【安心の基地・カタルシス】話を聴いてもらうことに何の意味があるのですか

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

「話すことに何の意味があるのですか?」の問いに、安心の基地カタルシスの2つの観点から回答します。尚、当カウンセリングルームでは、特にご要望がある場合を除いて、傾聴だけのカウンセリングは行いません。

子どもが不安などネガティブな感情が生じたときに、養育者にくっついて安心感を得ようとする欲求や行為のことをアタッチメントといいます。アタッチメントが得られる養育者は、子どもの安心の基地になります。子どもは安心の基地で心を立て直して、新たな探索に向かいます。

アタッチメントは大人にも重要なものです。大人のアタッチメントは、対象が仲間やパートナーなどに変わっていきます。また、子どものような身体的なくっつきから、精神的なものに変わっていきます。形は子どもと異なりますが、安心の基地であることに変わりありません。

感情を表現することにより、抑圧されていた感情が解放されて、心が洗われる体験をカタルシス効果と言います。カウンセリングでは多くの方が、「話を聴いてもらってスッキリした」という体験をされます。安心の基地で自由に話すことで得られるカタルシス効果の一例です。

安心の基地

くっつくことで心を立て直す安心の基地

アタッチメントの語源は「くっつく(アタッチ)」です。くっつくことで安心感を得て、不安を解消するために行われます。アタッチメントの対象が安心の基地です。子どもであれば、母親をはじめとする養育者であることが多いでしょう。

子どもは好奇心を発揮して、安心の基地を起点に外の世界を探索します。ときには傷ついたり、不安になることもあるでしょう。そのようなときに、安心の基地に戻って心を立て直します。そして、新たな探索に向かいます。

このプロセスを繰り返すことで、自分は受け入れられる存在であるという感覚(自己肯定感)と、助けを得ることができる感覚(自己効力感)などの自信が育っていきます。

アタッチメントのスタイルには個人差があります。個人差は多くの場合、養育者の関わり方の違いによります。養育者が子どもの訴えに敏感で、訴えに対して受容的に応じている場合、アタッチメントスタイルは安定します。

逆に養育者が拒絶的であったり、気まぐれに接している場合などは、アタッチメントスタイルは不安定なものになります。頼るべきときに頼れない、逆に寄りかかりすぎる、人間関係に回避的など、生きづらさにつながっていくことがあります。

大人のアタッチメント

大人にもアタッチメントは重要です。大人の場合、対象が仲間やパートナーに変わっていきます。また、身体的にくっつくより、気持ちのくっつきが主になっていきます。

一方で、大人は自立を求められたり、弱音を吐いてはいけないなどの社会的風潮により、他者にくっつくことがむずかしくなります。子ども時代とは異なり、安心の基地を持ちにくくなります。

また、機能不全家族に育つなどの事情で、子どもの頃からくっつく体験が乏しく、どのようにくっつけば良いのかわからない人もいます。

安心の基地としてのカウンセリング

カウンセリングは、そのような大人にとっての安心の基地になります。物理的に安全なカウンセリングルームで、個人情報の安全は保護されていて、受容的・共感的に接するカウンセラーがお話しを伺います。お金はかかりますが、安心の基地を必要とする方の最初の選択肢になると思います。

カタルシス

流して浄める

カタルシスはギリシャ語の「κάθαρσις」(katharsis)に由来する「精神の浄化」を意味する言葉です。抑圧された感情を表現すると、その感情が解放されて、心が浄化されることを意味します。

語源的には「排泄」と「浄化」を意味し、「体内の有害物質を瀉出(しゃしゅつ)すること」または「宗教的な浄め」を指すらしいです。下ネタで恐縮ですが、便秘が解消してスッキリする感じを連想します。

絵を描く、音楽を聴くも感情の表現です。それらの行為によって感情を開放することも可能です。絵画療法・箱庭療法・音楽療法・サイコドラマなどの芸術療法に活かされています。

感情の解放

私たちは、社会的に受け入れられない感情や欲求、思考を無意識の中に押し込めることがあります。抑圧として知られている現象です。苦痛を意識の底に押し込めて、感じないようにして、自分で自分を守っています。ただし、行き過ぎると心身に支障を来すことがあります。

「話してスッキリ」は、抑圧された感情が解放されたときにも起こります。カウンセリングを受けた多くの人が体験されます。

感情の解像度が上がる

抑えつけられて疲弊しているときは、感情表現が乏しくなりがちです。上図の左側がそのイメージです。

抑圧された感情の解放が進むにつれて、心が緩んでいきます。心が緩むにつれて、思考の柔軟さが戻ってきます。ただ「しんどい」としか表現できなかったのが、どのようにしんどいのか表現が豊かになります。

それが上図の右側のイメージです。この状態を感情の解像度が上がると表現しました。感情の解像度が上がることによって得られるものを以下にあげます。

  • 気持ちが軽くなる:言葉にすることで整理が進みます。何が何だかわからない状態から抜け出すだけでも心が軽くなります。整理できると一息つけます。解決に向かう体制が整います。
  • 自己理解が深まる:一つの言語化をきっかけに、「話しながら気づいたのですけど」と様々な気持ちを言語化されていくことがあります。それは自己理解を深めていくプロセスでもあります。
  • サポートが得られやすい:周囲の人にとっては、本人が何にどのように困っているのかが具体的になればなるほど、有効なサポートを提供しやすくなります。
  • 関係の発展:表現が豊かになると、相手は気持ちを理解しやすくなります。相互理解が深まり、関係が発展してきます。

カタルシス体験の例

  • カウンセリング
    • 佐藤さんは、上司のパワハラに苦しんでいます。周囲はパワハラの対象になることを怖れて助けてくれません。家族には心配をかけたくありません。歯を食いしばってがんばってきましたが、そろそろ限界です。学生時代の友人に勧められてカウンセリングを受けました。心の中に閉じ込めていた気持ちを吐き出すだけで、荷物を降ろしたような軽さを感じました。上司は3ヶ月後に転勤の見込です。毎週カウンセリングで心を立て直してがんばりました。3ヶ月後、上司は転勤しました。
  • 友人との会話
    • 鈴木さんは、ストレスを感じている職場環境について伊藤さんに打ち明け、彼からの共感と励ましを受けました。伊藤さんの理解ある反応によって、鈴木さんは自分の感情を解放し、心理的なカタルシスを経験しました。
  • ハイキング
    • 田中さんは、仕事のストレスから逃れるために山登りを始めました。山頂に到達した瞬間、彼はすべての悩みを忘れ、自然の美しさに圧倒されました。この体験は、彼の心をリフレッシュさせ、日常生活への新たなエネルギーをもたらしました。
  • アート
    • 高橋さんは、感情をアート作品に表現することを趣味としています。彼は最近、失恋の痛みを抽象画に描き出しました。この創作活動を通じて、彼は自分の感情を再評価し、新たな自己理解を深めることができました。
  • 音楽
    • 木村さんはピアノが大好きで、感情が高ぶった時はいつもピアノに向かいます。彼女は感情を音楽に込めて演奏することで、心の中の緊張を解きほぐし、穏やかな気持ちを取り戻します。

カタルシス効果を得られる場所の一つが、アタッチメント・安心の基地です。カウンセリング・カウンセラーは、安心の基地となる有力な候補の一つと自負しています。