切な目標が解決のカギ
Mさんの「自信がない」は、引っ込み思案で人前で話せないことでした。特に仕事において問題が生じていました。上司から積極性な発言を期待されています。Mさん自身は期待に応えられない自分に失望しています。自分を変えたいと思っています。
初回のカウンセリングでMさんは、「プロジェクト会議で意見や提案を発表する」という目標を立てました。自信を持てるようになった自分の姿を想像して出てきたものでした。
カウンセラーは、まずは「小規模なグループで発言する」ことを最初の目標として提案しました。小さな目標達成を積み重ねてゴールを目指すのが目標設定のコツです。
【目標設定のコツ】
- 大きなものではなく、小さな一歩となるもの
- 小さなサイズにすることで実行のハードルが下がります。
- 具体的で、行動の形で表現されること
- 行動を目標とすることで測定可能になります。進歩を実感できます。自信のあるなしは白か黒であり進歩の測定は困難です。
- 否定形(〜をやめる)ではなく、肯定形(〜をする)であること
- 存在しないことより存在することの方が取り組みやすさが違います。「〜をやめる」と代わりに「〜をする」はずです。
「自信をつけよう!」ではありません。「自信の問題が解決したら、どのように行動しているだろう」です。常にその行動を選択しているなら、もはや自信のあるなしはどうでもいいはずです。
【行動実験】失敗も貴重なデータ
目標設定の次は行動実験です。失敗もデータです。うまくいかない方法がわかりました。次回の成功の種です。言い換えれば失敗はありません。行動しようと試みたけれどできなかった。これもデータです。より小さな目標が望ましいことが明らかになったからです。
問題の明確化・目標設定をカウンセリングで行います。日常生活で目標に基づく行動実験を行います。結果をカウンセリングで振り返ります
自信は人間関係を通じて育つもの
自信と自己理解:他者との関わりによって育つ
自信は、育てられるものです。人は、他者との関係の中で自信を育んでいきます。他者に承認される経験は、自己受容の基盤を作ります。自分が他者に受け入れられるという確信は、実際の人間関係の中で育ちます。
また、自分の長所に気づくのも他者との関わりによってです。自分にとって当たり前なことが、他者からみれば素敵だったり素晴らしかったりすること。長所とは、そのようなものが多いものです。
コミュニケーション:関係構築の鍵
人間関係を築くのはコミュニケーションです。相手を尊重しつつ、自分の考えをはっきりと表現する能力は、お互いの理解を深め、信頼関係を築く上で重要です。異なる意見を交わすことで、互いの視野を広げ、関係をより深いレベルへと進展させることができます。
自己理解が深まるのも、他者とのコミュニケーションを通じてです。他者からのフィードバックや反応は、自分の行動や考え、感情を映し出す「鏡」となり、自己理解を深めます。
また、自分の考えや感情を言葉にすることで、自己理解が深まります。曖昧だった感情や考えが明確になり、自分自身をより深く理解することが可能になります。
カウンセリングから始めてみませんか
ただ会話するだけがコミュニケーションではありません。人間関係を築き、自己理解を深めるコミュニケーションには、自己開示が含まれます。
自己開示が苦手な人の中には、過去に開示して深く傷ついた体験を持つ人がいます。そのような人は、傷つけられないための戦略として、自己開示を避けることがあります。そうすると、人間関係が深化しない悪循環に陥りがちです。
カウンセリングは、最初の自己開示の機会にとても適しています。私は自信を中心のテーマとしてカウンセリング行ってきました。このテーマには自信を持っています。ぜひお試し下さい。
カウンセリングの感想紹介
この方は、とてもポジティブになられて、少々ポジティブすぎて心配になりましたが、時間とともに落ち着きが戻り、バランスの良い状態になられました。
今でも鮮明に覚えていますが、初めてお会いした時、本当に私の心は弱っており、自分の思っていた事、出来事を吐き出して、先生の前で過呼吸寸前になる程、声を出して号泣しました。誰かの前でこんなに涙を流したのは、後にも先にも先生だけです(笑)
あの時、たったの1時間話しただけなのに、20数年間抱え込んでいた重荷がすっと軽くなったような感覚になったのです。
その時、先生なら信じられると確信した私は、通い続けることに決めました。
それから、回数を重ねる度に、みるみる私の心は回復。それどころか最短スピードで性格が180度変わり、ネガティブだった私は超絶ポジティブに生まれ変わりました!!
これには先生もビックリ!!(笑)優等生ですね!とほめて貰いました(笑)
【クライエントの声】私は本当に生まれ変わりました
ここまで読んでいただきありがとうございました。あなたにお目にかかるのを楽しみにしています。