認知行動療法

執筆者:公認心理師・山崎孝

認知(考え方)と行動を変えることで、悩みや症状の軽減・解決を図ります。変えるとは、今の枠を捨てるのではありません。今の枠を維持したまま新しい枠を取り入れて、状況に応じて現実的な選択をすることです。変えるより幅を広げるが正確かもしれません。

認知行動療法は、習慣的に繰り返される非適応的な思考と行動のパターンを変化させることによって、症状や問題行動を改善する心理療法です。

行動療法と認知療法はそれぞれ独自に発展してきました。2つが統合へ向かい認知行動療法となりました。精神疾患の治療にとどまらず、多くの領域で用いられています。大きな書店に行くと、認知行動療法によるセルフケアの書籍が置いてあるはずです。

認知行動療法の基本モデル

認知行動療法では、クライエントの現状を以下のモデルに沿って理解します。

個人に起きていることを、認知・感情・身体・行動の4つ領域に分けて理解します。認知とは「思考・解釈」と言い換えることができます。身体は震えや動悸などの症状的なものです。

思考と行動を変えることで苦痛の軽減を目指す

具体例を示してみます。

認知(思考・解釈)は予想であり事実かどうかわかりません。①は「友人は私に怒っている」と予想して不安になりました。友人を避けるようになりました。不安が大きいときには、予想と事実の区別がつかなくなっていることもしばしばです。

その出来事が、19時のJR大阪駅のホームでのことなら、どのようなことが考えられるでしょう。友人は単に聞こえなかったのかもしれません。何か考えごとをしていたのかもしれません。翌日に「昨日ね」と聞いてみると、別の現実があるかもしれません。

このように、認知と行動を変えることで苦痛に対処します。技法としては、認知再構成法・行動実験と呼ばれるものです。

ポジティブシンキングではありません。友人が本当に怒っていることもありえます。その場合は問題解決に取り組みます。思考と行動の幅を広げて、現実的・適応的な選択を行う心理療法です。

特徴

日常生活において起こる問題に対処しながら、クライエントがセルフケアできるようになることを目指します。うつ病は再発しやすい病気ですが、認知行動療法を行うと再発しにくいメリットがあります。

日常生活で起こる具体的な問題への対処を得意としますが、生き方、人生の意味、自己成長などのテーマには向きません。当カウンセリングルームでは認知行動療法、家族療法、来談者中心療法等を折衷的に用いてサポートを行っています。

新しい流れ

思考や行動を変容させるのではなく、思考の影響力を低下させることを目指す新しい流れがあります。マインドフルネスに代表されます。

うつ病の再発メカニズムの研究によると再発する人は、ちょっとした抑うつ気分に反応して、悲観的な思考が次々と引き起こされる、反すう思考が見られたということです。そのような思考から距離を取り、影響力を低下させることの有効性が確認されています。

参考文献

  • ジュディス・ベック(2015)『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版』星和書店
  • 蟹江絢子・堀越勝(2020)『スーパービジョンで磨く認知行動療法 うつ病篇』創元社
  • 熊野宏昭(2012)『新世代の認知行動療法』日本評論社