カサンドラ症候群

執筆者:公認心理師・山崎孝

当カウンセリングルームでは、カサンドラ症候群の悩みや問題の改善・解決を、カウンセリングで支援しています。

カサンドラ症候群とは、自閉スペクトラム症(ASD)またはグレーゾーン(傾向が認められるが診断基準を満たさない人)のパートナーとの関係によって、心理的な苦痛を体験している状態のことです。心身の不調や対人関係の悪影響を及ぼすことがあります。

心理的苦痛とは、例えば

  • パートナーの言動を理解できない
  • 自分の気持ちが伝わらない
  • 周囲に理解してもらえない

などのことです。

注意欠如・多動性症(ADHD)を持つパートナーとの関係においても、同様の心理的苦痛を体験することがあります。近年では、自閉スペクトラム症(ASD)に限定せず、発達障害を持つパートナーと同様の体験をしている人々に適用されることもあります。

カサンドラ症候群は医学的な診断名ではありません。共通の経験を共有し、理解を深めるために用いられています。

カサンドラ症候群をもう少し詳しく

カサンドラ症候群の理解を進めるために、以下の3点について説明を加えます。

  1. 定義と概要
  2. 症状と兆候
  3. 背景と要因

1.定義と概要

カサンドラ症候群は、自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動性症(ADHD)などの発達障害を持つパートナーとの関係で、非発達障害のパートナーが経験する心理的な苦痛を指します。多くは、コミュニケーションの困難感情的な期待の違いによって引き起こされます。

カサンドラ症候群の語源は、ギリシャ神話に登場するトロイの王女、カサンドラに由来しています。

カサンドラは、太陽神アポロンから予知能力を授けられましたが、その能力でアポロンに捨てられる未来を予知したため、アポロンの怒りに触れて「カサンドラの予言を誰も信じない」という呪いをかけられました。

カサンドラ症候群の特徴は、パートナーが経験する苦痛が周囲から理解されにくいことにあります。カサンドラのように、自分の訴えを誰にも信じてもらえない状況に置かれるという点で名付けられました。

自閉スペクトラム症(ASD)の夫を持つ妻が、周囲に相談しても理解してもらえないケースが典型例としてあげられます。また、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを持つや、職場でASDの人と関わる人なども、カサンドラ症候群に陥ることがあります。

先にも触れた通り、カサンドラ症候群は医学的な診断名ではありません。共通の経験を共有し、理解を深めるために用いられています。

2.症状と兆候

カサンドラ症候群における主な症状には以下のようなものがあります。

  • コミュニケーションの困難:相手の言葉や行動の意図を理解するのがむずかしい、または誤解を招く。
  • 共感の欠如:パートナーからの感情的な支持や共感が不足していると感じる。
  • 孤立感:自分の感情や経験が周囲に理解されないことによる孤立感や疎外感。
  • 不安やストレス:関係の不安定さや継続的なコミュニケーションの問題によるストレスや不安。

3.背景と要因

カサンドラ症候群が発生する背景には、以下のような要因があります。

  • 発達障害の特性:ASDやADHDの特性により、パートナー間のコミュニケーションスタイルや感情の表現が異なるために、誤解やコミュニケーションの困難が生じる。
  • 感情的なニーズの違い:感情的な支援や共感のニーズが満たされないことによるフラストレーション。
  • 社会的な理解の不足:発達障害に対する社会の認識や理解が不十分であるため、外部からのサポートや共感が得られにくい。

このような状況は、非発達障害のパートナーにとってストレスであり、孤立感や不安を増大させます。周囲がカサンドラ症候群に関する理解を深めることは、苦痛の軽減・改善への第一歩です。

カサンドラ症候群の影響

カサンドラ症候群によって受ける影響を、以下の3つの側面に分けて説明します。

  1. 心理的影響
  2. 身体的影響
  3. 社会的・関係的影響

これらの影響は、個人の健康や日常生活に深刻な影響を与える可能性があります。

1.心理的影響

カサンドラ症候群による心理的影響には以下のようなものがあります。

  • ストレスと不安:パートナーとのコミュニケーションの困難や感情的なニーズの不一致が引き起こすストレスや不安。
  • 孤立感と疎外感:自分の感情が理解されない、または共感を得られないことによる孤立感や疎外感。
  • 低い自尊心:パートナーとの関係において、自分の価値や重要性に疑問を感じる。
  • 抑うつ感情:継続的なストレスや孤立感から、抑うつ状態に陥る。

2.身体的影響

心理的ストレスは身体的な健康にも影響を及ぼす可能性があります。

  • 疲労感:心理的ストレスによる慢性的な疲労。
  • 睡眠:不安やストレスによる睡眠の質の低下。
  • 身体症状:頭痛や消化不良などの身体症状が発生することがある。
  • 免疫系の低下:慢性的なストレスが免疫系に影響を与え、病気になりやすくなる。

3.社会的・関係的影響

カサンドラ症候群は、社会的関係やパートナーシップにも影響を与えます。

  • 社会的な孤立:パートナー関係にエネルギーを費やして他の関係が希薄になる。周囲に理解してもらえない。
  • 関係の緊張:パートナーとの間の誤解や不満が関係に緊張を生じさせる。
  • サポートの不足:カサンドラ症候群に対する理解の不足により、友人や家族などのサポートや助けを得られにくい。
  • 職場での問題:家庭内のストレスが職場のパフォーマンスを低下させることがある。

カサンドラ症候群のこれらの影響は、個人の健康や幸福におおきな影響を及ぼす可能性があります。適切な理解とサポートが重要です。

対処法とサポート

絶大な効果を得られる対処法は中々ありません。心理的苦痛の対処法、いわゆるストレスコーピングは、多くのバリエーションを持つことが望ましいです。一つひとつの効果は小さくても、集まれば大きな効果につながります。

以下の4つに分けて説明します。

  1. 個人的な対処法
  2. パートなシップの改善策
  3. 家族や友人からのサポート
  4. 専門家による支援

1.個人的な対処法

  • セルフケアの実践:趣味やリラクゼーション活動を通じて、自分自身の幸福を優先する。
  • 感情表現の練習:日記をつける、創造的な表現活動(芸術、音楽など)に取り組むことで、感情を健康的に表現する。
  • ストレス管理:瞑想、ヨガ、軽い運動などを通じてストレスを管理する。

2.パートナーシップの改善策

  • オープンなコミュニケーション:感情やニーズを正直に伝えることで、相互理解を深める。
  • カウンセリング:専門家の助けを借りて相互理解を深める。コミュニケーションスキルを高める。様々なコミュニケーションの方法を得る。
  • 相互理解:お互いの状況やニーズの理解を深める。

3.家族や友人からのサポート

  • 共感と理解:家族や友人に自分の状況を説明し、理解と共感を求める。
  • 社会的なつながりの維持:社会的活動に参加することで、孤立感を減らす。

4.専門家による支援

  • カウンセリング:カウンセラーとの定期的なセッションを通じて心理的な支援を受ける、コミュニケーションスキルを向上する、様々なコミュニケーション方法を得る。
  • サポートグループ:同じ状況を経験している他の人々とのグループに参加し、経験を共有する。
  • 教育と情報:専門家から、カサンドラ症候群に関する教育や情報を受ける。

これらの対処法とサポートは、カサンドラ症候群による影響を軽減し、個人のウェルビーイング(心身と社会的健康)を向上させるのに役立ちます。自分自身の健康と幸福を優先し、必要な場合は専門家の支援を求めることです。

カウンセリングと治療

カウンセリングは、パートナーとの相互作用の良化と個人の心理的支援が主目的となります。治療とは精神科による治療です。抑うつ症状や不安症状が投薬を必要とする程度に重くなることもあります。

このセクションでは、以下の3つを説明します。

  1. カウンセリングの役割と方法
  2. カウンセリング手法の選択肢
  3. 医療機関での治療

1.カウンセリングの役割と方法

カウンセリングは、個人が自分の感情や状況について話し、理解し、解決策を見つけるのを支援します。カウンセラーは、非批判的な聴き手として、感情的なサポートを提供し、コミュニケーションや関係の改善に向けた具体的な提案を行います。

例えば、考えや感情を明確化する支援を行います。明確化・言語化して自分の中で整理が進むと、心理的な負荷が小さくなるものです。他には、2人の会話に参加して、相互理解が深まるコミュニケーションを実現する支援を行います。ストレスや不安の対処方法の提案なども行います。

2.カウンセリング手法の選択肢

イメージのしやすさを優先して、心理療法をカウンセリング手法と言い換えました。当カウンセリングルームでは主に、家族療法と認知行動療法にて支援を行います。

家族療法は、個人療法が個人の内面に焦点を当てるのとは異なり、人と人の関係性、人と環境の関係性に焦点を当てます。関係とはコミュニケーションの相互作用でもあります。悪循環の相互作用を良循環に変える支援を行います。

認知行動療法は個人療法です。お互いの内面に焦点当てて、考えや気持ちの明確化、言語化をお手伝いします。言葉にされない考えや気持ちを相手が理解するのは困難です。明確化、言語化、相互理解の促進を支援します。

3.医療機関での治療

抑うつ症状や不安症状が重い場合は、精神科にてお薬を処方してもらう必要があるかもしれません。精神科のお薬に抵抗を示す方は少なからずいらっしゃいますが、医師の指示に反することしなければ、心配することはありません。身体への悪影響という点では、精神科のお薬より、お酒の方が怖いです。

カサンドラ症候群に関するFAQ(良くある質問)

Q
カサンドラ症候群とは具体的に何ですか?
A

カサンドラ症候群は、発達障害を持つパートナー(特に自閉スペクトラム症やADHD)との関係において、非発達障害のパートナーが経験する心理的な苦痛や孤立感を指します。この症候群は公式の医学的診断ではなく、特定の感情的な経験や状況を表現するために使われる用語です。

Q
カサンドラ症候群の主な症状は何ですか?
A

主な症状には、パートナーとのコミュニケーションの困難、感情的な共感の不足、孤立感と疎外感、不安やストレスなどがあります。これらの症状は、関係内での感情的な満足感の欠如や誤解から生じます。

Q
カサンドラ症候群に対処する方法はありますか?
A

対処方法には、個人的なセルフケア、開かれたコミュニケーション、カウンセリング、サポートグループの活用などがあります。自分自身の感情やニーズに注意を払い、必要に応じて専門家の支援を得ることが求められます。

Q
カサンドラ症候群による影響は何ですか?
A

カサンドラ症候群は、心理的、身体的、社会的・関係的な面に影響を及ぼします。ストレスや孤立感、社会的なつながりの希薄化、身体的な症状(疲労感や睡眠障害など)があげられます。

Q
カサンドラ症候群のサポートを受けるにはどうしたらいいですか?
A

サポートを受けるには、地元のメンタルヘルスサービスに相談する、信頼できるカウンセラーを探す、オンラインまたは地域のサポートグループに参加するなどが有効です。また、家族や友人からの理解とサポートも重要です。