人間関係の悩み

「悩みの8割は人間関係」とも言われます。人間関係は、悩みそのものでもあり、他の悩みの要因でもあります。ここでは、コミュニケーションに焦点を当てる例を紹介します。

人間関係と健康

一般的に健康と言うとき、「身体的な病気がない=健康」という意味で使ってると思います。

WHO(世界保健機関)憲章では、健康を以下のように定義しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(健康とは、身体的精神的社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や病弱がないことではない。)

世界保健機関のHP(Constitution of the World Health Organization | WHO | Regional Office for Africa)より引用

身体的な病気がなくても、気持ちが落ち込んで塞ぎ込んでいる様子を見ると、健康とは思えないでしょう。病気や障害などのハンディキャップを抱えていても、笑顔で朗らかな態度は他者に健康的な印象を与えます。

社会的とは、仕事など社会における立場や役割、人間関係など、その人を取り巻く環境のことです。人間関係は健康の重要な要素の一つです。

コミュニケーションは人間関係そのものかもしれない

コミュニケーションの定義に統一されたものはありませんが、ここでは「すべての行動はコミュニケーションである」とするMRI派(家族療法の学派の一つ)の定義にて使用します。人間関係における相互作用のすべてがコミュニケーションです。

他者とのコミュニケーションと自分自身とのコミュニケーションがあります。「この仕事を明日中にお願いします」と伝えるのは他者とのコミュニケーションです。それを伝える前に「急な仕事を頼んで気分を害されたらイヤだな」と考えるのは自分自身とのコミュニケーションです。

自分自身とのコミュケーション

人間関係をしんどくさせる自分自身とのコミュニケーションは、自分自身・相手・未来に対する否定的な考え方です。

上司
上司

Aさん。

この仕事、明日が期限なんだけどお願い。

は、はい。。。

Aさん
Aさん

また上司が仕事を振ってきた。

よりによって期限は明日!

今の仕事も明日が期限なのに。。。

Aさん
Aさん

上司はいつもこんなタイミングで仕事を振ってくる。

もっと早めに言ってくれたら調整できたのに!

Aさん
Aさん

でも、上司にNoと言うわけにはいかないし。。。

果たして「上司にNoと言うわけにはいかない」の考えは妥当なのでしょうか。「今の仕事の期限が明日なので、他の人にお願いしたいです」と状況を伝えるのはいけないことでしょうか。

Aさんは「べき思考」が強いのかもしれません。「べき思考」が強い人は、「常に」「絶対に」と極端に考える傾向が強いです。「上司の指示に従うのは当然だが、むずかしいときにはそう伝えるのが全体のためである」の考えが妥当かもしれません。

「Yesと言わなければ今後、関係が悪くなるだろう」と不安につながる予測をしたのかもしれません。その予測の妥当性はどうなのでしょう。ただ一回の「他の人にお願いしたい」の言葉が、今後の関係を決めてしまうと考えるのは極端すぎるかもしれません。

このときのAさんは、上司に不満を感じながらも、黙って受け入れることにしました。そして、後輩のB君に手伝ってもらえないだろうかと考えました。

Aさん
Aさん

B君に手伝ってもらおうかな。

でも忙しいって言ってたな。

頼んだら迷惑だろうな。イヤがるだろうな。

後輩B君に対しても、頼むとイヤがられるだろうとの不安にとらわれました。嫌われるかもしれないとまで考えたかもしれません。不安が強くて依頼できませんでした。腹を決めて残業することにしました。

Aさん
Aさん

仕方ない。

自分で何とかしよう。

ふとB君の様子を見ると、その日は何となく余裕がありそうです。頼んでみようかなと思いながらも踏ん切りがつきませんでした。定時になった瞬間、B君は「お先に失礼します!」と速攻で帰りました。Aさんは何だかモヤモヤしながら残業に突入しました。

Aさん
Aさん

頼んでみれば良かった。。。

私はいつも「お願い」の一言を言えない。

どうしてこうなんだろう。

B君に頼むことを躊躇した自分にモヤモヤしました。同じことが以前にあったのでしょう。

Aさん
Aさん

B君も余裕があるなら、
声をかけてくれても良かったんじゃないの。。

モヤモヤが高じて、心の中でB君へ八つ当たりしてしまいました。

B君に依頼したらどうなっていたでしょう。

「イヤがるだろうな」の考えは予測であって、事実がどうかわかりません。しかし、そう考えた瞬間のAさんは、確信に近い感覚でいたと思われます。イヤがられた結果、今後の関係が悪くなるとまで考えたかもしれません。

B君に用事があって、手伝ってほしいと依頼してもキッパリ断られた可能性もあります。もし、そうなったとしても、Aさんという人格を拒否したわけではありません。今後、関係が悪くなると考えるのは極端すぎると思われます。

人間関係に悩みやすい人は、自分自身と否定的なコミュニケーションを取る傾向が強いです。否定的な考えと、否定的な考えに基づく行動が、更に人間関係をむずかしくさせる悪循環に陥ることがしばしばです。

Aさんの考えが妥当な場合もあるでしょう。仮にそうであっても(その場合は別のアプローチで解決を目指しますがここでは省略します)、極端な思い込みで何の検討もせずにガマンするのと、色々な可能性を検討して現実的な対処を行うのでは、心のあり方が変わってきます。

他人とのコミュニケーション

翌日Aさんが出社すると、既にB君が出社していました。機嫌が良さそうなので、「何かあったの?」と聞きました。ゲーム好きのB君。通販で購入した新しいゲームが届いて、昨夜は散々遊んでご機嫌とのことです。

Aさんの心の中に、昨日のモヤモヤがよみがえってきました。

上司は今日も割り込みの仕事を振ってきました。

上司
上司

Aさん、ごめん。

得意先の○○さんの依頼だから、何とか頼む

Aさんは「今日こそは!」と思って、Bくんに頼むことにしました。

苦手な行動を起こすには思い切りが必要です。昨日のモヤモヤが加わって、強くて険のある言葉になってしまいました。

Aさん
Aさん

Bくん、この仕事お願い!

昨日リフレッシュしたから楽勝でしょ!!

B君
B君

(Aさんの勢いに戸惑いながら)

はい…期限はいつですか…

Aさん
Aさん

明日!

急ぐからよろしくね!!

B君
B君

はい…

(そんな言い方しなくても!)

Aさんが自分の席に戻るの見ながら、B君はモヤモヤ、イライラしてきました。

B君
B君

何で、あんな言い方するの!?

気分で仕事するの勘弁してよ!

一方、Aさんは自分の発言を後悔して、不安になって、落ち込んでしまいました。

Aさん
Aさん

何で、あんな言い方してしまったのだろう…

B君、気分悪くしてるだろうな…

しばらくAさんとB君は、お互いにギクシャクした感じで過ごすことになりました。

否定的な考えに基づく行動は、否定的な考えを実現させることがあります。Aさんのケースでは、上司やB君に嫌われないためのコミュニケーション(行動)が、B君を不快にさせました。繰り返すと本当に嫌われる結果もありうるでしょう。

このようなコミュニケーションを改善するためのスキルを2つ紹介します。「偏った考え方に対処するスキル」と「コミュニケーションスキル」です。

偏った考え方に対処するスキル

その日の夜、帰宅したAさんは今回の件について振り返る時間を持つことにしました。食事をとって、細々した事をすべて済ませて、お風呂に少しゆったり目に入って、落ちついた状態で取り組むことにしました。

一人で行うときは、先に用事などを済ませておいて、気がかりなことに煩わされない状態で行うのが好ましいです。カウンセリングの効果は、非日常的な場所と時間という環境からも、もたらされています。

まず、上司のとの会話を振り返ることにしました。

上司
上司

Aさん。

この仕事、明日が期限なんだけどお願い。

Aさん
Aさん

は、はい。。。

そのとき頭に浮かんだ考えは以下でした。

Aさん
Aさん

また上司が仕事を振ってきた。

よりによって期限は明日!

今の仕事も明日が期限なのに。。。

Aさん
Aさん

上司はいつもこんなタイミングで仕事を振ってくる。

もっと早めに言ってくれたら調整できたのに!

Aさん
Aさん

でも、上司にNoと言うわけにはいかないし。。。

Aさんは「今の仕事の期限が明日なので、他の人にお願いしたいです」と言えませんでした。自己主張はAさんの以前からのテーマでした。「上司にNoと言ってはいけない」という考えが自己主張を阻害しています。この考えを検討することにしました。

以下の質問を自分にして検討しました。

【質問①】その考え(上司にNoと言ってはいけない)が正しい根拠は何だろう?
【回答①】上司の指示は会社の指示だから。業務命令だから。

【質問②】その考えが間違いだとすればどのような根拠があるだろう?
【回答②】部署や会社にプラスになる提言は積極的に行うのが望ましい。上司が気づいていないことは報告すべき。上司に状況や要望を伝えるのは、上司に対するNoではない。

【質問③】別の見方をするならどのような考えがあるだろう?
【回答③】上司に常にNoを言ってはいけないと考えるのは行き過ぎ。そもそも、上司に状況や要望を伝えるのは、上司にNoと言っていることにならない。

こうして自分の考えを俯瞰してみると、要望を伝えるくらいならできそうな気持ちになりました。気持ちが少し軽くなったので、続いてB君との件も検討してみました。

Aさん
Aさん

B君に手伝ってもらおうかな。

でも忙しいって言ってたな。

頼んだら迷惑だろうな。イヤがるだろうな。

「頼んだら迷惑だ」「イヤがるだろう」の考えを検討することにしました。この考えがB君へ依頼するのを躊躇させたからです。上司の件とは別の質問を自分にしてみました。

【質問④】B君に頼んだときに起こりうる最悪の結果は何だろう?
【回答④】「残業が前提の仕事を押しつけないで下さい!」と怒りをぶつけられる。

【質問⑤】最悪の結果が起きたら、切り抜けられるだろうか?
【回答⑤】数日程度、ギスギスするかもしれないが、時間が解決するだろう。

【質問⑥】最高の結果が起きるとしたら、それは何でだろう?
【回答⑥】快く引き受けてくれた上に、「他にありますか?」と聞いてくれる。

【質問⑦】以上を踏まえて現実的な結果はどのようなことが考えられますか?
【回答⑦】渋い顔をして「ここまではできますが、ここからは無理です」と言われる。

【質問⑧】そうなったら、どうする?
【回答⑧】一部でもやってもらえると助かる。お礼を言って分担を相談する。

冷静に考えてみると、起きる可能性が低いことを、起きるに違いないと考えて自分を縛っているように感じました。次の機会があれば、少なくともB君に打診することはやってみようと思いました。

上記の【質問】【回答】は認知行動療法の技法の一つ、認知再構成法で用いられるものです。

コミュニケーションスキルの習得

Aさんのコミュニケーションの特徴は、自己表現が控え目で受身的なことです。

自己表現には以下の3つのタイプがあります。

  • 非主張的
  • 攻撃的
  • アサーション(またはアサーティブ)

それぞれの特徴を紹介します。

非主張的コミュニケーション

自分の気持ちを言わない・言えない・言いそびれる・あいまいで伝わりにくい自己表現です。「角が立たない言い方を教えてほしい」と聞いてくるのはこのタイプです。もめごとを避けたい、嫌われたくない、相手の気分を害したくないといった気持ちの強さがあります。

Aさんのように、相手の気持ちを害さないようにガマンを重ねて、限界になると強い態度に出ることがあります。周囲にとっては、「いきなり何なの!?」となり、相手が気分を害したり、角が立ったりする結果になることもあります。

相手を大切にしていますが、自分を大切にする姿勢が足りないコミュニケーションです。「I’m not OK, You’re OK」と表現されます。

攻撃的コミュニケーション

非主張的な人と真逆で、はっきり自己主張するタイプです。自分の考えや気持ちをはっきり表現するところまでは望ましいと言えます。しかし、相手の気持ちや考えを考慮せずに、自分の気持ちや考えを押しつけるのは望ましくありません。

時には譲れないこともあるでしょう。しかし、毎回それでは他者から敬遠されます。人間関係をうまく築くことができずに孤立してしまうことがあります。

自分を大切にしていますが、相手を大切にする姿勢が足りないコミュニケーションです。「I’m OK, You’re not OK

アサーション(アサーティブコミュニケーション)

相手も自分も尊重する

アサーションとは、自分も相手も大切にするコミュニケーションです。自分の気持ちや考えを素直に正直に伝えて、伝えた相手の気持ちや考えを受け止めます。「I’m OK, You’re OK」のコミュニケーションです。

アサーション(アサーティブコミュニケーション)の発祥はアメリカです。日本に持ち込んだのは第一人者である平木典子先生です。アサーション(assertion)を英和辞書で引くと「主張、断言」と記されています。ニュアンスが異なるので、カタカナ読みで表記することにして今に至ります。

「相手を大切にする=自己主張を控える」「自分を大切にする=相手を説得する」という発想を持つ人は、発想の転換が必要になるかもしれません。思い通りに進むとは限らないからです。お互いに折り合える着地点を目指す姿勢、歩み寄りが求められます。

良い人間関係を構築して継続するには、アサーティブな姿勢が望ましいです。ただし、常にアサーティブでなければいけないと考えるのは行き過ぎです。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、状況に応じて非主張的または攻撃的を選択するのもアサーティブな姿勢と言えます。

アサーティブコミュニケーションの型

アサーティブコミュニケーションを実践するには、自分の気持ちや考えに気づいて言語化することが必要です。カウンセリングでは、Aさんの例で紹介したような対話を重ねて、気持ちや考えを言語化するお手伝いします。

言語化したら次は伝え方です。DESC法として知られている型を紹介します。以下の4つのステップで伝えます。

【Describe】事実を客観的・具体的に伝える
【Express】表現する
【Specify】具体的な提案や依頼を行う
【Choose】選択する・代替案を用意しておく

【Describe】事実を客観的・具体的に伝える

最初のステップは、伝えたいことや話し合いたいことなどを、主観を交えず客観的に、具体的に伝えることです。

上司
上司

Aさん。

この仕事、明日が期限なんだけどお願い。

Aさん
Aさん

昨日依頼された○○の件を今やっていますが、この期限も明日です。

【Express】表現する

伝えたいことや話し合いたいことについて、自分の考えや気持ちを伝えます。最初のステップは客観的に、次のこのステップでは主観的に表現します。具体的に表現するのは同じです。曖昧な表現は誤解の元です。

感情的にならないことです。感情的になると相手は防衛態勢になります。話し合いを拒否したり、攻撃的な態度を取られやすくなります。健全な話し合いがむずかしくなります。

Aさん
Aさん

明日期限の仕事の追加はとても厳しいです。

【Specify】具体的な提案や依頼を行う

相手に対して、具体的な提案や要求を伝えます。あれもこれも欲張るのは望ましくありません。一度に一つが望ましいです。

Aさん
Aさん

他の人に担当してほしいです。

【Choose】選択する・代替案を用意しておく

相手には依頼を断る場合もあります。「何としても要求を通す!」はアサーティブな姿勢ではありません。「自分もOK、相手もOK」の姿勢がアサーティブです。断られたときに備えて対案を用意しておきます。

上司
上司

この仕事はAさんが適任なので、何とかしてもらえないだろうか。

Aさん
Aさん

半分なら何とかできると思います。あと半分は別の人に担当してもらえませんか。

実際はこれほど単純なものではありませんが、感覚を伝えるのを優先して単純化してみました。

カウンセリングでは

コミュニケーションスキルが向上すると、日々のやりづらさが軽減されることに加えて、自分に対する自信が向上します。人は社会的な存在で、他者との関わりを通して自分自身を育てていくからです。

カウンセリングでは、型に沿ってコミュニケーションを組み立てたり、ロールプレイで疑似体験していただくなど、実際に起きた際に適切に対処できるようにサポートします。

ここではコミュニケーションに取り組む例を紹介しました。もちろん、これがすべてではありません。コミュニケーション以外に取り組む場合もあります。コミュニケーションに取り組む場合でも、人によって内容は変わります。一例として捉えて下さい。

自他の境界

人間関係・コミュニケーションが苦手な人に見られる特徴の一つに、「自他の境界」があいまいなこと、境界を引けないことがあげられます。

わかりやすく説明するために、極端な作り話を用います。ある母親と娘の例です。

母は娘に、結婚して家庭を持ち、実家の近くに住み、専業主婦になって、子どもを授かって、娘と孫と一緒に過ごす生活を夢見ていました。

ところが、娘はバリバリ働いてキャリアを積むと決めていました。結婚もできればいいと思いますが、仕事が犠牲になるくらいなら独身がいいと考えています。

境界が健全なとき

自他の境界が健全に引けているとき、以下のように考えます。

母

娘の決断は悲しい。でも、娘の人生。この悲しみを引き受けるのは自分

娘

おかあさん、ごめんね。心苦しさはあるけど、私は私の人生を歩みます。

境界が不健全なとき

自他の境界が曖昧なとき、以下のような感情が生じます。

母

一生懸命育ててきたのに裏切られた。

悲しみや怒りを感じました。その気持ちに共感はできます。しかし、キツい言い方になりますが、その悲しみは母の都合によるものです。娘の責任ではありません。

母の傷ついている様子を見て、娘はこのように思いました。

娘

私は親不孝なのかも。母の望みを叶えるべきなのか。

娘は罪悪感を抱きました。繰り返しになりますが、母の傷つきは母の都合によるものです。娘の責任ではありません。

ゲシュタルトの祈り

「ゲシュタルトの祈り」という有名な詩があります。自他の健全な境界を表現しています。

私は私のために生き、あなたはあなたのために生きる。

私はあなたの期待に応えて行動するためにこの世に在るのではない。

そしてあなたも、私の期待に応えて行動するためにこの世に在るのではない。

もしも縁があって、私たちが出会えたのならそれは素晴らしいこと。

出会えなくても、それもまた素晴らしいこと。

フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法の創始者)とローラ夫人による

「I’m OK, You’re OK」が表現されています。

参考:夫婦・カップルのコミュニケーション

夫婦・カップル関係のサポートにおいては、コミュニケーションとカンバセーションを区別して使用しています。感情と論理のコミュニケーション、関係性と内容のコミュニケーションと表現されることもあります。詳しくは以下のページをご覧下さい。

動くから何かが変わる

じっとしている間は何も変わりません。まずは動いてみることです。一度お試し下さい。具体的な取組をお示しできると思います。継続するか否かは、その後にお考え下さい。

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