【自己有用感】他者との関わりを通じて自信を育てる

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

年間800人以上の医療従事者が費用を自己負担して海外ボランティアに参加

カンブリア宮殿(テレビ東京)は好きなテレビ番組の一つです。4月9日は、途上国や国内の僻地など、医療が届きにくいこところへ医療支援を行うNPO法人ジャパンハートが紹介されました。

東南アジアでの医療支援に年間800人以上の医療従事者がボランティアで参加されているそうです。費用は本人の自腹です。インタビューを受けた方は、ある人は20万円、ある人は30万円とおっしゃっていました。

参加者の1人がインタビューに答えていました。「バッグを買うか、ボランティアに参加するか考えたのですが、自分に投資しようと考えて参加を決めました」と爽やかな表情で語っているのが印象的でした。

ジャパンハートの創設者、吉岡氏(「吉」の上は「士」ではなく「土」)は以下のようにおっしゃっていました。

バブルを経験した世代は、物質的な豊かさが、精神的な豊かさに直結していた。でも、今の世代の人たちは生まれたときから、僕らが小さいときには、まだ持てなかった豊かさをすでにベースに持っている。彼らが求めているのは、「人から期待されたい」「人から必要とされたい」「社会の役に立ちたい」という、すごく精神的なところにシフトしていると思う。

2020年4月9日 放送 ジャパンハート 最高顧問・小児外科医 吉岡 秀人 (よしおか ひでと)氏 |カンブリア宮殿: テレビ東京より書き起こし

自己有用感が自尊感情(自己肯定感)に影響を与える日本の若者

人の役に立った、人から感謝された、人から認められた、という感覚を自己有用感といいます。吉岡氏のおっしゃる「人から期待されたい」「人から必要とされたい」「社会の役に立ちたい」という感覚はまさに自己有用感です。

内閣府による『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (平成30年度)』という調査があります。以前、以下のエントリーで紹介しました。日本の若者と諸外国の若者の意識の違いを調べた結果です。

この調査結果で興味深いのは、日本の若者においてのみ、自己有用感が自尊感情(自己肯定感とほぼ同意)に影響を与える傾向が見られたことです。自己有用感が自尊感情に影響を与えるのは、日本人の多くが共有する感覚だと思うのですが、いかがでしょうか。

他者との関係を通じて自信を育てる

文部科学省の教育政策の研究機関である国立教育政策研究所が作成した『「自尊感情」?それとも、「自己有用感 」?』というリーフレットには、「日本の児童生徒には、自尊感情より自己有用感を育成するのが適当と言える」と書かれています。

なぜなら、人の役に立った、人から感謝された、人から認められた、という「自己有用感」は、自分と他者(集団や社会)との関係を自他共に肯定的に受け入れられることで生まれる、自己に対する肯定的な評価だからです。

「自尊感情」?それとも、「自己有用感 」?「生徒指導リーフ」シリーズ:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research

特に日本人には、自信は他者との関わりにおいて育つ傾向が強いと思います。

「自分に自信を持てません。性格を変えたいです」とおっしゃる方がいらっしゃいます。個人的には、性格を変えるという考え方には賛同できません。自分でなくなってしまうからです。

とは言っても、過度にネガティブな考え方は何かとしんどいです。状況に応じて適応的な思考を選択できるようになるのが望ましいと思います。状況に応じて柔軟に、しなやかに対応できる自分。それが目指す方向だと考えています。

そうなるには、他者との関係において「これで大丈夫」という経験を重ねることが重要です。【行動を変えてみる ⇒ (他者に)受け入れられる・認められる ⇒ 考え方が変わる】の積み重ねです。

カウンセリングやコーチングでは、気づきが【行動を変えてみる】きっかけとなります。気づきが起きる対話を実現するために日々研鑽しています。