【ストレスと上手くつき合う】私たちはストレスをどのように認識するのか(認知的評価と対処)

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

前回の投稿では、ストレスに対する反応を3段階に分けて説明する、ハンス・セリエの理論を紹介しました。あらゆる生体に共通するストレス反応の理論です。一方、ストレス反応は人によって異なります。ストレス反応における認知的要因を重視した理論を紹介します。

ストレス要因を2段階で評価

ストレス要因をどのように捉えるかは人によって異なります。ラザラスとフォルクマン(ストレス研究で著名な心理学者)は、人はストレス要因を2つの段階に分けて評価すると説明しました。2つの段階を一次的評価と二次的評価と記します(冒頭の図参照)。

一次的評価

一次的評価では、ストレス要因が個人にとって脅威的であるかどうかを評価します。脅威的ではないと評価すると、ストレス反応は起こりません。脅威的と評価されると二次的評価へ移行します。

例えば、重要なプレゼンテーションを任せられて、それを成長の機会(脅威的でない)と評価するか、失敗の恐れ(脅威的である)と評価するかの違いです。

二次的評価

二次的評価では、そのストレス要因に対処できるかどうかが評価されます。対処できると評価されればストレス反応は起こりません。対処できないと評価された場合、様々なストレス反応が生じます。

重要なプレゼンテーションを脅威的(失敗の恐れが大きい)と評価した場合でも、周囲のサポートや十分な準備により対処できると評価するか、サポートを得られず資源もなく対処不能と評価するかの違いです。

ストレス対処行動(ストレスコーピング)

ストレスが高い状況に直面したとき、私たちは様々な対処行動を取ります。それらの行動をストレスコーピングといいます。問題解決の方法を探る、他者にアドバイスを求める、話を聴いてもらう、カラオケで発散する等々、様々な方法が用いられます。

ストレスコーピングは大きく二つに分類されます。問題焦点型コーピング情動焦点型コーピングです。

  • 問題焦点型コーピング:ストレスの原因となる問題に直接取り組む方法です。例えば、仕事の締め切りが迫っている場合、計画を立てて効率的に作業を進めることがこれにあたります。この方法は、問題を解決することでストレスを軽減します。
  • 情動焦点型コーピング:問題を直接解決するのではなく、つらい感情を和らげたり、受け止め方を変えてみるなど、感情に働きかける対処行動です。以下に分類することができます。
    • 気晴らし型コーピング:趣味や散歩など、別の活動に集中することで一時的にストレスから離れます。
    • リラクゼーション型コーピング:深呼吸や瞑想、ヨガなどを行い、心身をリラックスさせます。
    • 社会支援型コーピング:友人や家族からの支援を求め、感情を共有することでストレスを軽減します。
    • 認知再評価型コーピング:ストレスの原因となる状況に対する見方を変えることで、感じ方を改善します。

ストレスコーピングの方法には、比較的効果の高いものもあれば、効果の小さいものもあります。また、深呼吸や漸進的筋弛緩法のように、思いたったら即実践できるものがあれば、カウンセリングのように事前に予約が必要なものもあります。

一つの対処法に頼るのではなく、複数の対処法を持つことが望ましいです。

漸進的筋弛緩法:意識的に筋肉に力を入れて、そのあとゆるめることを繰り返すことで、リラックスしていく方法です。(例)両肩をグッと上げて耳まで近づけて緊張させて(5秒間)、ストンと力を抜いてリラックスします(10秒間)

振り返って今後に活かす

ストレス要因が去ったあとは、やれやれと思ったり、ホッとしたりして、徐々にそのことを忘れていきます。忘れることは自分を守る手段の一つです。イヤなことをいつまでも覚えているのは健康に悪いですから。

しかし、いつも脅威を過大に評価して、対処できるのにできないと評価して、気持ちがつらくなることを繰り返している場合は、あえて振り返ってみることも有益です。適正に評価できるようになり、苦痛の緩和が期待できます。

その方法として、認知行動療法のコラム法を紹介します。

現実的な思考を選択して気持ちを軽くする

コラム法は、自分の思考のクセに気づいて、現実的な思考を選択することを練習するものです。認知行動療法の代表的な技法の一つです。

以下に私の例をあげます。

1.出来事勉強会の案内が届いた。次回は外部講師を招く。
講師の経験・実績が豊富で素晴らしい。
2.感情(強度)劣等感(80%)
無力感(80%)
3.考えカウンセラーとして負けている。
あの先生の後でプレゼンテーションをしても誰も興味を示してくれないだろう。
4.考えの根拠Aさんのカウンセリングがうまくいっていない。
1回で終わる人が増えている気がする。満足してもらえていない。
5.考えに反論感謝の手紙を書いて下さる人もいる。
初めから1回だけのつもりの人がいるのはやむを得ない
6.現実的な考え苦戦しているカウンセリングもあるが、概ねうまくできている。
中には感謝の手紙を書いて下さる人もいる。
この仕事は生涯に渡る研鑽を必要とするものだ。
実直に積み重ねて行くのみ。
7.感情(強度)劣等感(30%)
無力感(30%)

頭の中にあるものを紙などに書き出します。距離を置いて思考を眺めることで、客観的に評価する視点を持ちやすくなります。自分に質問する形で進めます。以下に要領を簡単に解説します。

コラム法の手順
  1. 出来事:何がありましたか(ある日の具体的な出来事)。
  2. 感情:どのような気持ちになりましたか。その強度を%で評価して下さい。
  3. 考え:どのような考えが浮かんでいましたか。
  4. 根拠:そのように考える理由は何ですか。
  5. 反論:その考えに反論して下さい。
  6. 現実的考え:根拠と反論を踏まえて現実にはどのように考えられますか。
  7. 感情:先ほどの気持ちはどうなりましたか。その強度を%で評価して下さい。

6.の「現実的な考え」は、3と4のように考えた「しかし」5もあるとつなげると案出しやすくなります。

ネガティブな感情が0になることはないと思いますが、多少のイヤな気持ちがあっても、自分に悪影響を与えない程度であれば良しとします。これを繰り返すことで、スキルが自分のものになっていきます。

参考文献
  • ノーレン・ホークセマ他(著) 内田一成(監訳) 2015 ヒルガードの心理学 第16版 金剛出版
  • 無藤隆他(著) 2004 心理学 (New Liberal Arts Selection) 有斐閣