夫婦・カップルのコミュニケーション

執筆者:公認心理師・山崎孝

問題が起こると解決のためにコミュニケーションが図られます。解決を試みがかえって問題を維持するように作用したり、ときには問題を発展させることもあります。コミュニケーション不全と呼ばれるものです。

夫と妻は、それぞれ別の家庭(文化)で育ち、それぞれの価値観などを持っています。夫婦になるとは、互いの文化や価値観を融合させて、新しい文化や価値観を創ることでもあります。その土台となるのがコミュニケーションです。

夫婦・カップルのコミュニケーションの相談例
  • 建設的、前向きな話をしたいのに、毎回衝突してしまう
  • 相手の非難や批判が増え、口論やケンカに発展することが多い
  • 話し合ってもケンカになるので、話し合いをしなくなる
  • 意見や気持ちを伝えずに、ため込んでしまう
  • お互いに無関心になり、距離を置くようになった
  • お互いに不信感や疑念を抱くようになった

共感

女性は共感を求めて、男性は解決を目指すと言われます。その傾向は大いにありますが、逆のパターンもめずらしくありません。

共感と同感

共感と似た言葉に「同感」があります。共感と同感の違いを意識する人はそう多くありません。同じ意味として使う人が多いでしょう。どのような違いがあるか、辞書を引いてみたいと思います。

どう かん[0]【同感】
(名)スル
同じように考えること。同じように感ずること。「━の意を表す」「君の意見には全く━だ」「彼の主張には━するところが多い」

iPhoneアプリ『スーパー大辞林 3.0』(2019 三省堂)より引用

きょう かん[0]【共感】
(名)スル
他人の考え・行動に、全くそのとおりだと感ずること。同感。「━を覚える」「彼の人生観に━する」
②以下省略

iPhoneアプリ『スーパー大辞林 3.0』(2019 三省堂)より引用(太字は当サイト管理者による)

違いがわかりにくいのですが、同感は「私も同じように感じる」という意味で、共感は「(私は必ずしも同じようには感じないけれど)あなたがそのように感じるのを理解できる」と考えて下さい。同感は相手と同じように感じています。共感は必ずしも相手と同じように感じる必要はありません。

「共感しなければと思うんですけど、どうしてもできないんです」とおっしゃる方がいます。おそらく「共感」と「同感」を混同しているのでしょう。常に同感できないのはやむを得ません。もし、あなたがパートナーに常に同感を求めているのであれば、それは求めすぎです。

同感できなくても、相手の立場がどのように感じているかを理解するのは可能です。理解力が共感力。理解する姿勢が共感する姿勢。そのように考えるとやりやすいはずです。

伝わってなんぼ

理解して終わりではなく、理解したことが伝わる必要があります。伝わると相手は「共感してくれた」となります。頭の中で理解して終わるのではなく、「それは大変やったね」のような一言があるだけでコミュニケーションが変わります。

コミュニケーションとは

たわいもない話は盛り上がるけれど、育児や家事、実家との付き合いなど大切な話ができない。雑談は人間関係を円滑にする大切なものですが、大切な話ができないのであれば、コミュニケーションが良いとは言えないでしょう。

会話とコミュニケーション

会話の量とコミュニケーションの質は比例しないようです。会話の量が多くても、ぶつかって結論にたどりつけないことが多ければ、良いコミュニケーションとは言いにくいです。会話の量が少なくても、相互理解と意思疎通ができていれば、良いコミュニケーションが取れていると言えます。

そもそもコミュニケーションとは何なのでしょう。家族心理学的には「すべての相互作用はコミュニケーション」となりますが、禅問答のようです。コミュニケーションで悩んでいる人には何の役にも立ちません。

「会話の量とコミュニケーションの質は比例しない」と書きました。会話とコミュニケーションの違いは何なのでしょう。辞書を引くと以下のように記されています。

カンバセーション(conversation)の意味

  • 会話、話し合い、対談、雑談、座談、交際、社交

“conversation”の検索結果(1548 件):英辞郎 on the WEB:スペースアルクより引用

コミュニケーション(communicaiton)の意味

  • 〔情報の〕やりとり、連絡、伝達
  • 〔伝達される〕情報、メッセージ、手紙
  • 〔お互いの〕共感、感情的つながり、ラポール

“communication”の検索結果(2783 件):英辞郎 on the WEB:スペースアルクより引用

会話は情報のやり取り。コミュニケーションは情報のやりとり加えて、共感など情緒的な要素があります。以下のように表現できると思います。

会話(カンバセーション)

「言語や非言語(身振り・手振り・声の抑揚など)情報を用いて情報を伝達しあうこと」と表現できます。

コミュニケーション

「言語や非言語情報を用いて情報を伝達しあうと同時に、お互いが自分の考えや気持ちを伝えて、お互いが相手の考えや気持ちを理解すること」と表現できます。

相手と同じ考えや気持ちになる必要はありません。お互いが「私はこのように考えるけれど、あなたはそのように考えるのですね。理解しました」という相互理解の状態です。共感に似ています。

お互いの考えや気持ちが一致しなくても、お互いが理解しあえて、お互いが納得できる着地点にたどりつける。それが良いコミュニケーションと言えます。

【パートナーとの】コミュニケーションの悪循環

解決を目指す言動が問題を維持する方向に作用することがあります。がんばるほど悪化して、疲弊して、ケンカになるだけだからと、話し合いをあきらめてしまうこともあります。

以下の設定で悪循環の例を示してみます。とても単純化していますが、お付き合い下さい。

  • 妻の不満:話を聞かない夫
  • 夫の不満:すぐ感情的になる妻

昼間にイヤことがあった妻は、帰宅した夫に聞いてもらおうとしました。

妻

ちょっと、聞いてくれる。ママ友に「○○」って言われて・・・

夫は対応策を提案して話を終えようとしました。

夫

そうなんや。●●して、○○すれば

夫に聞く気がないと感じた妻は、「最後まで聞いてよ」と不満を口にしました。

妻

ちょっと待ってよ。最後まで聞いてよ。

夫は対応策を繰り返しました。

夫

だから、○○すればいいやん。

コミュニケーションの悪循環

話を終わらせる方向に向かった夫の態度は、妻を感情的にさせる原因になりました。一方、妻の感情的な態度は、夫を感情的にさせる原因になりました。

夫の態度に、妻はさらに感情的になりました。

妻

あなたは、いつもそう!

人の話を聞かない。

夫は(また、いつものパターン・・・)とため息をつきました。

夫

はあ・・・(また、このパターン)

コミュニケーションの悪循環

お互いの発言は、相手の発言による結果でもあり、相手の発言を生む原因にもなっています。

更に悪化すると、パートナーの人格否定に及ぶことがあります。こうなると収集がつきません。

妻

ほんとに、最低な人やね

夫

(黙り込む)…

コミュニケーションの悪循環

このようなやり取りが繰り返されて、コミュニケーションをあきらめてしまうケースもあります。

【自分との】コミュニケーションの悪循環

パートナーとコミュニケーションすると同時に、自分自身ともコミュニケーションしています。自分とのコミュニケーションがパートナーとのコミュニケーションに悪影響を及ぼしていることもしばしばあります。

パターン1

妻

ちょっと、聞いてくれる。ママ友に「○○」って言われて・・・

夫

そうなんや。●●して、○○すれば

夫の言葉を聞いて、妻の自分自身との対話が始まりました。

妻の心の声
妻の心の声

どうせ、私の話なんておもしろくないと思っているのでしょ。どうせ、聞く価値がないと思っているのでしょ。

妻の心の声
妻の心の声

いつもそう。本当に腹が立つ。

妻

ちょっと待ってよ!ちゃんと聞いてよ!

夫

そんなに怒られたら聞ける話も聞かれへんやろ!

妻は夫の態度を、「私の話を聞く気がないのだ」と受け取り、苛立ちが生じました。その可能性はありますが、疲労がたまっていて、とりあえず一息つきたかった可能性もあります。他の可能性もあります。

苛立ちをぶつけると、苛立ちが返ってきて、お互いがイヤな気分になりました。おそらく妻は、聞いてもらえない経験を重ねてきたのでしょう。それには同情します。しかし、そのパターンの繰り返しは、見直したほうが良いかもしれません。

妻

聞いてほしいことがあるから、お風呂の後に10分時間をとってほしい。

夫

わかった。上がったら、声かけるわ。

とても単純化していますが、解決の形の一つです。

パターン2

妻

ちょっと、聞いてくれる。ママ友に「○○」って言われて・・・

妻の言葉を聞いて、夫の自分自身との対話が始まりました。

夫の心の声
夫の心の声

また…

長いやろな。早くメシ食べたいなあ。

夫

さっさと終わらせよ。

夫

そうなんや。●●して、○○すれば

妻

ちょっと待ってよ!ちゃんと聞いてよ!

いつも通り?妻の話は長いのかもしれません。大切なことで避けて通れない話である可能性もあります。夫のいらち体質を見抜いた妻が、簡潔に話す対策を取っているかもしれません。

帰宅して早々に話を振ってこられるとしんどいかもしれません。それには同情します。しかし、ただ早く終わらせようとするパターンの繰り返しは、見直したほうが良いかもしれません。

悪循環のパターン

コミュニケーションが悪循環に陥っているとき、多くの場合、毎回同じパターンが繰り返されています。よく見られるものに以下のパターンがあります。

  • お互いが自分を正当化して相手を責めるパターン
  • お互いが距離を取るパターン
  • 一方が責めて一方が逃げるパターン
  • 子どもなどを巻き込む三角関係のパターン

話し合いの目的は、特に関係改善を目指すときに話し合いは、相互理解と着地点を見出すことのはずです。ところが、勝ちにこだわる人がいます。自分が正しさにこだわる人がいます。自分が勝てば相手は負けです。相互理解と着地点に至らないのは、夫婦として負けかもしれません。

4つ目の三角関係は、子どもの代わりに実家を巻き込んだり、仕事や趣味などが対象になることもあります。不倫・浮気に向かうこともあります。上の3つが三角関係に発展して、というケースは容易に想像がつくと思います。

本人たちが気づきにくい悪循環を好循環に変えるサポート

以上のような悪循環は、本人たちが自ら気づくのはとてもむずかしいことがしばしばです。気づいても対処がむずかしいのも同様です。カウンセラーは夫婦・カップルのコミュニケーションに参加させていただき、悪循環から好循環への変容をサポートします。