不倫からの再構築

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
不倫からの再構築を模索する
不倫からの再構築を目指す夫婦をサポートします

された側は裏切りに打ちのめされ、言葉にできない絶望と怒りの中にいるかもしれません。した側の方は、後悔と罪悪感に苛まれなると同時に、関係を取り戻せない不安を抱えているかもしれません。

基本的に再構築を目指す夫婦・カップルを支援するカウンセリングですが、決断の前に心のケアを必要としている方、どちらに向かうか決断できない方、再構築を決めたものの先が見えなくて苦しんでいる方の支援も行っています。

不倫・浮気のカウンセリング
  • 悲しみ、怒り、絶望などの感情に苦しみ、心のケアを必要としている人
  • 離婚するか、関係修復を目指すか、決断できずに悩んでいる人
  • 相手への愛情や家庭への責任感の間で葛藤している人
  • 今後のパートナーとの関係構築に不安を感じている人
  • 罪悪感や後悔、不安などの感情に苦しみ、心のケアを求めている人

不倫発覚からの再構築決断までのステップ

どのような心理的なプロセスを経て決断に至るのか。その例を心理学の理論に沿って示しています。但し、必ずしもこの通りに進むわけではありません。

  1. ショックと否定
    最初の反応は強いショックと否定です。信じられない、受け入れがたいと感じることが多く、現実を直視するのがむずかしい状態です。
  2. 怒りと悲しみ
    次に、怒りや悲しみが表面化します。裏切られたという感情が強くなり、夫に対する怒りや、自分自身への悲しみが混在することが多いです。
  3. 不安と疑念
    浮気の事実に対するさらなる不安や疑念が生じます。「なぜこんなことが起きたのか?」「自分には何が足りなかったのか?」といった考えが頭を巡ります。
  4. 抑うつと無力感
    抑うつ感や無力感が生じることがあります。何を信じていいのかわからなくなり、精神的に疲れ果てることがあります。この段階では、日常生活に支障をきたすこともあります。
  5. 受容と決断
    最終的には、状況を受け入れ、決断の段階に入ります。どの程度の時間を要するかは個人差があります。この段階では、冷静に自分の気持ちや今後の対応を考えることができるようになります。自分自身や関係性について深く考え、個人的な成長の機会とするかもしれません。

以上のすべてのプロセスが生じるわけではありません。また、順序も上記通りとは限りません。行ったり来たりすることもあります。最終的な決断は、本人の価値観や状況、パートナーの態度などによって異なります。

様々な理由(子ども、経済的理由)から、再構築が前提になっているケースも少なくありません。再構築を決めているけれど、心が中々ついていかないのは、上記のプロセスを知れば納得できると思います。

心の傷の理解

不倫によって負うのは、自分の存在や生活を脅かす体験による心の傷です。また、これまで2人で築き上げてきたものの喪失体験です。

心の傷

パートナーの不倫による心の傷は、トラウマのような症状を引き起こすことがあります。トラウマとは、災害や犯罪被害のような強いショック体験による心の傷のことです。PTSDとして知られています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。

PTSD|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省 より引用

トラウマの症状には、「侵入症状」「過覚醒」「回避」「否定的な感情と認知」の4つがあります。これを説明すると、「その通りです」と返ってくることがよくあります。

侵入症状
フラッシュバックとして知られています。つらい記憶や感情が突然よみがえります。今この瞬間、つらい出来事が起きているような感覚になります。テレビのワイドショーで不倫の話題が出たのをきっかけに起こることがあれば、特にきっかけもなく起こることもあります。

過覚醒
不安に対してとても敏感になります。これまで気にならなかった小さなことにも大きな不安を感じます。パートナーの帰宅がいつもより少しでも遅くなると、不安でいっぱいになり連絡せずにはいられなくなることがあります。

回避
出来事を思い出させるものを避けたり、出来事の記憶を思い出せなかったり、人ごとのように感じたりすることがあります。

否定的な感情と認知
自分、他人、将来に対して否定的になり、非難する考えしか持てなくなります。期待を持てなくなります。

これらの症状は、これ以上の傷を負わないための防衛的な反応と考えられます。例えば「過覚醒」は危機に対してとても敏感になることです。LINEの返信が少しでも遅くなると不安でいっぱいになるのは、大きな傷を負った今、これ以上のショックは、たとえ小さくても致命的になるかもしれない。何としても避けなければならない、といった状態であると推測されます。

喪失体験

不倫・浮気は、これまで幸せだと思っていた夫婦関係を喪失させる体験です。また、過去の出来事や思い出の意味が変わってしまうことから、新たな喪失を招くこともあります。色々ありながらも幸せと感じていた生活が一変します。

幸せな記憶の喪失
不倫が明るみに出ると、これまで幸せだと感じていた日々や出来事が色褪せて、疑念や痛みに取って代わられます。幸せな記憶が失われ、裏切られた感情に置き換わります。

安定した家庭生活の喪失
夫婦に生じる緊張感、不信感は、口にしなくても家族全員に伝わるものです。コミュニケーションの減少など招き、家庭の安心感が損なわれていきます。家庭が安心安全な場所でなくなると、特に子どもに悪影響を及ぼします。

不倫の発覚によって、これまでの出来事や思い出が新たな意味を帯びることがあります。

記念日や特別な瞬間が痛みを思い出させる機会に
記念日や特別な瞬間が、不倫・浮気を知った後に、まったく違う意味に変わってしまうことがあります。例えば結婚記念日です。結婚記念日は過去の幸せを振り返り、未来への期待を共有する日です。不倫・浮気後は、裏切りの痛みを思い起こさせる日になることがあります。

共有した経験の価値の喪失
夫婦として共有した経験や成長の瞬間が、不倫・浮気によって価値を失い、痛みの源に変わることがあります。例えば、デートでよく行った場所が、裏切りを思い出すきっかけになることがあります。

理解する、向き合う、寄り添う

不倫をした側にとっては、不倫が発覚して、不倫を止めることで、終わった体験になります。過去のものになっています。再構築へ向かえる態勢にあります。

された側にとっては、不倫の事実によって、心の骨が骨折しました。骨がひっつくまで前に向かえません。再構築の前に、心の傷がケアされる必要があります。再構築へ向かえる態勢にありません。

この差が再構築をむずかしくします。

した側に求められるのは、心の傷を理解して、理解しようと向き合い、寄り添うことです。

された側に求められるのは、セルフケアです。傷ついた自尊心の回復は、相手からのケアだけでは不十分なことがあり、自分でのケアも必要です。

パートナーを傷つけた本人が寄り添うむずかしさ

傷つけた本人が傷ついたパートナーに寄り添うむずかしさ

不倫からの再構築のむずかしさは、傷を負わせた本人が、された側から責められながらも、された側の心に寄り添わなければならないことです。言い換えると、怒りをぶつけられながら、怒りの元にある傷つきに寄り添うむずかしさです。

自分が傷つけたとはいえ、怒りを受け止め続けるのが困難になることがあります。時には逆ギレしてしまうこともあります。しかし、された側は、それで更に傷ついてしまうこともあります。

された側も、しばしば自分をコントロールできなくなります。これ以上責めると愛想を尽かされてしまう。再構築を決めたのだから、前を向いて建設的な言動を心がけるべき。しかし、それができなくて辛い。

このような状態はめずらしくありません。第三者のサポートを得るのが望ましいです。ぜひ、カウンセリングの活用をご検討下さい。