【アタッチメント(愛着)①】くっついて安心感を得るプロセスの積み重ねで育つ自信・社会性・共感性

執筆者:公認心理師・山崎孝

アタッチメントとは、不安などのネガティブな感情が生じたとき、特定の誰か(主に養育者)にくっついて(身体的に接触して)、安心感を得ようとすることです。アタッチメント経験の積み重ねによって自他への信頼感が育つなど、子どもの発達に重要な経験です。また、子どもの頃に形成されたアタッチメントスタイルは、生涯に渡って影響を及ぼします。

生きていくための適応的な行動

アタッチメントは日本語で「愛着」と訳されます。そのため「情緒的な絆」としばしば説明されます。しかし、この理論の提唱者であるボウルビィは、情緒的な絆より、不安を解消するシステム、生きていくための適応的な行動に重点を置いています。

子どもは不安になったり、傷ついたりしたときに、養育者(主に親)にくっついて安心感を得ようとします。安定したアタッチメント経験の積み重ねは、自他に対する信頼感を育て、必要なときに他者を頼って援助を得る能力を育て、心の理解力や共感性を育てます。詳しくは次の章で説明します。

養育者が子どものアタッチメント欲求に適切に応答できない場合は、不安定なアタッチメントスタイルが形成されます。アタッチメントスタイルの安定と不安定についても後述します。また、自他への信頼感などの成育は、アタッチメントだけで決まるものではないことを付け加えておきます。

アタッチメントが育てるもの

アタッチメントが育てるものについて詳しく触れたいと思います。

自他に対する信頼感(自己肯定感)

恐れや不安を感じたときに、親など特定の誰かが守ってくれるという経験を通して、他者が自分を受け入れて守ってくれる存在であり、自分は助けを得られる・愛される価値があるという感覚(自己肯定感)が形成されます。子どもはこの信頼をもとに他者との関係を築いていきます

安定したアタッチメントスタイルを持つ子どもは、困ったときに他者に助けを求めることができ、多くの人から助けを得やすくなります。

一方、虐待などの不適切な養育を受けた子どもは、他者の表情を誤って解釈する傾向があり、特に怒りの表情に敏感で、真顔を悪意と誤解する傾向があります。その結果、助けが必要なときに他者を遠ざけてしまう可能性があります。

幼少期のアタッチメント経験によって形成される、自分と他者に対する認知的な枠組みや信念の体系を内的作業モデル(Internal Working Model:IWM)といいます。内的作業モデルは以下の2つの側面を含みます。

  • 【自分に関するモデル】自分が愛され、大切にされているという感覚
  • 【他者に関するモデル】他者は信頼できる、頼りになるといった期待や信念

内的作業モデルは、個人の対人関係のパターンを決定づけ、大人になってからの行動や思考にも大きな影響を与えます。しかし、新たな経験や意識的な努力によって、変容することも可能であると考えられています。​​​​​​​​​​​​​​​​

カウンセラーの雑感

認知行動療法を学んだ人の中には、内的作業モデル認知療法のスキーマは同じことを指しているのでは、と思うかもしれません。私もそう思いました。

両者は異なる理論から導かれたものですが、経験によって形成されるのは双方に共通します。一方、内的作業モデルは人間関係に適用されるものですが、スキーマは広く生活全般に適用されるのが異なります。

【認知療法】
認知行動療法は、起源を異にする認知療法と行動療法が統合されたものです。認知療法は、偏った認知(思考・解釈)を修正することにより解決を図ります。行動療法は、学習理論に基づき、望ましくない行動を減らし、適応的な行動を増やすことにより解決を図ります。

【スキーマ】
自動思考を作り出す認知の枠組みを指します。信念と表現されることもあります。信念は、自分自身に対する信念(中核信念)と世の中や生き方に対する信念(媒介信念)の2つがあります。

自律性と自己効力感

アタッチメントの語源「くっつく」は依存性をイメージさせますが、むしろアタッチメントは、自律性を育むものと考えられています。繰り返しになりますが、アタッチメントの役割は、養育者とくっつくことで不安や恐れを和らげることです。「安全な避難所」の言葉で説明されます。

この経験を通じて、子どもは何かあったときには養育者に助けてもらえるという確信を持つようになります。その結果、安心感を持って自律的に探索活動を行い、「一人でいられる能力」を身につけることができます。「安心の基地」の言葉で説明されます。

さらに、この能力は自己効力感(できる感覚、能力面の自信)の形成にもつながります。子どもは不安や恐れを感じたとき、泣いたりして助けを求めます。そうして、他者の助けを得る体験を積み重ねます。この経験により、自分は他者の助けを引き出せるという自信に繋がります。

アピールさせて下さい

当カウンセリングルームは、「自分に自信がない悩み」の改善・解決を支援したい想いからスタートしました。自己肯定感自己効力感の支援にこだわりがあります。夫婦カウンセリングに力を入れているのは、親が子どもの安心の基地になってほしいという想いからでもあります。

心の理解力と共感性

アタッチメント経験は、心の理解力と共感性の発達に影響します。子どもが痛みを感じて泣いているとき、親も痛みの表情を浮かべます。子どもは親の表情によって自分の感情を理解し、親の「痛かったね」の言葉で感情にラベルをつけます。

このように安定したアタッチメント経験は、子ども心の理解力や共感性を発達させる基盤となります。逆に、虐待やネグレクトなどアタッチメントが形成されない関係では、これらの発達が阻害されます。

以前、笑うと「何がおかしい」と言われて、悲しんでいると「メソメソするな」と叱られて、無表情でいると「仏頂面するな」と親に言われ続けていた方が当カウンセリングルームに通われていたことがあります。

その方は、他者の気持ちを理解するのが苦手で、他者の自分に対する反応を敵意に捉える傾向がありました。また、自分の感情を言語化するのも苦手でした。その方との出会いは、私のカウンセラーとしての軸に大きな影響を与えています。

その他の影響

近年、アタッチメントが脳や身体の発達にも大きな影響が見られることがわかってきているそうです。改めて言われるまでもなく、誰もが実感していると思います。身体と心は互いに影響を与え合っています。アタッチメントが脳や身体の発達に影響を与えているのは当然のことと思えます。

幼少期に形成されたアタッチメントは、生涯にわたって影響を及ぼしますが、幼少期の経験が人生のすべてを決めるわけではありません。

アタッチメントの対象は、年とともに、友人、恋人、パートナーなどに変化して、広がってもいきます。幼少期に安定したアタッチメントを形成する機会を得られなかったとしても、後の人生のそれぞれの時期に形成される、様々な人とのアタッチメントによって、変化しうるものです。

アタッチメントの安定型と不安型

アタッチメントのスタイルには個人差があります。乳幼児期のアタッチメントの測定には、ストレンジ・シチュエーション法という実験観察法が用いられます。子どもが不安を感じる場面を作り、子どもの行動を観察してタイプ分けを行います。対象となる年齢は12〜18か月です。

実験の手順は以下の通りです。

  1. 子どもが養育者と一緒に実験室を訪れます。
  2. 子どもが遊んでいる間に養育者だけが部屋を出ます(分離場面)。
  3. 養育者が部屋に戻ります(再会場面)。
  4. 分離場面と再会場面の行動からアタッチメントのタイプを測定します。

この測定法によって以下の4つのタイプに分けられます。安定型以外の3つをまとめて不安定型と呼ぶこともあります。また、アタッチメントタイプの個人差の要因は、養育者の日頃の関わり方と考えられています。

子どものアタッチメントタイプ養育者の関わり方
<回避型>
分離場面でさほど混乱を示さず、再開場面を含めて常時、養育者との間に距離を置きがち。
子どもの働きかけに拒否的に振るまうことが多い。子供が泣いて近づこうとすると、かえって子供を遠ざけようとしたり、自分の方から離れていこうとしたりすることもある。
<安定型>
分離時に泣いても、再開場面ではスムーズに養育者を迎え入れる。
子どもが発するサインに敏感で、過剰な働きかけをすることが少ない。子どもとのやりとりがなごやかで、一緒に遊びを楽しんだりすることが多い。
<アンビヴィバレント型>
養育者をスムーズに受け入れられず、怒りを示したりしてぐずぐずした状態を長く引きずる。
子どもへの応答が、やや気まぐれ、自分の気分や都合により子どもへの対応が変わりやすい。
<無秩序・無方向型>
顔を背けながら養育者に近づいたり、不自然でぎこちない動きを見せたりする。すくんだり、うつろな表情のまま、動かなくなってしまうなと、養育者にくっつきたいのか、養育者から離れたいのか読み取りにくい。
精神的に不安定なところがあったり、子どもをひどくおびえさせるような行動を示すことがあったりする。ときに虐待に当たるような接し方をすることもある。
引用元:遠藤利彦(監修) 2022 アタッチメントがわかる本 「愛着」が心の力を育む 講談社 P53

もう少し説明を加えておきます。

回避型の子どもは、「自分は拒絶される存在である」「自分がくっつくこうとすると養育者は離れていこうとする」といった思考が形成されていると考えられます。くっつこうしなければ、養育者は離れていかずに側にいる。だから、不安でも距離を置いていると考えられています。

安定型の子どもは、「自分は受容される存在である」「他者は自分が困ったときに助けてくれる」といった思考が形成されていると考えられます。そのため、不安なときは、ためらいなく養育者にくっつけます。すぐに安心して、遊びに向かうことができます。

アンビヴィバレント型の子どもは、「自分はいつ見捨てられるかわからない」「他者はいつ自分の前からいなくなるかわからない」といった思考を形成しやすく、養育者の所在やその動きにいつも過剰なまでに用心深くなると考えられています。このタイプの子どもが再開場面で、養育者に怒りをもって接するのは、いつまたいなくなるかもわからない養育者に安心しきれず、怒りの抗議を示すことで、置いていかれることを未然に防ごうとする意思の現れと理解することができます。

回避型とアンビヴィバレント型は偏りがありながらもアタッチメントが組織化されていますが、無秩序・無方向型はアタッチメントが組織化されていません。虐待に当たるような不適切な養育を受けている子どもにこのタイプが多いことがわかっていますが、無秩序・無方向型に分類される子どものすべてが不適切な養育を受けているわけではありません。

アタッチメントの変化

乳幼児期のアタッチメントは、文字通り養育者との身体的接触によって形成されますが、年齢とともに精神的なものに変わっていきます。児童期では、養育者が困ったときに助けになってくれるといった確かな見通しが大切になります。

年を重ねるつれて、アタッチメントの対象は友人や教師、恋人、配偶者と変わっていきます。広がっていきます。幼少期に安定したアタッチメントを形成できなかった人も、その後の人間関係において安定したアタッチメントを形成するチャンスがあります。

大人のアタッチメント

大人のアタッチメントには、子ども時代のアタッチメントとの関連性が見られますが、人との関わりや経験の積み重ねによって、変わることも少なくありません。次のエントリーにて、大人のアタッチメントを取り上げます。アダルトチルドレンの人や、自分に自信を持てない悩みを持つ方が、生きづらさを改善する鍵の一つになると思います。