【ジョハリの窓】他者を通じて自分を知る

執筆者:公認心理師・山崎孝

ジョハリの窓とは

「ジョハリの窓」とは、心理学者のジョセフさんとハリーさんによって提唱された概念です。元々は「対人関係における気づきのグラフモデル」といい、対人関係を進展させるモデルとして発表されました。後に2人の名前をとって「ジョハリの窓」と呼ばれるようになりました。

自己洞察や自己理解を深めていくツールとして、就活や研修などでもよく用いられています。「ジョハリの窓」を用いると、「カウンセリングにおいて、人はなせ気づきを重ねて自己解決に至るのか」を理解しやすくなります。

自己の4つの領域

ジョハリの窓では自己について、「自分が知っている/知らない」「他者が知っている/知らない」の4つの領域があると考えます。

  • 開放:自分も他人も知っている自分
  • 盲点:他人は知っているが、自分は知らない自分
  • 秘密:自分は知っているが、他人は知らない自分
  • 未知:自分も他人も知らない自分
ジョハリの窓

カウンセリングにお越しになって、「自分のことは自分が一番よく知っている」とおっしゃる方がいます。まったくその通りだと思います。ただし、本人がわかっていない、自覚していないこともあります。それらが本人の悩みや問題と関連しているケースが往々にして見られます。

本人がわかっていない、自覚していないことは、カウンセラーなどの聴き手も同じようにわからないのがほとんどです。本人もカウンセラーもわからないのに、カウンセリングで気づきを得て、次の気づきに発展します。なぜ、そのようなことが起きるのでしょう。

自己開示

来談者がカウンセラーに自己開示することによって「開放」の領域が「秘密」の領域の方向へ広がります。カウンセラーが来談者をより知ることになります。

自己開示

フィードバック

カウンセラーは、来談者の語りや表情、仕草などから、感じたことを来談者にフィードバックします。フィードバックを受けて「開放」の領域が「盲点」の領域の方向へ広がります。来談者が他者からそのように見えていることを知ります。

フィードバック

気づき

来談者の「自己開示」とカウンセラーの「フィードバック」を重ねることにり、「開放」の領域が「未知」の領域へ広がっていきます。それが「気づき」を生み、自己理解を深めます。カウンセラーを通じて自己対話を行い、自己理解を深めるとも言えます。

気づき

「気づき」と自己理解が深まると、来談者は自然と自己解決に向かいます。カウンセラーはそのプロセスを促進する対話術を日々磨いていいます。カウンセラーは来談者の代わりに解決するのではなく、来談者が自己解決に向かうプロセスを支援します。

他者との関係によって自分を確立していく

「ジョハリの窓」が示すのは、他者を通じて自己理解を深めていくことです。もう一つは、他者との関係を通じて自分を作っていくことです。どういうことか説明します。

あなたが紙コップについて友人と話していました。「頼りない紙コップやね」「そうやね」と会話が成立すると、あなたと友人にとって「頼りない紙コップ」という事実が確定します。

「価格の割にしっかりしてるね」「そうやね」という会話が成立すると、「コストパフォーマンスの良い紙コップ」という事実が確定します。

「自分はこのような人」と認識している自己像も、多くは他者との同意によって作られた事実です。一部の事実から作られた自己像は、正確ではなく歪んでいることがしばしばあります。その自己像が自分の悩みや問題の元となることがしばしばあります。

「自分を変えたい」とカウンセリングを受けられる方がいらっしゃいます。

自分を変えるとは、自己像を変えることです。自分で気づいていない自分など、これまで焦点を当てられなかった要素を取り入れて、新たな自己像を作ることです。

それには、日常生活で関わりのない第三者とのコミュニケーションが役に立ちます。日常生活で関わりがないからこそ、自己開示が促進されるからです。カウンセリングルームという非日常的な場所で行うのが望ましいです。日常を頭から追い出して、取り組みたいことに集中できるからです。

話すだけのカウンセリングに意味はないという声を聞くこともありますが、決してそうではないとご理解いただけたと思います。興味が湧いた方は、是非一度お試し下さい。