カサンドラ症候群

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

自閉スペクトラム症(ASD)またはグレーゾーン(傾向が認められるが診断基準を満たさない人)のパートナーとの関係によって、心理的な苦痛を体験している状態をカサンドラ症候群といいます。

心理的苦痛とは、例えば

  • パートナーの言動を理解できない
  • 自分の気持ちが伝わらない
  • 周囲に理解してもらえない

などのことです。

注意欠如・多動性症(ADHD)を持つパートナーとの関係においても、同様の心理的苦痛を体験することがあります。近年では、自閉スペクトラム症(ASD)に限定せず、発達障害を持つパートナーと同様の体験をしている人々を含めることもあります。

カサンドラ症候群は医学的な診断名ではありません

もう少し詳しく

カサンドラ症候群の語源は、ギリシャ神話に登場するトロイの王女、カサンドラに由来しています。

カサンドラは、太陽神アポロンから予知能力を授けられましたが、その能力でアポロンに捨てられる未来を予知したため、アポロンの怒りに触れて「カサンドラの予言を誰も信じない」という呪いをかけられました。

カサンドラ症候群の特徴は、パートナーが経験する苦痛が周囲から理解されにくいことにあります。カサンドラのように、自分の訴えを誰にも信じてもらえない状況に置かれるという点で名付けられました。

自閉スペクトラム症(ASD)の夫を持つ妻が、周囲に相談しても理解してもらえないケースが典型例としてあげられます。また、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを持つや、職場でASDの人と関わる人なども、カサンドラ症候群に陥ることがあります。

先にも触れた通り、カサンドラ症候群は医学的な診断名ではありません。共通の経験を共有し、理解を深めるために用いられています。

症状と兆候

カサンドラ症候群における主な症状には以下のようなものがあります。

  • コミュニケーションの困難
    • 相手の言葉や行動の意図を理解するのがむずかしい、または誤解を招く。
  • 共感の欠如
    • パートナーからの感情的な支持や共感が不足していると感じる。
  • 孤立感
    • 自分の感情や経験が周囲に理解されないことによる孤立感や疎外感。
  • 不安やストレス
    • 関係の不安定さや継続的なコミュニケーションの問題によるストレスや不安。

3.背景と要因

カサンドラ症候群が発生する背景には、以下のような要因があります。

  • 発達障害の特性
    • ASDやADHDの特性により、パートナー間のコミュニケーションスタイルや感情の表現が異なるために、誤解やコミュニケーションの困難が生じる。
  • 感情的なニーズの違い
    • 感情的な支援や共感のニーズが満たされないことによるフラストレーション。
  • 社会的な理解の不足
    • 発達障害に対する社会の認識や理解が不十分であるため、外部からのサポートや共感が得られにくい。

このような状況は、非発達障害のパートナーにとってストレスであり、孤立感や不安を増大させます。周囲がカサンドラ症候群に関する理解を深めることは、苦痛の軽減・改善への第一歩です。

カサンドラ症候群の影響

カサンドラ症候群によって受ける影響には、心理的影響、身体的影響、社会的・関係的影響に分けて説明します。

心理的影響

カサンドラ症候群による心理的影響には以下のようなものがあります。

  • ストレスと不安
    • パートナーとのコミュニケーションの困難や感情的なニーズの不一致が引き起こすストレスや不安。
  • 孤立感と疎外感
    • 自分の感情が理解されない、または共感を得られないことによる孤立感や疎外感。
  • 低い自尊心
    • パートナーとの関係において、自分の価値や重要性に疑問を感じる。
  • 抑うつ感情
    • 継続的なストレスや孤立感から、抑うつ状態に陥る。

身体的影響

心理的ストレスは身体的な健康にも影響を及ぼす可能性があります。

  • 疲労感
    • 心理的ストレスによる慢性的な疲労。
  • 睡眠
    • 不安やストレスによる睡眠の質の低下。
  • 身体症状
    • 頭痛や消化不良などの身体症状が発生することがある。
  • 免疫系の低下
    • 慢性的なストレスが免疫系に影響を与え、病気になりやすくなる。

社会的・関係的影響

カサンドラ症候群は、社会的関係やパートナー関係にも影響を与えます。

  • 社会的な孤立
    • パートナー関係にエネルギーを費やして他の関係が希薄になる。周囲に理解してもらえない。
  • 関係の緊張
    • パートナーとの間の誤解や不満が関係に緊張を生じさせる。
  • サポートの不足
    • カサンドラ症候群に対する理解の不足により、友人や家族などのサポートや助けを得られにくい。
  • 職場での問題
    • 家庭内のストレスが職場のパフォーマンスを低下させることがある。

カサンドラ症候群のこれらの影響は、個人の健康や幸福におおきな影響を及ぼす可能性があります。適切な理解とサポートが重要です。

対処とサポート

絶大な効果を得られる対処法は中々ありません。ストレスコーピング(ストレス対処法)は、多くのバリエーションを持つことが望ましいです。一つひとつの効果は小さくても、集まれば大きな効果につながります。

個人的な対処

  • セルフケアの実践
    • 趣味やリラクゼーション活動を通じて、自分自身の幸福を優先する。
  • 感情表現の練習
    • 日記をつける、創造的な表現活動(芸術、音楽など)に取り組むことで、感情を健康的に表現する。
  • ストレス管理
    • 瞑想、ヨガ、軽い運動などを通じてストレスを管理する。

専門家による支援

  • カウンセリング
    • カウンセラーとの定期的なセッションを通じて心理的な支援を受ける、コミュニケーションスキルを向上する、様々なコミュニケーション方法を得る。
  • サポートグループ
    • 同じ状況を経験している他の人々とのグループに参加し、経験を共有する。
  • 教育と情報
    • 専門家から、カサンドラ症候群に関する教育や情報を受ける。

カウンセリングと治療

カウンセリングは、パートナーとの相互交流の改善と個人の心理的支援が主目的となります。治療とは精神科による治療です。抑うつ症状や不安症状が投薬を必要とする程度に重くなることもあります。

カウンセリングの役割と方法

カウンセリングは、個人が自分の感情や状況について話し、理解し、解決策を見つけるのを支援します。カウンセラーは、非批判的な聴き手として、感情的なサポートを提供し、コミュニケーションや関係の改善に向けた具体的な提案を行います。

例えば、考えや感情を明確化する支援を行います。明確化・言語化して自分の中で整理が進むと、心理的な負荷が小さくなるものです。他には、2人の会話に参加して、相互理解が深まるコミュニケーションを実現する支援を行います。ストレスや不安の対処方法の提案なども行います。

医療機関での治療

抑うつ症状や不安症状が重い場合は、精神科にて薬を処方してもらう必要があるかもしれません。精神科のお薬に抵抗を示す方は少なからずいらっしゃいますが、医師の指示に反することしなければ、心配することはありません。身体への悪影響という点では、精神科のお薬より、お酒の方が怖いです。

カサンドラ症候群に関するFAQ(良くある質問)

Q
カサンドラ症候群とは具体的に何ですか?
A

カサンドラ症候群は、発達障害を持つパートナー(特に自閉スペクトラム症やADHD)との関係において、非発達障害のパートナーが経験する心理的な苦痛や孤立感を指します。この症候群は公式の医学的診断ではなく、特定の感情的な経験や状況を表現するために使われる用語です。

Q
カサンドラ症候群の主な症状は何ですか?
A

主な症状には、パートナーとのコミュニケーションの困難、感情的な共感の不足、孤立感と疎外感、不安やストレスなどがあります。これらの症状は、関係内での感情的な満足感の欠如や誤解から生じます。

Q
カサンドラ症候群に対処する方法はありますか?
A

対処方法には、個人的なセルフケア、開かれたコミュニケーション、カウンセリング、サポートグループの活用などがあります。自分自身の感情やニーズに注意を払い、必要に応じて専門家の支援を得ることが求められます。

Q
カサンドラ症候群による影響は何ですか?
A

カサンドラ症候群は、心理的、身体的、社会的・関係的な面に影響を及ぼします。ストレスや孤立感、社会的なつながりの希薄化、身体的な症状(疲労感や睡眠障害など)があげられます。

Q
カサンドラ症候群のサポートを受けるにはどうしたらいいですか?
A

サポートを受けるには、地元のメンタルヘルスサービスに相談する、信頼できるカウンセラーを探す、オンラインまたは地域のサポートグループに参加するなどが有効です。また、家族や友人からの理解とサポートも重要です。

夫婦カウンセリング(心理療法)について

当カウンセリングルームでは、夫婦の関係性・相互交流個人の思考と行動のパターンの双方に働きかけることによって問題解決をサポートします。家族療法・ブリーフセラピーによって夫婦の関係性・相互交流に働きかけます。認知行動療法によって、個人の思考と行動のパターンに働きかけます。

家族療法とは、家族など複数人から成る人間関係の関係性相互交流に焦点を当てます。関係の変化相互交流の変化を通じて、悩み・問題の改善・解決を図るカウンセリングです。

ブリーフセラピー(短期療法)とは、家族療法の一学派です。「短期」の名の通り、効果的かつ効率的な改善・解決を志向するカウンセリングです。

認知行動療法とは、状況や環境に合わせて思考行動柔軟選択することで、悩み・問題の改善・解決を図るカウンセリングです。

認知行動療法は、主に個人を支援する心理療法です。適応的な思考と行動を選択することによって解決を図ります。家族療法・ブリーフセラピーでは、問題は集団成員の相互作用にて生じていると捉えます。相互作用の変化を通じて解決を図ります。

カウンセリングのご案内

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カウンセリングの流れ

お申し込みから終結・フォローアップまでの流れについて説明しています。完全予約制で対面とオンラインの両方に対応しています。事前の手続きをオンラインで行うことにより、面接時間はカウンセリングに集中できるようにしています。

カウンセラーのメッセージ

心はどこにあるのでしょうか。脳や心臓を指す人もいますが、「人間」という言葉が示すように、心は「人の間」、人間関係の中にも存在します。これは、私が依拠する家族療法の理論とも一致する考え方です。

人間関係は、心の傷の原因にも、そして癒しの源にもなります。多くの悩みは人間関係から生じますが、同時に、人間関係を通じて癒されます。例えば、上司の言葉に傷つき、同僚や友人に話を聞いてもらってリフレッシュする経験は、まさにこのことを示しています。

しかし、「日々の生活が息苦しい」「自分らしく生きるのが難しい」といった深い悩みや、家庭内トラウマのような心の傷には、単に話を聞いてもらうだけでは不十分な場合があります。専門的なサポートが必要となります。

同時に、安心・安全な場所(人間関係)も重要です。自由に話せ、否定されず受容され、無用なアドバイスをされない環境が、大きな悩みや深い心の傷の回復を可能にします。

私がライフワークとする自信も人間関係を通じて育まれます。自信には「自己効力感」(能力的な自信)と「自己肯定感」(存在や人格への肯定的評価)があります。特に自己肯定感の問題を解決するには、そのままの自分でOKという体験を積み重ねる必要があり、これは人間関係を通じてしか得られません。

私は、専門的なサポートと安心・安全の人間関係を提供することを通じて、あなたの心の健康に貢献します。

このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

親バカのカウンセラー / 人に原因を求めるのではなく、人と人との相互作用の悪循環に求めます。人に優しいカウンセリングをモットーとしています。

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