性格を変えなくて良い

執筆者:公認心理師・山崎孝

「性格を変えたい」「考え方を変えたい」とカウンセリングに来られる方がいらっしゃいます。うまくいかないことが続くと、性格ごと変えてしまいたいと思う気持ちはわかります。

しかし、性格も考え方も変える必要はありません。むしろ、変えてはいけません。

性格も考え方も役にたっているから持ち続けている

その性格や考え方を持ち続けているのは、それが役に立ってきたからです。

長所と短所はコインの表と裏のようなものです。勇敢という長所は、場所や状況が変われば、危なっかしいという短所になるかもしれません。臆病という短所は、場所や状況が変われば、慎重で安心という長所になるかもしれません。

今、つらくなったり苦しんだりしているのは、これまでの人生において概ね表を向いていた性格や考え方が、今いる状況において裏を向いているからと言えます。

性格や考え方を無理に変えようとして起こる副作用

変えなければいけないと思うことによって、さらに自分を苦しめる副作用が生じます。性格も考え方も、そう簡単に変わるものではありません。それを無理やり変えようとすると、変えられない自分を責めてさらに苦しくなることがあります。

性格や考え方を変えたいと訴える人の多くは、自分に自信がない人です。そんな自分がイヤで変わりたいと考えます。私もそうだったので(今でも多少残っています)、その気持ちはとてもよくわかります。

しかし、性格や考え方をまったく変えようとすることは、自分自身を否定していることでもあります。自分自信を否定して自信がつくことはありません。

「考え方の修正」迫る“なんちゃって専門家”たち

やっかいなことに、性格や考え方を変えることを推奨する対人支援職がいるようです。考えを変えるための方法として、認知行動療法を謳っていることが多いようです。

認知行動療法は、考え方を変えるための心理療法ではありません。現実に適応する思考と行動を選択して、現状を良い方向へ変えていくことを目的としています。残念ながら「考え方を修正する方法」として用いる対人支援職がいるようです。

認知行動療法の第一人者である大野裕先生は、そのような対人支援職を『なんちゃって専門家』と表現しています。

近年、認知行動療法は精神疾患の治療法として広く用いられるようになりました。確かな効果も証明されています。しかし、本当に実力のある専門家の養成には時間が掛かり、まだ十分ではありません。その一方で、技術不足の「なんちゃって専門家」が多く現れ、認知行動療法もどきを行うようになりました。不適切な認知行動療法を行うと、回復しないばかりか、副作用に見舞われることもあります。

「考え方の修正」迫る“なんちゃって専門家”たち | ヨミドクター(読売新聞)
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170314-OYTET50022/ 2019年10月16日閲覧

性格や考え方を変えるのではなく現実的に対処する

必要なのは、性格や考え方を変えることではありません。

つらくなったときは、そのときの状況や自分の気持ちや考えをしっかりと見つめて、適応的な思考と行動を選択して、現実的に対処することです。思考の幅を広げて、物事を多面的に見て、柔軟に考えて行動することが目的です。

よく用いられる例に「コップ半分の水」があります。考え方を変えようと勧める人は、「水が半分しかない」ではなく「水が半分もある」と考えましょうと言うかもしれません。

現実は「コップ半分の水がある」です。状況によって「半分しかない」と考えるほうが良いこともあります。「半分もある」と考えるほうが良いこともあります。常に楽観的に考えるのではなく、状況によって適応的に考えて、適応的な行動を選択することです。

カウンセリングでは、クライエントが自力で適応的な思考と行動を導き出して、選択できるようになることを支援します。

「自分を変えたい」「考え方を変えたい」けれど「変えられない」と苦しそうに訴える方が少なくありません。そのような方のヒントになれば幸いです。

まとめ

  • 今の性格や考え方を持ち続けているのは役に立ってきたから
  • 性格や考え方を変えようとしてはいけない
  • 認知行動療法は考え方を変えるためではない
  • 現実をしっかり見つめて適応的な思考と行動を選択する