ストレスの対処

執筆者:公認心理師・山崎孝

日々の生活で感じるストレス。一つひとつが小さいからこそ、気づかぬうちに蓄積して、気づいたときには、気持ちも身体も動かないといったことが起こり得ます。日常生活におけるストレスケアのサポート、セルフケアのサポートを行っています。

そもそもストレスとは?

ストレスは、身体的または心理的な安定を脅かすような外部からの刺激に対する身体や心の反応です。この反応は、私たちを守るためのものであり、短期的なストレスは集中力を高めることもあります。しかし、長期間にわたるストレスは、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

私たちを守るもの

ストレス反応は、直面する危険に対応するための自然なメカニズムでもあります。「闘争逃走(闘うか逃げるか)反応」という言葉を見聞きしたことがあるかもしれません。緊急時には「戦うか逃げるか」という形で、自分を守るための即時のエネルギーを提供します。

集中力を高めるストレス

適度なストレスは、集中力やパフォーマンスを向上させることがあります。締切があるからこそ、集中して取り組み、その積み重ねが能力を向上させます。適切な目標設定が意欲を高めたり、目標を達成する過程が能力を向上させます。

健康に悪影響を及ぼすストレス

一方で、高負荷によるストレスが、心身の健康に多くの悪影響を及ぼすことがあります。長期間にわたる高いストレスは、不安、うつ病、心臓病、睡眠障害など、多様な健康問題のリスクを高めます。ストレスは適切に管理される必要があります。

ストレスの理論

ストレスに関しては、心身の健康に対する深い影響を解明する多様な理論が存在します。ここでは代表的な理論のいくつかを簡単に紹介します。

ウォルター・キャノンの「戦うか逃げるか」反応

キャノンの理論は、ストレス反応が生存のために瞬時に身体を準備することを示しました。これはストレスの生理学的基盤を理解する最初のステップでした。

ハンス・セリエの「汎適応症候群」

ハンス・セリエは、ストレス反応に関する研究で知られる生理学者です。ストレスは元々、物理学の用語です。セリエが医学および生物学の文脈で用いて以来、現在の意味で用いられるようになりました。

セリエは、ストレスに対する身体の適応プロセスを、警告反応、抵抗段階、そして疲弊段階の三つに分類しました。この理論は、長期的なストレスの健康への影響を明らかにしました。

ラザラスとフォルクマンの「認知的評価モデル」

ラザラスとフォルクマンは、ストレスは単に出来事そのものによって生じるのではなく、個人がその出来事に対してどのように意味づけを行うかによって生じるとします。

彼らの理論では、ストレス反応は二つの認知過程によって意味づけされると説明しています。第一に、特定の刺激が脅威をもたらすかどうかを評価します(一次評価)。次に、その脅威に対処するための自身の能力や資源を評価します(二次評価)。

これらの評価の結果によって、個人がストレスを感じるかどうかが決まるとしています。

スティーブン・ポージェスの「ポリヴェーガル理論」

ポリヴェーガル理論は、安全感と社会的つながりがストレス反応に与える影響を解明しました。この理論は、トラウマやストレス管理における新たなアプローチを提供します。

ストレスのサイン

ストレス要因をストレッサー、ストレッサーへの抵抗をストレス反応といいます。ゴムボールを比喩に用いて説明されることが多いです。

日々の生活におけるストレッサーの一つひとつは小さいものであっても、徐々に蓄積して、気づかぬうちに大きくなっていることがあります。

ストレスのサインは多岐にわたり、個人差がありますが、いくつかの一般的な兆候をあげることができます。身体的なサインとしては、頭痛、疲労感、睡眠障害、胃腸の問題があります。心理的なサインには、不安、イライラ、集中力の低下、抑うつ感が含まれます。

これらのサインを早期に認識し、適切に対処することで、ストレスによる影響を最小限に抑えることができます。

身体のサイン

  • 心拍数や呼吸の変化:心拍数の急上昇や呼吸の速さは、ストレス反応の一部です。
  • 筋肉の緊張:肩こりや頭痛など、体の緊張はストレスの物理的な表れです。
  • 消化器症状:ストレスは消化不良、胃痛、食欲不振など、消化系統に影響を与えます。
  • 睡眠障害:ストレスは睡眠パターンを乱し、質の低下を引き起こすことがあります。
  • 疲労感:慢性的なストレスは、常に疲れやすい感じを引き起こすことがあります。

心のサイン

  • イライラ:小さなことで怒りやすくなるのは、ストレスの典型的なサインです。
  • 不安:漠然とした不安感や心配事が多くなるのも、ストレスが原因かもしれません。
  • 集中力低下:作業に集中できなかったり、物忘れが増えたりすることもあります。
  • 気分の落ち込み:悲しみや無力感を感じやすくなることがあります。
  • 無気力:何もする気が起きない、やる気が出ない状態もストレスが原因です。

行動の変化

  • 暴飲暴食:ストレスを感じると食べ物で感情を紛らわせようとすることがあります。
  • アルコールやタバコへの依存:ストレスが原因で、これらの物質に頼ることが増えるかもしれません。
  • 社会的引きこもり:人との交流を避けるようになることがあります。
  • 衝動的な行動:ストレスが高まると、衝動的に行動することがあります。

ストレスケアの方法

  • リラクゼーション:瞑想、深呼吸、ヨガなどのリラクゼーション技法は、心身をリラックスさせ、ストレスを軽減します。
  • 運動:定期的な運動は、ストレスを軽減し、全体的な健康を向上させます。
  • 時間管理:効果的な時間管理を行うことで、過度なプレッシャーや急ぎの作業を避けることができます。
  • 生活習慣:バランスの取れた食事、十分な睡眠、アルコールやカフェインの摂取を控えることが重要です。
  • 社会的サポート:家族や友人との良好な関係は、ストレスの感じ方を軽減し、解決策を見つけるのに役立ちます。

一次予防としてのカウンセリングのすすめ

予防医学では、病気を未然に防ぐための一次予防、既に発生した病気を早期に発見し治療することを目指す二次予防、そして病気が進行したり、悪化したりするのを防ぎ、患者の生活の質を向上させるための三次予防に分けられます。

  • 一次予防は、病気が発生する前にリスク要因を排除または軽減する取り組みです。健康な生活習慣の促進や予防接種がこれに当たります。
  • 二次予防は、病気の早期発見と早期治療を目指します。定期的な健康診断やスクリーニング検査が重要です。
  • 三次予防は、病気の悪化や合併症を防ぎ、患者の回復を支援する取り組みです。リハビリテーションや慢性病の管理がこれに含まれます。

当カウンセリングルームでは、一次予防としてのカウンセリングをお勧めしています。

二次、三次の段階になると、定期的な、中長期的な治療的取り組みを要することが多くなります。労力と金銭的コストが大きくなります。一次であれば、労力も金銭的にも、低コストでの予防が可能です。不定期に、思いたったときに、心のマッサージ感覚で利用される方もいらっしゃいます。

カウンセリングでは、安全な環境で自由に話すことによるカタルシス効果と、気持ちをマイナスにさせやすい思考や行動(のクセ・習慣)の対処をサポートします。セルフケアの向上をサポートします。