執筆者:公認心理師・山崎孝
家族療法


「心はどこにあるのか?」の結論は出ていないようです。人の間と書いて人間です。心は人と人の間にあるのかもしれません。家族療法は、集団内の関係の変化を通して問題解決を図る心理療法です。
家族の問題に取り組むのが家族療法と誤解されることがあります。元々は家族を含む人間集団(職場、組織、地域、他)を研究対象としていました。中でも結びつきが強い集団が家族で、家族にアプローチすることが多かったことから家族療法と呼ぶようになりました。
家族療法とは
心理療法は多くの場合、個人に焦点を当てます。家族は背景として理解します。家族療法では、家族・夫婦などの人間集団をひとかたまりのシステムとして捉えます。
問題は、それが個人の問題と見なされているものであっても、システム成員の相互作用によって生じていると考えます。言い換えると、家族などの人間集団が、問題を維持するシステムになっていると考えます。
例として、夫婦関係が悪化している家庭に子どもの不登校が起きたとします。

子どもの不登校が起きると、配偶者に向けていた関心の幾ばくかを子どもに向けることになります。その結果、夫婦の対立が沈静化します。家庭が崩壊せず維持される結果になります。

この場合、夫婦関係が改善すれば、不登校が必要なくなると考えられます。
このように、システム内の相互作用を変化させて、問題維持システムから問題解決システムに変える支援を行います。「問題がある人はいない。問題を作るシステムがある」というスタンスが個人的に大いに気に入っています。
上記は架空の例です。不登校の原因が夫婦関係にあると定義するものではありません。家族療法を説明するための架空の例であることをご理解下さい。不登校には様々な原因があります。
家族療法の理論
家族療法は一人の創始者によるものではありません。複数の学派があり、折衷的に用いられています。ここでは、システム論と円環的因果律の2つの説明にとどめます。
システム論
先に述べた通り、家族療法では人間集団をひとかたまりのシステムとして捉えます。
システムとは、互いに影響を与え合っている複数人の集まりです。友人関係、職場、組織、地域もシステムです。中でも家族は結びつきが強く、支援する機会が多いことから、家族療法と呼ばれるようになったと思われます。
問題はシステム成員の相互作用によって生じていると考えます。問題を維持するシステムを問題を解決システムに変化させるように働きかけます。
システムの捉え方には、構造・機能・発達の3つの基礎的な概念があります。
構造とは、家族の役割や心理的な位置関係を見ます。境界・連合・権力といった言葉が使われます。「親子の世代間境界があいまいで子の自律が制限されている」「母子の連合が強くて父が孤立している」「子どもを腫れ物扱いして親子のパワー(権力)が逆転している」のような捉え方です。
機能とは、コミュニケーションです。家族などの集団内では、日常的に同じようなコミュニケーションが繰り返されています。<夫がため息をつく➡妻がおびえる➡妻が子どもと密着する➡夫が孤独を感じる➡夫がため息をつく➡繰り返し>のようなコミュニケーションの流れを捉えます。
発達とは、時間軸による変化です。家族であれば、子どもの成長に伴って親役割が変わります。家族ライフサイクルの視点から、多世代(概ね3世代)の歴史的枠組みからなどの捉え方です。
家族療法のカウンセリングは、必ずしも複数人の参加を必要とするわけではありません。個人カウンセリングであっても、システムやシステム内の相互作用を想定した支援であれば、家族療法を行っているといえます。
円環的因果律
普段、私たちは何からの問題が起きたとき、【原因 ➡ 結果】と一方通行的に、直線的に捉えます。例えば【夫が声を荒げる ➡ 妻がおびえる ➡ 会話がなくなる】と捉えます。

このように直線的な図式で捉えるのを直線的因果律といいます。
家族療法では、原因と結果は円環的に循環していると捉えます。円環的因果律といいます。

【夫が声を荒げる ➡ 妻がおびえる ➡ 会話がなくなる ➡ 夫がストレスをためる ➡ 夫が声を荒げる ➡ 妻がおびえる ➡ 会話がなくなる ➡ <以下繰り返し>】と捉えます。どちらの言動も原因であり、結果でもあります。
人数が増えても同じです。

【父親が母親に声を荒げる ➡ 母親が抗議する ➡ 夫婦ケンカになる ➡ 子どもが怯えて泣く ➡ 父親が母親の責任と責める ➡ 母親がさらに抗議する ➡ 子どもがさらに泣く ➡ <以下繰り返し>】
直線的に捉えると、父親が声を荒げることが唯一の原因と考えてしまいがちです。円環的に捉える家族療法では、原因探しをするより、悪循環を好循環に変えることに焦点を当てます。
上記の例は、父・母・子の3人全員が問題の解決を目指して行動しています。残念ながら、解決行動が問題を維持するように作用しています。これを偽解決と呼びます。偽解決の循環を断ち切るのが家族療法のサポートとなります。
以下は家族療法の学派の一つ、コミュニケーション(MRI)派の創始者の論文集です。「解決が問題である」のタイトルはそのままですね。
短期療法
短期療法(Brief Therapy)は家族療法の学派の一つです。当時主流の精神分析によるカウンセリングは面接回数がとても多いものでした。そのアンチテーゼとして短期と命名されたと言われています。効果的かつ効率的な支援を目指す心理療法です。
MRI短期療法は、偽解決の循環(悪循環)を断ち切り、新しく良循環を作り出す支援を行います。解決志向アプローチ(SFA)は、既にある例外としての良循環を広げていく支援を行います。
短期療法では、過去に焦点を当てた問題や原因の追及はあまり行いません。良循環を作り出す・広げることで変化を起こすのを目標とします。
まとめ
- 家族療法は人間集団内の関係の変化を通して問題解決を図る心理療法。元々は家族・職場等の人間集団が研究対象だった。家族以外の人間集団にも適用できる。
- 人間集団を一つのシステムと見立てる。個人の問題に見えるものも、システム内の相互作用によって生じていると考える。
- 「原因→結果」の直線的な因果論を採用しない。「原因(結果)⇄結果(原因)」の双方向的に捉える。円環的因果律という。
参考文献
下山晴彦編(2009)『よくわかる臨床心理学 改訂新版』ミネルヴァ書房
中島義明他編(1999)『心理学辞典』有斐閣
中釜洋子他(2008)『家族心理学』有斐閣ブックス
若島孔文他(2018)『新版 よくわかる!短期療法ガイドブック』金剛出版
東豊(2010)『家族療法の秘訣』日本評論社
平木典子他(2019)『家族の心理 第2版』サイエンス社