あなたの長所の見分け方・伸ばし方

執筆者:公認心理師・山崎孝

日本経済新聞社のサイトに掲載されている記事に触発されて、このエントリーを書いています。

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記事の内容を簡単に紹介します。就活生へのアドバイスです。まずは採用面接に臨む姿勢について述べられています。

企業は学生を「良い悪い」で評価するのではない。自社に「合っているか否か」で評価している。作った自分を見せるのではなく、素の自分を見せて企業に委ねるのが良い。そうすれば、自然に自分に合った企業に採用される。

では、素の自分を見せるにはどうすれば良いか。

「自分らしいエピソード」を伝えることである。思いつかない学生に筆者は、「あなたの短所・欠点は何ですか」と問いかける。

「長所は何ですか?」と聞かれても…

自信がない人へのアドバイスとして、「自分の長所をリストアップする」があります。これは有効でないことが多いです。リストアップされた内容の多くは、他者に言われた経験があるものです。他者から見れば長所でも、本人には普通で(だから長所なのですが)、自分では長所と思えないことが多いのです。

「私には長所なんてありません」と言い切ってしまう人さえいます。そこまで極端ではなくても、「私の長所は○○です」と言えない人、「あなたの長所は○○やね」と言われても素直に受け取れない人は案外多いものです。以前の私がそうでした。今も多少残っています。

そのような人は、「あなたの短所・欠点は何ですか」から始めてみると、新たな視点から自分を見られるかもしれません。

愛情の反対は?

昔むかし、自己啓発セミナーにハマっていた時期がありました。ある講座で講師に当てられて、「愛情の反対は何ですか?」と問われました。「憎しみ」と答えました。自己啓発セミナーあるあるですね。

「愛情の反対は憎しみではなく、無関心です」と講師は言いました。マザー・テレサの言葉として有名です。ご存じの方は多いでしょう。「愛憎の念が入り混じる」「愛憎相半ばする」という言葉があります。相手に強い関心があるという意味では、愛情と憎しみはコインの裏表の関係と言えます。

「成功」の反対はどうでしょう。「失敗」と答えてしまいそうですけど、話の流れからすると、それは不正解のような気がします。

これも昔むかしの個人的なエピソードです。ある大手企業の創業メンバーの方と食事をする機会をいただきました。話の内容は忘れてしまいましたが、記憶に残っている言葉があります。

参加者の一人が、「失敗続きで…周囲から冷たい言葉をかけられることもあります」と言いました。すると、その方はおっしゃいました。

「失敗とちゃう(大阪弁で「違う」の意味)」

「(成功の)途中や」

「途中って言うといたらええねん」

失敗は「こうすればうまくいかない」データに過ぎないと言われます。行動しているからこそデータを蓄積できます。そう考えると、「なるほど『失敗』は『成功』の途中やな」と思えます。成功と失敗の反対は、「行動しない」となりそうです。

長所の反対は?

ここまでの流れを踏まえると、「長所の反対は何ですか」と問われて、「短所です」と答えると間違いであることは想像に難くありません。

また、「長所と短所はコインの裏表」と続くことも想像に難くありません。では、長所と短所の反対は何でしょう。日経の記事では「特徴がない」としています。「個性がない」とも言えそうです。

カウンセリングでよくお話しするのは、「行動が早い」という長所は、場所が変われば「せっかちで危なっかしい」という短所になり得る例と、「決断が遅い」という短所は、場所が変われば「慎重で安心できる」という長所になり得るという例です。

日経の記事では心配性の学生に対して、心配性だから用意周到であること。ゼミのイベントで用意周到さが発揮されたエピソードは、採用面接においてアピールポイントになるとアドバイスしたそうです。

短所を裏側から見れば長所を見つけやすくなります。

性格を変えるのではなく幅を広げる

「性格を変えたい」と訴えるクライエントさんが一定数いらっしゃいます。最近では、「自己肯定感が低い」「HSPかも」とおっしゃる方が増えています。カウンセラーは、「そのように認識しているのだな」と受け止めますが、(少なくとも当カウンセリングルームでは)性格を変えようとは考えません。

クライエントさんが何かに困っているのは、特徴や個性が短所として機能してしまう状況にいるのだと考えます。クライエントさんが自力で、その状況や問題に対処できるようにサポートしようと考えます。対処出来るようになれば、「性格」「自己肯定感」「HSP」に囚われなくなる方がほとんどです。

「性格を変える」と特徴や個性を失うことにもなりかねません。慎重さや繊細さを持ち続けているのは、人生において多くの場面で長所として機能したからでしょう。それを変えたり捨てたりするのは自己否定にもなりかねません。

長所になる状況と短所になる状況を認識して、短所になる状況にしっかり対処できる術を身につける。性格を変えるのではなく、様々な状況において現実的・適応的な考えや行動を選択できるようになりましょうと提案しています。簡単に言うと「幅を広げましょう」です。

当カウンセリングルームでは、このような考え方で支援しています。