【自己効力感】自信に根拠は不要なのか

執筆者:公認心理師・山崎孝

断酒1年を達成しました。最初の数ヶ月間は頑張った感がありましたが、今は高揚感はほとんどありません。知人に「勝因は何?」と聞かれました。せっかくなので書き残しておこうと思います。

お酒で失ったもの

主に家飲みで、ほぼ毎日飲んでいました。晩ご飯のおかずを肴に割と長い時間飲みます。毎日飲むので安いお酒ですが、積もれば出費はそれなりになったのだろうと思いますが、計算したくありません。その時間とお金の3分の1でも読書などに使っていれば…と今も思います。

昔はウイスキーをロックで飲んでいました。身体の負担を少なくと考えてワインに変えました。あまり意味はありませんでした。毎年の人間ドックの結果は、注意を示す赤い数字がたくさんありました。

「今日は飲まないで本を読むぞ!」と気合いを入れて帰宅の途につきながら、寄り道してお酒を買った回数は数えきれません。そんなことを続けていると、自分への信頼が揺らぎます。自信をなくしていきます。

時間とお金と健康と自信を失ってきました。

予想以上にお酒が有害であることを知ったが…

「お酒は百薬の長」や「適量は身体に良い」という言葉があります。海外の権威ある雑誌に、「基本的に飲酒量はゼロがいい」という論文が発表されて話題になりました。以下の記事です。

内閣府のホームページに、薬物の依存性と主な作用の特徴の表が掲載されています。

たばこ(ニコチン)は精神依存が強い薬物ですが、身体依存はそれほどではありません。アルコールは、精神依存も身体依存も強い薬物です。

精神依存とは、「ないと物足りない」「その薬物ナシではいられない」状態のことです。長期間薬物の摂取を続けると、身体は薬物があるのが普通の状態となり、薬物が切れると離脱症状(脈拍が早くなる、発汗、手のふるえ等)が起きます。そうしてやめられなくなるのが身体依存です。

このような情報を仕入れることによって、お酒をやめる方向へもっていこうと思いました。しかし、ダメでした。挫折を繰り返して学習性無力感(自分は無力であると学習すること)に陥りました。

アプリが自己効力感を喚起した

禁煙して7,8年になります。「今日で禁煙○○日目。挫折するとこれまでのがんばりがムダになる」と自分に言い聞かせながらがんばりました。基本的にこれだけです。これでやめられました。タバコは身体依存がないからでしょう。

お酒も同じようにしてやめられるだろうと思っていましたが、何度も挫折して学習性無力感(自分は無力であると学習すること)に陥りました。タバコと同じようにいかなかったのは、身体依存があるからでしょう。

あるときTwitterで、断酒アプリを使って断酒に取り組んでいる人のつぶやきが流れてきました。そのつぶやきにはアプリのスクリーンショットがありました。このページの冒頭の画像は、私が撮ったアプリのスクリーンショットです。

そのスクリーンショットを見たとき、「これならできそう!」と自己効力感が高まるのを感じました。自己効力感とは「課題の達成に必要な自分の能力に対する確信」です。平たく言うと、「できる!」という確信です。

「今日で禁煙○○日目」とがんばっていたのは先に述べた通りです。この方法の弱点は、日を重ねるにつれて「大体100日目くらい」とあやふやになることです。あやふやだと意識への働きかけが弱いのです。だからといって、毎日記録するのは面倒です。

アプリなら自動で記録してくれます。スマホを見るたびにバッジで示してくれます。「大体150日目くらい」より「154日目」と記されるほうが入ってきます。それが「できる!」と感じさせたのです。

ダイエットに欠かせない行動は毎日体重計に乗ることです。意識づけのためです。食べたものを記録するだけのレコーディングダイエットも同じですね。

禁煙も禁酒もダイエットも、モチベーションが欠かせません。しかし、モチベーションは長続きしません。モチベーションでスタートダッシュして、継続を維持する仕組みや工夫が必要です。

行動変容ステージに当てはめると

行動変容ステージとは、生活習慣改善の保健指導にて、対象者の状態に適したサポートを提供するモデルです。本人の行動変容を行う意思と、本人が実際に行っている行動から、行動変容に対する準備性を評価します。そして、準備性に応じた支援を行います。以下の5つのステージに分けられています。

ステージ状態支援
無関心期生活習慣の改善に関心がない。行動変容の必要性を自覚しやくする。
・信頼関係を作る。
・情報提供を行う。
関心期生活習慣の改善に関心はあるが、
実行する意思がない。
行動変容の必要性の気づきと動機づけ。
・行動変容のメリットを伝える。
自己効力感が高まる情報の提供。
準備期生活習慣の改善を実行したいと
思っている。
決心する。実行に移す支援。
・目標設定や行動計画策定の支援。
・行動変容のメリットを振り返る。
自己効力感を育てる。
実行期生活習慣の改善を実行しているが、
持続する自信がない。
行動変容を持続する支援。
・実行を賞賛する。
・自分へのご褒美を促す。
維持期生活習慣の改善を実行しており、
持続する自信がある。
継続を維持し続ける支援。

以下のページにて、行動変容ステージを詳しく紹介しています。興味のある方は是非ご覧下さい。

無関心期の人に行動を起こさせるのが困難なのは容易に想像がつくと思います。無関心期の次に支援が難しいのは実行期の人だそうです。行動を始めるより継続がむずかしいのも想像に難くありません。

私は長年関心期の状態でした。何かのきっかけで(衝動的に)準備期を通り越して実行期に入ることがありました。3日坊主で何度も関心期に戻りました。アプリを知って自己効力感が高まり準備期に入りました。アプリを購入して再挑戦しました(実行期)。アプリは継続を支えてくれました(維持期)。

自己効力感

自己効力感は心理学者のバンデューラが提唱した概念です。バンデューラは心理学のテキストには必ず名前が出てくる偉い人です。モデリングの概念を提唱したことでも知られています。

自己効力感とは、「自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信が自己効力感である(出典:心理学辞典 有斐閣)」と定義されています。

平たく言うと「できる!」という確信です。

自己効力感と自信(自尊感情・自己肯定感)の関係

自己肯定感という言葉が流行っています。(能力の有無に関係なく)そのままの自分に価値があり尊い存在であるという感覚です。心理学ではそのような自信のことを自尊感情といいます(確立した概念ではないので異なる説明を見る機会もあると思います)。

自分にとって価値ある領域、重要である領域の自己効力感は自尊感情に影響を与えます。自分にとって価値のない領域、重要でない領域の自己効力感は自尊感情に影響を与えにくいです。

自尊感情が高い人は、チャレンジに失敗しても自分にOKを出しやすい人です。失敗への耐性が高いので、少々失敗しても再チャレンジに向かいます。成功体験を得やく自己効力感が育ちやすいです。そのプロセスが自尊感情をさらに高めます。

自尊感情が低い人は失敗を怖れる気持ちが強いです。そのままの自分にはあまり価値がない。その上、失敗したらもっと価値がなくなる。そのような考えがチャレンジを避けさせるように作用します。成功体験を積めないので自己効力感が育ちにくく、チャレンジしなかったことにより自尊感情が傷つくこともあります。

自己効力感を育てる4つの要素

自己効力感はどのようにして高まるのか。バンデュ−ラは4つの要素をあげました。

個人的達成

成功体験のことです。何らかの課題に取り組んで成功を体験すると、その課題に対する自己効力感が向上します。また、関連する領域への自己効力感も向上します。ジョギングを始めて体力の向上を実感した私は自転車通勤をするに至りました。

逆に失敗体験は自己効力感を失わせて、関連する領域への自己効力感も低下させます。自己効力感を育てるコツはスモールステップです。達成を一足飛びに目指すのではなく、少しのがんばりで届く程度のサイズに分解して(カウンセリングでは絶対に達成できるサイズに分解することもあり)、成功を経験しやすくします。

代理学習

観察学習やモデリングとも言われます。モデリングはNLP(心理学を用いた自己啓発)のテクニックと紹介する情報がありますが間違いです。バンデュ−ラが提唱した概念です。

他者の課題達成を観察することにより自己効力感を形成することです。観察の対象となる人のことをロールモデルといいます。代理学習の効果を得やすいのは、ロールモデルが自分と似た環境や経験を共有していることです。野球少年にとってイチローは、ロールモデルとしてふさわしくないかもしれません。

言語的説得

言葉による励ましです。何かを達成したとき、「よくやった」と適切なタイミングで適切なフィードバックを受けると、自己効力感が向上します。新たな課題に取り組むとき、「あのようにやれば大丈夫」という励ましも効果的でしょう。

肯定的でわかりやすい言語的説得を受けることで自己効力感が向上します。特に本人にとって大切な人、重要な人、信頼している人からの言語的説得は自己効力感を向上させます。恩師や憧れの人からの一言が、今も自分を支えてくれているという人もいると思います。

情緒的覚醒

心と身体は互いに影響を与え合っています。体調が良いときは、気持ちがポジティブになりやすく、体調が悪いときは、気持ちが後ろ向きになりがちです。ネガティブな感情は決して悪ではありません。不安は備えておきなさいというサインでもあります。しかし、過剰な不安は自己効力感を低下させます。ストレスコーピングのレパートリーを増やすなどして対処するのが望ましいです。

根拠のない自信などあるのか

昔ハマった自己啓発セミナーでは、「根拠のない自信を持て」とよく言われました。そう言われても自信を持てない人が一定数います。私もそうです。私が体験した自己啓発には、私のような人への回答がありませんでした。

私は基本的に、すべての自信には根拠があると考えています。根拠のない自信を持っているは、安定した自尊感情(自己肯定感)を持っています。自尊感情が安定している人は、失敗しても再挑戦に向かいやすく、成功体験を得て自己効力感が育ちやすいのは先に述べた通りです。

あなたの自尊感情が低いとすれば、それは誰かと誤った認識で同意したからかもしれません。客観的な唯一の事実など存在しません。あなたの自尊感情が低いとすれば、特定の誰かと同意された偏った認識によるものです。以下のエントリーにて詳しく紹介しています。