さらけ出す

執筆者:公認心理師・山崎孝

自分に自信がない人の特徴の一つに、「失敗を(過度に)恐れる」があります。失敗を過度に恐れるあまり、「最初の一歩を踏み出せない」ことや「始めても途中でやめてしまう」という形に現れる人もいます

他人にどう思われるのか(悪く思われる)が恐いからです。多少の失敗で悪印象を持たれたり、ましてや嫌われるなんてことは、ほとんど起きないとわかっているけれど、恐さが上回ってしまいます。

私もその特徴を持つ人間です。失敗を恐れる人の気持ちはとてもよくわかります。そんな私が、自分の失敗や恥部をさらけ出すのは、実はカッコいいことなのかもしれないと思った2つのエピソードを紹介します。

社長解任

10数年くらい昔のことです。ある勉強会でのことでした。彼は自分で創業した会社の社長でした。休憩中だったと思います。受講生仲間が7,8人いる場で彼が言いました。

「社長を解任されたんです」

詳しい内容は書けませんが、会社に損失をもたらして、社長を解任されたというのです。自分が創業した会社なのに。その話に衝撃を受けましたが、それ以上に衝撃だったのは、その話をみんなの前でしたことでした。

「スゴいな、こいつ」と思いました。

当時の私なら誰にも言わないはずです。一生、他者には伏せておこうと考えたはずです。知られたら、「みんなに、どう思われるか」恐すぎます。

彼は(人生における)大きな失敗をしました。しかし、それが自分という人間の存在価値を損なうものではないと信じているのだろう。だから、みんなの前で話せるのだろうと思いました。その彼のあり方が「スゴい!」「かっこいい」と思ったのです。

後に「スゴい!」と思ったことを彼に伝えると、「平気なフリをしていたけれど、気持ちが折れそうで誰かに聞いてもらいたかった」と言って笑いました。その言葉を聞いても、彼への敬意は変わりませんでした。理由がどうであれ、みんなの前で言えるのはスゴいと思います。

親としてふがいない

ある研修でのことでした。家族など重要な人たちとの関係を、定められた手順に則って振り返るワークを行いました。4人一組のグループワークでした。ワークの最後に一人ずつ、気づきや感想をメンバーで分かち合いました。

私はこれまでの人生、家族にとって、ふがいない親であり、ふがいない夫であったという想いを持ち続けています。残りの人生でできるだけリカバリーしたいと思っています。ワークの最後で私は、そんなふがいない自分について話をしました。

昔は、自分が「ふがいない」なんて言えませんでした。どう思われるか恐いかったからです。カウンセラーとしての積み重ねと、年の積み重ねでしょうか。自分をさらけ出せるようになってきました。

グループの私以外のメンバーは、20代男性、40代男性、50代男性の3人でした。

私の話を聞いて、40代男性は「そうなのですね」と受け止められました。50代男性は「わかるわー。共感するわー」と気持ちが入った口調で言いました。20代男性は「すごいですね…すごい」と言いました。何をすごいと思ったのかは、聞きそびれました。

3人に共通しているのは、程度の差こそあれ、全員がポジティブに受け止めてくれました。少なくとも否定されることはありませんでした。素の自分を受け入れてもらえた感覚がありました。

心はどこにある?

「心はどこにありますか?」と聞かれたら、どう答えるでしょう。胸を指す人がいるかもしれません。頭(脳)を指す人もいるでしょう。家族療法を理論的背景に持つカウンセラーなら、「人と人の間」と答えるかもしれません。

「唯一絶対の事実はない。事実は人と人との同意によって形成される」とする考え方(社会構成主義)があります。心は「人と人の間」にあるとする考え方に通じるものがあります。

「自分に自信がない」人は、人生のどこかで「自分はダメだ」と誰かと同意したのかもしれません。多分そうでしょう。その同意は唯一絶対の事実ではないけれど、本人にとって重くて、他の事実を形成する機会がなくて、唯一絶対の事実として持ち続けているのでしょう。

さらけ出すことで、唯一絶対の事実と思っていたことが、実はそうではないのだ、と体験する機会を持てることがあります。やみくもにさらけ出すことをおすすめはしませんが、カウンセリングなどの安全な場所で勇気を出してみると、今後の人生に望む変化を起こすきっかけになるかもしれません。