適応障害

執筆者:公認心理師・山崎孝

私たちは日々、状況や環境の変化、ストレスといったものに直面します。これらにうまく対応し、バランスを保ちながら生活していくことが「適応」です。しかし、時には「適応」のプロセスがうまくいかないことがあります。そのような状態を「適応障害」と呼びます。

適応障害とは

適応障害とは、日常生活において、環境の変化やストレスに適応できず、心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じた状態を指します。うつ病に比べて症状が軽度な場合が多いものの、うつ病に移行する可能性もあるため早めの対処が望ましいです。

適応障害の原因

うつ病の原因が多岐にわたるのに対して(原因がない場合もある)、適応障害はストレスの原因が明確です。主な原因は、以下のような日常生活上における出来事です。

  • 仕事上のストレス(異動、転職、過重労働など)
  • 学業上のストレス(入学、進学、受験など)
  • 家庭内のストレス(家族関係の変化、介護など)
  • 病気や死別などの喪失体験
  • 夫婦関係の悪化

適応障害の症状

適応障害の症状は、状況やストレス要因、個人の性格によって様々ですが、大きく以下の3つに分類されます。

適応障害の症状
  • 感情面の症状
    • 抑うつ気分、不安感
    • イライラ、緊張、焦燥感
    • 涙もろくなる
  • 思考面の症状
    • 集中力、記憶力、判断力の低下
    • 無気力、やる気の低下
  • 身体面の症状
    • 頭痛、肩こり、疲労感
    • 食欲不振、体重の変化
    • 不眠、睡眠の質の低下

これらの症状は、ストレス要因に適応できるようになると徐々に改善していきます。

適応障害の治療

適応障害の治療は、主に以下の3つの方法を組み合わせて行われます。症状によって異なりますが、環境調整とカウンセリングを中心に、薬物療法は補完的に行うのが一般的です。

適応障害の治療
  • ストレスの原因の除去(環境調整)
    • 例えば、上司との関係がストレス要因であれば、異動などの対策を取ります。
  • カウンセリング(心理療法)
    • ストレス対処法を身につけ、セルフケア力の向上を目指します。
    • 当カウンセリングルームでは、ブリーフセラピーと認知行動療法を用いて、問題解決に向けたサポートを行っています。
  • 薬物療法
    • 必要に応じて、抗不安薬や抗うつ薬などの薬物療法を補完的に行います。

適応障害のカウンセリング

当カウンセリングルームでは、主にブリーフセラピーと認知行動療法にてカウンセリングを行っています。

ブリーフセラピー(短期療法)
問題の原因を個人の内面に求めるのではなく、問題は他者との関係(相互作用・コミュニケーション)の中で維持されているという見方のもと、相互作用の変化を促して問題を解決に導く心理療法です。人を悪者にしない、人に問題を見出さない、人にやさしいカウンセリングです。

認知行動療法
偏った思考と行動に気づき、現実的な思考と行動を選択することによって、問題を解決に導く心理療法です。現在、最もメジャーな心理療法であり、様々な分野で用いられています。セルフケアの書籍の多くは認知行動療法に基づくものです。

下図は、ブリーフセラピーと認知行動療法を視覚的に表現したものです。

ブリーフセラピーは家族療法を起源とします。中でもコミュニケーション派と呼ばれる学派が起源です。その名が示す通り、問題を維持する悪循環(相互作用・コミュニケーション)に焦点を当てます。悪循環を変化させることで解決に導きます。

認知行動療法は、個人の思考と行動に焦点を当てます。問題状況において人は、非適応的(置かれた状況に対応できない)な思考および行動を習慣的に選択しています。適応的(うまく対応できる)な思考および行動を選択することで、問題を解決する心理療法です。

当カウンセリングルームの専門家は、公認心理師(国家資格)、ブリーフセラピスト(日本ブリーフセラピー協会)、家族相談士(日本家族心理学会)の資格を持ち、カウンセリング歴13年の経験があります。

適応障害の回復プロセス

カウンセリングの頻度は2週間毎から1ヶ月毎の来談が標準です。クライエントとカウンセラーの協議によって決めます。症状によって期間は異なりますが、6回を目安に考えて下さい。

心の不調は一直線に良くなるケースは少なく、良い悪いの波を繰り返しながら回復していきます。順調に回復へ向かっていたのに、あるとき悪化して、失望や不安を感じることがあります。それは正常とも言えます。カウンセラーは、そのような不安にも寄り添いながら回復をサポートします。

適応障害のカウンセリング事例

適応障害のカウンセリングの事例を紹介します。

クライエントは20代男性です。彼は負荷の高い部署への異動後に適応障害の症状が現れて休職に至りました。心療内科に通院しながら当ルームでのカウンセリングを開始しました。カウンセリング中に復職して、異動前の部署に戻りました。

クライエントの性格傾向として、他人の評価を気にしすぎる、できないことを責め、消えてしまいたいと考えることもありました。友人関係においては嫌われることを恐れ、会話を楽しめないとのことでした。また、完璧主義の傾向もみられました。

職場では、異動して初めての仕事に取り組むので、周囲の人たちのように仕事ができません。周囲の人たちの仕草や行動は、仕事ができない自分の批判と感じるようになりました。周囲にサポートを求められなくなり、毎日深夜まで働くことになりました。帰宅後は否定的な考えを反芻(頭の中でぐるぐる何度も考える)し、不眠に悩まされました。

カウンセリングでは認知行動療法を用いて、思考の偏りに対処するサポートを行いました。自力で対処できる目処がついたところで職場に復帰しました。復帰後は、反芻思考を止めて、今やるべきことに集中するサポートとセルフケアのサポートに重点を置きました。

当初は月2回を4ヶ月、その後月1回を4ヶ月実施しました。多少の不安を感じながらもうまく適応できていることが確認されました。2ヶ月後にフォローアップセッションを行い終了となりました。

このクライエントは症状が重かったため、終結まで13回(フォローアップセッションを含む)を要しました。早いケースでは6回程度で終了します。

適応障害の予防と周囲のサポート

適応障害を予防するためには、ストレス対処法やセルフケアの習得が重要です。また、周囲の人は、適応障害の人に対して共感的に関わり、改善点を指摘しないことが大切です。必要に応じて、家族が一緒にカウンセリングやクリニックへ行くのもよいでしょう。ただし、家族ががんばりすぎて疲弊しないようにすることも忘れてはいけません。

適応障害は、早期発見・早期対処が重要です。上記のような症状が続く場合は、一人で抱え込まずに、専門家に相談することをおすすめします。当カウンセリングルームでは、適応障害でお悩みの方々を全力でサポートいたします。お気軽にご相談ください。