この投稿は、前の投稿(【アタッチメント①】くっついて安心感を得るプロセスの積み重ねで育つ自己肯定感・自己効力感・社会性・共感性)の続きです。
幼少期に主に親との関係によって形成されるアタッチメントスタイルは、生涯にわたって対人関係などに影響を与えますが、信頼できる人との出会いや新たな経験によって、変化しうるものです。
アタッチメントについて簡単におさらい
アタッチメントとは、子どもが不安などのネガティブな気持ちになったとき、養育者にくっついて不安を解消しようとする欲求や行動を指します。幼少期のアタッチメントは身体的接触によるものですが、児童期、青年期、成人期と年齢を重ねるつれて、「この人は味方でいてくれる」のような心理的なくっつきに変わっていきます。
アタッチメントによって形成される、自分と他者に対する認知的枠組みや信念体系を内的作業モデル(IWM)といいます。内的作業モデルは人との関わり方のテンプレートとなり、対人関係全般に影響を及ぼします。結果として、人間関係全般において同じような関係性に落ち着く傾向があります。
幼少期に築かれたアタッチメントスタイルは生涯にわたって対人関係に影響を及ぼしますが、信頼できる人との出会いなど、様々な経験によって変わり得るものです。幼少期の体験がすべてではありません。
大人のアタッチメント
大人のアタッチメントについて2種類の分類方法を紹介します。
1つ目は、子どもの頃の養育者との関係を話してもらい、4つのタイプに分類する方法です。2つ目は、現在の人間関係についての質問項目に答えてもらい、回避傾向と不安傾向を測定する方法です。
いずれも自己理解を深めるツールと考えて下さい。後述しますが、不安定なアタッチメントによる生きづらさを改善する方法の一つは、自分を客観視することです。「自分にはこのような傾向がある」と言語化することは客観視の第一歩です。
子どもの頃の養育者との関係からの分類
前の投稿にて、幼少期に形成されるアタッチメントの4つのタイプを紹介しました。その4つのタイプに関連づける形で大人のアタッチメントタイプを定義しています。インタビューによって行われます。
大人の アタッチメント | 子どもの アタッチメント | |
---|---|---|
安定型 | 安定自律型 自分の過去の養育者との関係に関する肯定的なエピソードも否定的なエピソードも、首尾一貫したかたちでバランスよく語る。 | 安定型 分離時に泣いても、再開場面ではスムーズに養育者を迎え入れる。 |
不安定型 | アタッチメント軽視型 養育者のことを理想化して語るが、具体的なエピソードに乏しく、むしろ理想はほど遠いエピソードを語ったりする。 | 回避型 分離場面でさほど混乱を示さず、再開場面を含めて常時、養育者との間に距離を置きがち。 |
とらわれ型 話にまとまりがなく、特定の記憶、特につらかったこと出来事を語りながら、強い怒りや恐れを表したりする。 | アンビヴィバレント型 養育者をスムーズに受け入れられず、怒りを示したりしてぐずぐずした状態を長く引きずる。 | |
未解決型 話の内容にはそれなりの一貫性があるが、特定のトラウマ体験について語るとき、非現実的な解釈や思い込みが見られる。 | 無秩序・無方向型 顔を背けながら養育者に近づいたり、不自然でぎこちない動きを見せたりする。すくんだり、うつろな表情のまま、動かなくなってしまうなと、養育者にくっつきたいのか、養育者から離れたいのか読み取りにくい。 |
現在の人間関係からの分類
現在の人間関係からの分類で測定するのは、回避傾向と不安傾向です。回避傾向とは、他者との親密さに心地よさを感じない程度を意味します。不安傾向とは、他者に見捨てられることへの不安の程度を示すものです。
回避傾向が強い | ||
拒絶・回避型(アタッチメント軽視型) 自分自身のことについて隠す傾向があり、自ら拒絶することで他者との距離を保とうとする。 | 安定自律型 人と親密になることが比較的容易。誰かを頼りにしたり、誰かから頼りにされたりすることに心地よさを感じる。 | |
恐れ・回避型(未解決型) 他者との親密な関係を求めているものの、近づき過ぎたら相手から傷つけられるのではないかという恐れや不安があり、相手を完全に信頼したり、相手に頼ったりするのが難しい。 | とらわれ型 パートナーとの親密性、承認、応答性を強く求め、パートナーが自分と同じようには望んでいないことに不安を感じやすい。 | 不安傾向が強い |
私のカウンセリング経験では、安定型と不安定型の違いが顕著に表れるのは、他者に頼る場面が多いです。最初の表の安定自律型の特徴に、「誰かを頼りにしたり、誰かから頼りにされたりすることに心地よさを感じる」とあります。
不安定型の人は、ほぼ例外なく他者に頼るのが苦手だと思います。「負担をかけるのが申し訳ない」「気分を害するかもしれない」などの恐れの気持ちを口にされます。頼られることについては個人差があります。頼られてうれしいと感じる人がいれば、断れなくてモヤモヤする人がいたりします。
どちらが良いとは一概には言えません。ケースバイケースです。一つ言えるのは、自分ではどうにもできないときに他者を頼るのは、生きていくのに必要なスキルであり、人間関係を発展させるきかっけにもなります。以下の投稿が参考になるかもしれません。
アタッチメントの変化を促す
アタッチメントに限らず、人の性格とされるものには変化する余地があります。
アタッチメントの欲求に応えてくれる人との出会いから、安定したアタッチメントに変化していくことがあります。その人を起点に他者のとの関わり方が徐々に変わり、安定したアタッチメント対象が広がれば理想的です。
夫婦・カップルのパートナーとの良好な関係は、アタッチメントを安定に導きます。ただし、パートナーに求めすぎることに注意が必要です。不安傾向が強い人にありがちなのが、パートナーに過剰に関わり過ぎることです。また、過剰な関わりを求めることです。常に求められると苦しくなります。
先にも触れましたが、不安定型の人には、他者に頼る選択肢を持たない人がいます。あなたに頼ってもらうとうれしく感じる人がいるかもしれません。頼られないことをさびしく感じる人がいるかもしれません。個人に頼るのがむずかしければ、役所の相談窓口などの利用も考えらえます。カウンセリングも選択肢の一つです。
自分のアタッチメントのタイプや、思考と行動のパターンなど、自分自身を客観視する視点を持つことも必要です。私たちは、良し悪しを検討することなく、うまくいかない思考と行動を自動的に選択していることがあります。客観視することでそれに気づきやすくなります。気づきが変化のきっかけになります。
アタッチメントの観点から見るカウンセリングの意義
私は自分に自信があるとは言わないタイプで、そもそも自分に自信がないタイプで、強い自信を持つ必要もないと思っています。そんな私ではありますが、カウンセリングは安定したアタッチメント形成の起点になると自信を持っています。
自分を客観視して変化のきっかけをつかむ
人はストレスがかかると視野が狭くなり、思考が硬直するものです。リラックスしているときは、視野が広くなり、思考が柔軟になるもです。安全と安心が確保されているカウンセリングでは、広い視野と柔軟な思考を持ちやすくなります。
カウンセラーは意図を持った質問を重ねます。ここが友人との会話との違いです。思考を掘り下げる質問を行ったり、普段の自分とは異なる視点から視点から考えることを促したりします。カウンセラーの見方をフィードバックすることもあります。
そのような積み重ねが、自分の客観視を促します。
安全な避難所と安心の基地
傷ついた心を立て直せる場所があるからこそ、何かあっても味方でいてくれる人がいる確信があるからこそ、外の世界の探索を繰り返し行なえるのは、子どもに限ったことではありません。大人も同様です。
日常生活で何ら関わりがなく、法律によって個人情報保護が義務づけられていカウンセラーだからこそ、安全と安心が確保されます。安定したアタッチメントを形成する機会を得られなかった人にとっては、カウンセリングは最初の選択肢の一つになると思います。