不倫から夫婦関係を再構築する

執筆者:公認心理師・山崎孝

された側は裏切りに打ちのめされ、言葉にできない絶望と怒りの中にいるかもしれません。した側の方は、後悔と罪悪感に苛まれなると同時に、関係を取り戻せない不安を抱えているかもしれません。

基本的に再構築を目指す夫婦・カップルを支援するカウンセリングですが、決断の前に心のケアを必要としている方、どちらに向かうか決断できない方、再構築を決めたものの先が見えなくて苦しんでいる方の支援も行っています。

不倫・浮気のカウンセリング
  • 悲しみ、怒り、絶望などの感情に苦しみ、心のケアを必要としている人
  • 離婚するか、関係修復を目指すか、決断できずに悩んでいる人
  • 相手への愛情や家庭への責任感の間で葛藤している人
  • 今後のパートナーとの関係構築に不安を感じている人
  • 罪悪感や後悔、不安などの感情に苦しみ、心のケアを求めている人

不倫からの再構築のステップ

再構築は主に以下の3つのプロセスを必要とします。心の傷のケアとコミュニケーションの改善は並行して進むことが多いです。夫婦関係の点検と再構築は、他の2つがある程度達成されると、夫婦2人で行われるケースが多いです。

  • (1)心の傷のケア
  • (2)コミュニケーションの改善
  • (3)夫婦関係の点検と再構築

(1)心の傷のケア

不倫によって負うのは、自分の存在や生活を脅かす体験による心の傷です。また、これまで2人で築き上げてきたものの喪失体験です。

心の傷とは

不倫された側が負う心の傷を理解するには、トラウマの知識が役に立ちます。トラウマとは、災害や犯罪の被害のような強いショック体験による心の傷のことです。PTSD(心的外傷後ストレス障害)として知られています。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。

PTSD|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省 より引用

自分の存在が脅かされるような体験です。昨日まで安心・安全な世界が、危険な世界に変わった体験です。

PTSDの症状は「侵入症状」「過覚醒」「回避」「否定的な感情と認知」の4つがあります。これを説明すると、「その通りです」と返ってくることがよくあります。不倫された方がよく訴えられるのは、以下の2つです。

侵入症状
フラッシュバックとして知られています。つらい記憶や感情が突然よみがえります。今この瞬間、つらい出来事が起きているような感覚になります。

過覚醒
不安に対してとても敏感になります。これまで気にならなかった小さなことにも大きな不安を感じます。打ちのめされるほどの傷を負いました。これ以上の傷を負うと、再起不能になるかもしれません。自分を守るための心の働きと考えられます。

回避
出来事を思い出させるものを避けたり、出来事の記憶を思い出せなかったり、人ごとのように感じたりすることがあります。

否定的な感情と認知
自分、他人、将来に対して否定的になり、非難する考えしか持てなくなります。期待を持てなくなります。

喪失体験

不倫・浮気は、これまで幸せだと思っていた夫婦生活や家庭生活を喪失させる体験です。また、過去の出来事や思い出の意味が変わってしまうことから、新たな喪失を招くこともあります。

何だかんだありながらも、幸せと感じていた夫婦関係や家庭生活が一変します。

幸せな記憶の喪失
不倫が明るみに出ると、これまで幸せだと感じていた日々や出来事が色褪せて、疑念や痛みに取って代わられます。幸せな記憶が失われ、裏切られた感情に置き換わります。

安定した家庭生活の喪失
夫婦に生じる緊張感、不信感は、口にしなくても家族全員に伝わるものです。コミュニケーションの減少など招き、家庭の安心感が損なわれていきます。家庭が安心安全な場所でなくなると、特に子どもに悪影響を及ぼします。

不倫の発覚によって、これまでの出来事や思い出が新たな意味を帯びることがあります。

記念日や特別な瞬間が痛みを思い出させる機会に
記念日や特別な瞬間が、不倫・浮気を知った後に、まったく違う意味に変わってしまうことがあります。例えば結婚記念日です。結婚記念日は過去の幸せを振り返り、未来への期待を共有する日です。不倫・浮気後は、裏切りの痛みを思い起こさせる日になることがあります。

共有した経験の価値の喪失
夫婦として共有した経験や成長の瞬間が、不倫・浮気によって価値を失い、痛みの源に変わることがあります。例えば、デートでよく行った場所が、裏切りを思い出すきっかけになることがあります。

理解する、向き合う、寄り添う

不倫をした側にとっては、不倫が発覚して、不倫を止めることで、終わった体験になります。過去のものになっています。再構築へ向かえる態勢にあります。

された側にとっては、不倫の事実によって、心の骨が骨折しました。骨がひっつくまで前に向かえません。再構築の前に、心の傷がケアされる必要があります。再構築へ向かえる態勢にありません。

この差が再構築をむずかしくします。

した側に求められるのは、心の傷を理解して、理解しようと向き合い、寄り添うことです。

された側に求められるのは、セルフケアです。傷ついた自尊心の回復は、相手からのケアだけでは不十分なことがあり、自分でのケアも必要です。

(2)コミュニケーションの改善

心の傷のケアは、繰り返しになりますが、理解、向き合い、寄り添いです。それらは主に、夫婦の対話によって行われます。不適切なコミュニケーションは、ケアが進まないどころか、逆に傷を深めます。

問題の根底にコミュニケーション不全があるケースはめずらしくありません。心の傷のケアが促進されるコミュニケーションの構築をお手伝いします。

(3)夫婦関係の点検と再構築

二度と同じことを繰り返さないための取り組みとして、これまでの夫婦関係を振り返り、顕在化していない問題などを点検します。実家との関係、夫婦観、家庭観などが考えられます。