【ジョハリの窓】他者を通じて自己理解を深める

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

「ジョハリの窓」は、心理学者ジョセフ・ルフトとハリー・インガムが提唱した、自己理解と他者理解を深めるためのモデルです。このモデルは自分自身について、「開放」「盲点」「秘密」「未知」の4つの領域から成ると考えます。

自分自身の4つの領域

ジョハリの窓の4つの領域

ジョハリの窓では自己について、「自分が知っている/知らない」「他者が知っている/知らない」の4つの領域があると考えます。

  • 開放の窓(開放領域):自分も他者も知っている自分
  • 盲点の窓(盲点領域):他者は知っているが、自分は知らない自分
  • 秘密の窓(秘密領域):自分は知っているが、他者は知らない自分
  • 未知の窓(未知領域):自分も他者も知らない自分

このモデルの肝は、自己開示フィードバックを通じて開放の窓を拡大し、自己理解他者理解を深めるところにあります。

カウンセリングでは、来談者さんの自己開示と、カウンセラーからのフィードバックの積み重ねによって、新たな気づきを得るということが起こります。

研修などでも活用されています。自己開示によって自分をより理解してもらえます。同僚からのフィードバックによって、自分では気づかなかった自分の強みや改善点に気づくことができます。この過程を通じて、メンバー同士の信頼関係の深まり、チーム全体のパフォーマンス向上が期待できます。

言葉だけではわかりにくいので、以下に図を用いて説明します。

自己開示とフィードバックから気づきへ

自己開示

自己開示によって、開放の窓が広がり、秘密の窓が狭くなります。図は相手が自分のことをより知ることになったことを示しています。

カウンセリングでは、来談者さんがカウンセラーに自己開示することによって開放の窓が広がります。

研修では、何らかのテーマを与えられて、そのテーマについて自己開示していくといった形が取られるのでしょう。

フィードバック

フィードバックを受けることによって、自覚していなかった自分を知る機会になります。

目で見えるものは鏡で見れば気づけますが、価値観や思考、行動のパターン、スタイルといったものは、自分では当たり前すぎて、自力で気づくのは困難がことが多いです。フィードバックを得る機会は貴重なものです。

カウンセラーは来談者さんの話を聞いて、自分の理解が合っているかをその都度、来談者さんに確認します。その確認に対して来談者さんは、より正確に表現する言葉を探すことがあります。そのプロセスによって、考えや気持ちの解像度が上がっていくのもカウンセリングで起きることです。

研修であれば、ときには意見を戦わせて深めていったり、フィードバックによって自分の幅が広がることも起きるでしょう。また、フィードバックとは相手の自己開示でもあります。自己理解と他者理解の双方が深まることも期待できるでしょう。

気づき

自己開示とフィードバックを重ねることで、開放の窓は上図のように広がっていきます。未知の窓へ広がっていきます。盲点の窓が開放の窓に変わることも気づきと言えますが、未知の窓が開放の窓に変わることは、より深い気づきを得たことになるかもしれません。

気づきによって自己理解を深めて、自ら解決に向かっていくのが傾聴のカウンセリングです。深い傾聴とは、以上のようなプロセスが起こる傾聴のことを言います。

当カウンセリングルームでは、ご本人が希望する場合を除いて、傾聴だけのカウンセリングは行いません。しかし、来談者さんがカウンセラーのアドバイスを希望して始まったカウンセリングが、傾聴だけで解決に至るケースもあります。

開放の窓の適切な調整

開放の窓を広げることは、常に望ましいとは限りません。状況や人間関係に応じて、開放の窓を広げることが望ましい場合もあれば、逆に狭めることが望ましい場合もあります。以下に例をあげてみます。

開放の窓を広げるのが望ましい状況・人間関係

以下はあくまで一般的な例です。家族関係においては、一般的には開放の窓を広げるのが望ましいと考えられます。しかし、極めて過干渉な親に対しては、むしろ狭くするのが望ましいケースも考えられます。あくまで一般的な例であることをお断りしておきます。

  • 親密な人間関係
    家族や親しい友人、パートナーとの関係では、開放の窓を広げることで信頼関係が深まり、相互理解が促進されます。お互いの考えや感情を率直に共有することで、安心感や絆が強まります。
  • カウンセリングやコーチングの場面
    カウンセリングやコーチングでは、自己開示が来談者さんの成長や気づきを促します。カウンセラーとの信頼関係を築くためには、来談者さんが自身の考えや感情を率直に話すことが重要です。
  • チームビルディングや職場の研修
    職場やチームの中で、メンバー同士の信頼関係を築きたい場合には、適度な自己開示が役立ちます。個々のメンバーが持つ強みや弱みを理解し合うことで、協力や助け合いが生まれ、チーム全体のパフォーマンスが向上することが期待されます。
  • 問題解決
    対立が発生した際に、当事者が自身の感情や考えを率直に伝え合うことで、誤解が解けやすくなり、建設的な解決策を見つけやすくなります。

開放の窓を狭めるのが望ましい状況・人間関係

例外があり得るのは、こちらも同様です。あくまで一般的な例であることをご了承下さい。

  • 職場での上下関係や公の場での発言
    上司や同僚などの関係性においては、個人的な情報を過度に開示することは、職業上のリスクを伴う場合があります。たとえば、弱みや個人的な悩みを広く共有することで、評価や人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。
  • 新しい関係や信頼が十分に構築されていない関係
    初対面の人や信頼関係がまだ薄い人との間で、過度な自己開示をすると、相手に不快感を与える可能性があります。適度な距離を保ちながら、徐々に信頼を築いていくことが重要です。
  • 不健全な人間関係
    他者の支配的な態度や否定的な反応が予想される場合、自分を守るために自己開示を控えることが有効です。攻撃的な人や感情的に不安定な人に対しては、自分の弱点を見せない方が良い場合もあります。
  • 個人情報の保護が必要な場面
    個人的な情報やプライバシーに関する情報を保護する必要がある場合、自己開示を控えることが重要です。特に、SNSやインターネット上での発言は不特定多数に広がる可能性があるため、情報の開示には注意が必要です。
  • 文化的・社会的に自己開示が不適切とされる場面
    一部の文化や社会的な場面では、個人的な感情や考えをあまり表に出さない方が良いとされることがあります。例えば、ビジネスの場面やフォーマルな集まりなどでは、過度な自己開示はプロフェッショナルな印象を損なうことがあります。

このように、開放の窓を広げるか狭めるかは、相手との関係性や状況に応じて変わります。バランスを見極めることが大切です。

自己理解は他者との関係によって深まる

良い聴き手は話し手の心を映す鏡になる

ここまでの説明で、自己理解は他者を通して深まることが理解できると思います。

安心して自己開示できる相手は、自分の心を映す鏡になります。そのような関係においては、自分も相手の心を映す鏡になっているかもしれません。その関係が自己理解と他者理解を深めます。

自己肯定感は他者との関係において育つ

写真のマグカップを見てどのような印象を持ちますか。

A「いかにも100均の安っぽいカップです」
B「そうですね」

という会話が成立すると、AさんとBさんの間で、「安っぽいマグカップ」という事実が成立します。

A「いかにも100均の安っぽいカップです」
C「100円でその品質はすばらしいですね」
A「確かに昔より品質が良くなりましたね」
C「すばらしいですよ」

という会話が成立すると、AさんとCさんの間で、「価格を超える品質」「すばらしい技術」という事実が成立します。

自己肯定感が低い人は自己評価が低い人ですが、その元々の評価もおそらく、特定の誰かとの間で構築された事実のはずです。

その評価(事実)に基づく思考と行動は、その評価(事実)を引き寄せて、その評価(事実)を強化することがあります。

たとえば「自分は好かれない」という評価を持っている人は、相手と距離を取る行動を選択します。すると、関係が深まらずに、「自分は好かれない」という評価を強化することがあります。

低い自己評価の悪循環
  • Step 1
    「自分は好かれない」という自己評価

    特定の誰かとの間で構成された事実。

  • Step 2
    他者と距離を取る

    好かれない経験をしたくないから距離を取る

  • Step 3
    関係が深まらない

    距離を取られた相手はあえて近づこうとしない

  • Step 4
    「自分は好かれない」という経験をする

    関係が深まる経験を得られない

  • Step 5
    「自分は好かれない」という自己評価

    自己評価が強化される

  • Step 6
    以上のパターンを繰り返す

自己肯定感が育つのは、そのままの自分が他者に受けいられる経験によってです。自分の長所に気づくのは他者を通してのことがほとんどです。長所とは、自分には当たり前すぎることだけど、他者にとって優れていることだからです。自分には当たり前すぎて気づけないものです。

ジョハリの窓が示すのは、他者との関係が単に自己理解を深めるだけではなく、自己肯定感を高めることもあります。

安心・安全な環境が自己理解を深めて自己肯定感を育てる

とにかく自己開示すれば良いのかというと、そんなことはありませんし、そんなことはできません。

自己理解を深めるには、自己の深い部分を自己開示することになります。深い部分を自己開示するには、自分と相手が安心・安全な関係である必要があります。

上司・部下は安全とは言い難いです。上司は部下の人事権を持ちます。ネガティブな話ができないことも大いにあるでしょう。強い信頼で結ばれている上司・部下関係も存在しますが、すべてがそうではありません。

まとめ

ジョハリの窓は、自己理解と他者理解を深めるための有効なツールです。自己開示とフィードバックを通じて、自分のことをより知ることができ、他者との関係性も深まります。特に、安心・安全な環境の中でこれらのプロセスを進めることで、自己肯定感も育まれていきます。

カウンセリングや研修など、日常生活の中でジョハリの窓を意識することで、自己理解とコミュニケーションの質を高めることができるでしょう。当カウンセリングルームでは、このようなプロセスを支援しています。自己理解を深めたい方、自己肯定感を高めたい方は、ぜひ一度ご相談ください。