執筆者:公認心理師・山崎孝
適応障害

うつ病かも?と思って精神科・心療内科を受診したところ、適応障害と診断されるケースがしばしばあります。
適応障害とは
はっきり確認できるストレスがあり、そのストレスに対する反応として生じる、情緒(抑うつや不安)や行動(暴力など)の変調が適応障害です。抑うつが中心の抑うつ型、不安が中心の不安型と表現されることがあります。
DSM-5では、「心的外傷およびストレス因関連障害群」というカテゴリーに分類されています。PTSD(心的外傷後ストレス障害)と同じカテゴリーです。PTSDが震災など非日常的な事態によるのに対して、適応障害は生活上のストレスによるものです。ちなみに、うつ病は「抑うつ障害群」のカテゴリーです。
※DSM-5:アメリカ精神医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」
DSM-5の適応障害の診断基準を以下に紹介します。
適応障害
- はっきり確認できるストレス因にさらされてから3ヶ月以内に発症する。
- 以下のうち1つまたは両方の証拠がある。
- そのストレス因に不釣り合いな程度や強度の苦痛。
- 社会的、職業的、他の重要な領域における機能の重大な障害。
- 他の精神の疾患ではない。
- 正常の死別反応を示すものではない。
- ストレス因が解消されると症状は6ヶ月以上持続することはない。
適応障害の症状
適応障害の症状には、抑うつ気分、不安、行動の異常などがあります。
抑うつ気分とは、憂うつな気分、楽しみを感じられない、意欲が起きない、悲しみ、絶望感、自分や周囲に対する否定的な考え、集中力の低下、不眠、食欲の低下、疲労が抜けない、などです。
不安とは、起きてないこと・起きそうにもないこと・起きても大して影響のないこと等などに対して、心配で仕方ない状態になることです。
行動の異常とは、家族や友人などに対する暴力、仕事や学校の無断欠勤などです。
ストレスにさらされてから、遅くとも1ヶ月から3ヶ月の間に発症するのが通常のケースです。また、ストレスが解消されると、6ヶ月程度で症状がおさまるのが通常のケースです。ストレスが長期間持続することで症状が長引き、うつ病に発展することがあります。
適応障害の原因
原因となるストレスは様々です。仕事、夫婦、親子、親族、恋愛、学校、病気など、生活上の様々な場面で生じるストレスです。
仕事で多く見られるのは、異動などによる人間関係の変化(上司や同僚がストレスに)、異動や昇進などによる仕事内容の変化(仕事の質・量、責任の重さ)などです。
家庭でのストレスは、夫婦関係、嫁姑関係、転居による環境の変化、子どもの進学による人間関係の変化(ママ友)等です。その他にも日常生活上の様々な場面において起こります。
病気になると、今までできていたことができなくなる、もしくは困難になることがあります。焦りや不安が生じて、それがストレスへの反応を敏感にします。このように、他の疾患がきっかけになることもあります。
ストレスに対する反応は人によって異なります。ストレスだけが原因ではなく、その人の認知(考え方・受け止め方・解釈)のクセや、ストレスコーピング(ストレス対処法)の有無にもよります。適応障害の適応は、環境への適応が困難で生じるという意味です。
適応障害の治療
はっきり確認できるストレスが原因なので、ストレスを除去すればいいと誰もが思うでしょう。職場なら人事を伴う環境調整です。しかし環境調整は、言うは易く行うは難しということがしばしばあります。その場合は、ストレスそのものの解決への取り組みや、ストレスコーピング(対処法)の獲得の支援が考えられます。
ストレスそのものが問題なのか、その人の認知(考え方・受け止め方等)にも原因があるのかによっても選択が変わってきます。後者の比重が大きいのであれば、抑うつ気分や不安への対処に薬物療法を行いながら、カウンセリングによって適応的な認知と行動の獲得をサポートする取り組みが行われます。
参考文献
- 浅井逸郎 監修(2021).「適応障害」って、どんな病気? 正しい理解と治療法.大和出版.
- 小川俊樹, 倉光修(2017). 臨床心理学特論’17. 放送大学教育振興会.
- 高橋三郎他 訳(2014). DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院.