執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
結婚前の悩み
結婚前に感じる「ちょっとした」スレ違いや違和感。それらは結婚後に「ちょっと」ではないレベルになることがあります。期待や楽しさが上回るはずの時期に、ネガティブな気持ちが上回っているのは、「立ち止まって考えなさい」のサインなのかもしれません。
結婚生活の期待・価値観の整理とすり合わせ
結婚前カウンセリングの目的は、2人の結婚生活における期待や価値観を整理して、コミュニケーションのスキルを向上させ、将来的な課題に備えるためです。具体的なテーマは以下が考えられます。
コミュニケーション
お互いの考えや気持ちの相互理解を深めるコミュニケーションを構築する機会にできる。
金銭問題
金銭に関する価値観や期待が大きく異なる場合、将来の問題を防ぐためにこれらの違いを話し合う必要があります。
家族計画
子どもを持つかどうか、または何人ほしいかなどの重要な話し合い。
心の傷
どちらかまたは両方のパートナーが、機能不全家族で育ったことによる心の傷を抱えていて、それが関係に影響を与えそうな兆候があれば、早めに取り組む価値が大いにあるはずです。
結婚生活に不安を感じること
結婚前に感じたちょっとした違和感や不安が、結婚後に大きな問題として目の前に立ちはだかることがあります。ちょっとした違和感や不安とは、例えば以下のようなものです。
束縛
プライベートの時間は常に一緒にいることを求められる。友人、会社の同僚、家族などと会いに行くことに不満を示される。
察してほしい
要望や不満を直接的な言葉で伝えてくれず、不機嫌さなど態度で示される。その態度が何を示しているのか判断がむずかしく。顔色を伺うようになる。
お金
お金の使い方に口を出してくる。結婚生活のためにと節約を求めてくる。相手に求める割に自分は自由は使っているように見える。
会話が成立しない
話の焦点が次々に変わっていったり、意図的にずらされている気がする。大切な話を持ちかけても話し合いができない。
感情の起伏が激しい
先ほどまで仲良くしていたのに、急に不機嫌になって戸惑う。何がそうさせるのかわからない。
結婚前カウンセリングが注目される背景
始まりはアメリカとされています。目的は離婚の予防です。
離婚の3割は結婚5年未満
下表は厚生労働省の人口動態統計より抜粋して整理したものです。離婚の3割は結婚5年未満の夫婦によるものです。また、数字上では3分の1の夫婦が離婚していることになります。
年度 | 総数 | 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 15年未満 | 15年以上 20年未満 | 20年以上 | 不 詳 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2019年 | 208,496 | 63,826 | 40,052 | 27,220 | 22,629 | 40,396 | 14,373 |
2018年 | 208,333 | 64,862 | 40,863 | 27,597 | 22,460 | 38,537 | 14,014 |
2017年 | 212,296 | 66,502 | 42,339 | 28,232 | 22,956 | 38,288 | 13,979 |
2016年 | 216,856 | 68,028 | 44,407 | 29,537 | 22,995 | 37,609 | 14,280 |
2015年 | 226,238 | 71,729 | 47,086 | 31,112 | 23,942 | 38,648 | 13,721 |
離婚理由の第1位は「性格の不一致」
令和3年4月に公表された法務省の『協議離婚に関する実態についての調査研究業務報告書の公表について』によると、離婚原因の第1位は性格の不一致」でした。
順位 | 原因 |
---|---|
1位 | 性格の不一致 |
2位 | 身体的な暴力 |
3位 | 精神的な暴力 |
4位 | 経済的な暴力 |
5位 | 子への虐待 |
そもそも、性格の不一致は問題なのでしょうか。生活において不一致は必ず起きると考えて間違いありません。不一致が起きないのを目指すのではなく、不一致が起きても、互いが納得できる着地点に到達できることが大切なはずです。
何はともあれコミュニケーション
「結婚したら変わってくれるだろう」の期待は概ね裏切られます。むしろ、結婚前に感じる違和感や不満は、結婚後に更に大きくなるのはめずらしくありません。
日常の会話は楽しいけれど、大切なことについて話ができない、相手がどう考えているのかわからない。空気を悪くしたくないから、ぶつかりそうな話題は持ち出さない。そのような状態は、仲は良いけれど、関係が良いとは言えないでしょう。
共働きが当たり前の社会になりました。共働きの夫婦に子どもが誕生すると、間違いなく夫婦はキャパオーバーになります。余裕がなくなると衝突が起きやすくなります。
衝突が起きても、2人がある程度納得できる着地点に到達できるコミュニケーションが実現できれば、危機も関係を育む機会(チャンス)に転じることが可能になるでしょう。
うまく話し合いができないテーマ。2人のときに持ち出しにくいテーマ。それらについて、カウンセラーを交えて3人で話し合いを行います。「このように話せば伝わる」「このように聞けばほしい返事がもらえる」。そのような体験をしながら、コミュニケーションを確立していきます。
治療より予防
メンタルヘルスには以下の3つの予防があります。
- 一次予防:不調の未然防止(メンタル不調にならないための取り組み)
- 二次予防:早期発見・早期治療(メンタル不調を早く発見して治療につなげる)
- 三次予防:職場復帰・再発防止(進行したメンタル不調の治療と再発防止)
一般的に予防というと、一次予防を想像すると思います。二次・三次は治療と呼ぶ方がしっくりくると思います。数字が上がるほど回復に時間がかかり、負担が大きくなるのは説明するまでもないと思います。
夫婦に当てはめると、以下のようになるかもしれません。
- 一次予防:コミュニケーションの構築、相互理解を深める
- 二次予防:問題の早期対処
- 三次予防:問題が深刻になってからの対処
夫婦カウンセリングで来談される夫婦の多くは、二次・三次予防の状態です。解決には時間と労力要します。離婚に至るケースも当然あります。結婚前(プリマリタル)カウンセリングは、一次予防的な取り組みです。
結婚初期の夫婦にも
一次予防が重要と主張しましたが、実際のところ人は、問題が起こるまで行動を起こすのはむずかしいと思います。それでも、一次予防に取り組めるカップルには是非、利用していただきたいと思います。
同時に、結婚初期の夫婦に二次予防(早期発見・早期治療)としてのカウンセリングをオススメします。「どうして?」「こんなはずでは」と頭の中でつぶやく機会が増えたと感じたら、一つの目安になると思います。
夫婦カウンセリング(心理療法)について
カウンセリング(心理療法)について
当カウンセリングルームでは、夫婦・カップルの関係性・相互交流と個人の思考・行動のパターンの双方に働きかけることによって問題解決をサポートします。
夫婦・カップルの関係性・相互交流に焦点を当てるのは家族療法です。家族療法は、家族など複数人から成る集団の関係性・相互交流の変化を通じて、悩みや問題の改善・解決を図るカウンセリングです。
ブリーフセラピー(短期療法)とは、家族療法の一学派です。「短期」の名の通り、効果的かつ効率的な改善・解決を志向するカウンセリングです。
認知行動療法とは、状況や環境に合わせて思考と行動を柔軟に選択することで、悩み・問題の改善・解決を図るカウンセリングです。
カウンセラーの資格と研鑽
当カウンセリングルームのカウンセラーが保有する資格です。
カウンセラーには継続的な技能と知識の向上が求められます。多くの学術団体は一定数の研修を義務をづけています。それらに加えて多くのカウンセラーは、自主的に研修・ワークショップを受講しています。また、当相談室のカウンセラーは、学術団体のスーパーバイザーから毎月指導を受けています。