公認心理師の山崎です(カウンセラー紹介ページ)。突然ですが、「心」はどこにあると思いますか。普段、何気なく使っている言葉ですが、いざ「どこにあるの?」と聞かれると、答えに窮してしまうのではないでしょうか。
私たちは日々、うれしい・悲しい・緊張する…など、さまざまな心の動きを感じています。そして、その心の不調が続くと、日常生活に支障をきたすことがあります。カウンセリングを検討することもあるでしょう。
この投稿では、「心はどこにあるのか?」という問いに対する回答を、「脳」「身体」「関係性」という3つの立場から紹介します。それぞれの立場を支える理論や研究を紹介しながら、カウンセラーとしての私自身の考えもお伝えします。
この記事が、皆さんの「心」への理解を深め、カウンセリングやカウンセラー選びの一助となれば幸いです。
また、当カウンセリングルームでは、人間関係の悩み、こころの不調、自分に自信を持てない、ご自身の性格、夫婦・カップルの悩みなど、様々なご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
心は「脳」にある:心のメカニズムを科学する
まず、心は「脳」にあるという考え方について見ていきます。脳は、私たちの感情、思考、記憶などを生み出す、まさに「心の司令塔」と言えます。
例えば、楽しいことがあった時に感じる「嬉しい」という気持ちや、失敗した時に感じる「悲しい」という気持ちは、脳内の神経伝達物質の働きによって生み出されます。具体的には、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質が、私たちの気分や感情に大きく関わっていることが分かっています。
脳には、「感情をつかさどる部分(例えば扁桃体)」や「思考や判断をつかさどる部分(例えば前頭前野)」など、それぞれの役割を持った部位が存在します。そして、これらの部位が複雑に連携することで、私たちの心の動きが生まれています。
近年の科学の進歩は目覚ましく、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)などの技術によって、脳の活動をリアルタイムで観察することが可能になりました。これにより、特定の感情や思考に伴う脳活動のパターンを捉え、心の動きをある程度「見える化」できるようになっています。
しかし、現在の科学技術では、心のすべてを脳の活動だけで説明することはできません。脳は非常に複雑な器官であり、その仕組みには未解明な部分が多く残されています。心の謎を解き明かすためには、さらなる研究の進展が必要です。
心は「身体」にある:心と身体の密接なつながり
次に、「心は身体にある」という考え方について見ていきます。この考え方は、心と身体は切り離せないものであり、相互に影響を与え合っているというものです。
例えば、緊張すると心臓がドキドキしたり、手に汗をかいたりします。これは、心が感じた緊張が、身体的な反応として現れている証拠です。逆に、悲しい時に涙が出るのは、心が感じた悲しみが、身体を通じて表現されていると言えるでしょう。
また、身体の状態が心に影響を与えることもあります。例えば、ヨガや瞑想、深呼吸などのリラクゼーション法は、身体をリラックスさせることで、心を落ち着かせる効果があります。これは、身体への意識的な働きかけが、心の状態を変化させることを示しています。
近年注目されている「身体化された認知」という考え方は、この「心身相関」の視点をさらに発展させたものです。身体化された認知とは、私たちの思考や感情、認知プロセスが、身体的な経験と密接に結びついているという考え方です。
例えば、前述の「温かい飲み物を持つと、相手に対して温かい気持ちを抱きやすくなる」という研究結果は、身体的な感覚(温かさ)が、心の状態(好意)に影響を与えることを示唆しています。
他にも、姿勢を正すと自信が高まったり、笑顔を作ると楽しい気持ちになったりするなど、身体の状態が心に影響を与える例は数多くあります。
心は「人と人の間」にある:関係性の中で育まれる心
最後に、心は「人と人の間」にあるという考え方について見ていきます。
これは、私たちの心が、他者との関わりの中で形成され、育まれていくという考え方です。この視点は、社会構成主義や家族療法(家族心理学)などの理論に基づいています。
社会構成主義とは、「現実は、人々の相互作用を通じて、社会的に構築される」という考え方です。 つまり、私たちの考え方、価値観、そして「心」そのものが、周囲の人々とのコミュニケーションや関係性の中で、作り上げられていくということです。
例えば、あなたが「山崎さんは良いカウンセラーですね」と言い、あなたの友人が「私もそう思います」と同意した場合、あなたと友人の間では「山崎さんは良いカウンセラー」という共通認識が生まれます。そして、この認識が周囲の人々に広がり、多くの人が共有するようになると、それは「事実」として扱われるようになります。
もちろん、逆のケースも考えられます。もし友人が「そうは思いません」と反論した場合、あなたと友人の間では「山崎さんは良いカウンセラー」という認識は共有されず、「事実」として定着しない可能性もあります。
このように、社会構成主義では、人々の相互作用を通して、様々な考えや価値観が生まれ、共有され、社会の中で「現実」として構築されていくと考えます。
さらに、私たちの心は、人間関係だけでなく、所属する集団、地域社会、そして文化や歴史、社会構造など、様々な要素から影響を受けています。
私たちは、幼少期から、養育者や家族、友人、先生など、周囲の人々との関わりの中で、言葉、感情表現、考え方、価値観などを学んでいきます。
例えば、幼い頃に養育者から愛情深く育てられた経験は、その後の人間関係や自己肯定感に大きな影響を与えます。逆に、幼少期のつらい経験や、周囲からの心無い言動は、自己肯定感を傷つけ、その後の人生に影を落とすこともあります。
また、私たちは日々、周りの人の表情、言葉、行動から影響を受けています。
例えば、友人が笑顔で話しかけてくれれば、自然と嬉しい気持ちになります。逆に、誰かが怒った表情をしていると、不安な気持ちになるでしょう。これは、私たちが、他者との関わりの中で、感情を共有し、影響を受け合っていることを示しています。
この「心は人と人の間にある」という視点は、私たちが「関係性」の中で生きていることを改めて気づかせてくれます。そして、心が健康であるためには、良好な人間関係を築くことが重要であることを示唆しています。
カウンセラーとしての私の考え:3つの視点を統合したアプローチ
私は公認心理師として、これまで多くのクライエントと向き合ってきました。その経験を通して、心を理解するためには、「脳」「身体」「関係性」の3つの視点を総合的に捉えることが重要だと考えています。
なぜなら、どれか一つの視点だけに注目すると、大切な側面を見落としてしまう可能性があるからです。例えば、うつ症状に悩むクライエントに対して、脳の視点だけからアプローチするのではなく、身体的な症状や人間関係の問題にも目を向けることが必要です。
そのため、カウンセリングでは、まずクライエントの困りごとを丁寧に伺い、現状をしっかりと把握することから始めます。その上で、必要に応じて、以下のようなアプローチを組み合わせていきます。
脳の視点:クライエントさんの思考パターンや認知の歪みに焦点を当て、より現実的で柔軟な考え方ができるようにサポートします。(例:認知行動療法)
身体の視点:リラクゼーション呼吸法や筋弛緩法などを取り入れ、身体の緊張をほぐし、心身のバランスを整えるお手伝いをします。(例:呼吸法、筋弛緩法のセルフケア)
関係性の視点:クライエントさんを取り巻く人間関係(家族、友人、職場など)に目を向け、コミュニケーションの改善や、より良い関係性の構築をサポートします。(例:家族療法)
このように、複数の視点を組み合わせることで、より多面的にクライエントを理解し、効果的なサポートを提供できると考えています。
そして、特に私が重視しているのは、「関係性の視点」です。なぜなら、私自身の経験からも、心の健康は良好な人間関係と密接に関わっていると感じているからです。
私が心理学に惹かれた理由の一つは、過去にうつ病と診断された経験と、その背景に「自信のなさ」があることに気づいたことです。以来、私にとって自信はライフワークに等しいテーマになっています。
心理学では、「自信」に関する概念として、「自尊感情」と「自己効力感」がよく用いられます。
自尊感情:自分自身の存在価値を肯定的に捉える感覚(「私は価値のある人間だ」と感じる力)
自己効力感:特定の課題や目標を達成できるという、能力に対する自信(「私はこれができる」と感じる力)
「自尊感情」は主に、他者から受け入れられ、認められる経験を通じて育まれます。一方、「自己効力感」は、小さな成功体験を積み重ねることで高まります。
そして、この2つは相互に影響し合っています。
自尊感情が安定している人は、たとえ失敗しても過度に落ち込むことなく、前向きに挑戦を続けることができます。その結果、成功体験が増え、自己効力感が向上します。そして、成功は周囲から賞賛されることが多く、さらに自尊感情が高まるという、好循環が生まれるのです。
私自身の経験を振り返っても、友人や心理学の先生から認められた経験、小さな成功体験の積み重ねが、私の自尊感情と自己効力感を高め、自信を育んでくれたと感じています。
参考ページ:自分に自信がない悩み
現在、私はカウンセラーとして、夫婦関係や家族関係の悩みにも多く携わっています。これらの問題は、まさに「人と人の間の問題」であり、関係性の改善が、問題解決の鍵となります。
心は、脳や身体に宿りながら、人と人との関わりの中で、ダイナミックに変化し、成長していくものです。そして、3つの視点は、どれも心を理解する上で欠かせないものです。特に、「関係性」の中で心の健康を育むという視点は、私自身の経験からも、カウンセリングの現場でも、非常に大切にしている視点です。
最後に
もし今、あなたが何らかの悩みを抱えているなら、一人で抱え込まず、信頼できる人に話してみませんか。人とのつながりの中で、解決への糸口が見つかるかもしれません。
そして、専門家のサポートが必要だと感じたら、ぜひカウンセリングも選択肢の一つとして考えてみてください。あなたの心が、少しでも軽くなることを願っています。
当カウンセリングルームでは、あなたのお話をじっくりと伺い、あなたに合ったサポートを提供いたします。どうぞお気軽にご相談ください。