執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
ブリーフセラピー(短期療法)
ブリーフセラピー(短期療法)の特徴は、
(1)問題は他者や環境との相互作用によって維持されていると考えます。相互作用の変化を促して解決を図ります。
(2)問題を扱わずに解決を扱います。解決した状態には問題は存在しません。解決の構築を目指します。
(3)人の内側に原因を求めず、問題を扱わずに解決の構築を目指す、人に優しいカウンセリングです。
「ブリーフセラピー(Brief Therapy)」を直訳すると「短期療法」です。カタカナ呼称が一般的であるため、以降はブリーフセラピーと表記します。
ブリーフセラピーの特徴
ブリーフセラピーには他の心理療法と異なる特徴があります。当カウンセリングルームは、これらの特徴をとても気に入っています。人に優しいカウンセリングと思うからです。
問題のある人はいない、問題を作るシステムがある
ブリーフセラピーでは、問題や原因を個人内に求めません。システム(家族・職場等の人間集団)内の相互作用によって問題が作られている、相互作用によって維持されていると考えます。個人の相談であっても、その個人が関わるシステム内の相互作用に焦点を当てます。
個人内のプラス要因には焦点を当てます。積極的に焦点を当てます。何らかの悩みや問題を抱えていても、その状態で日々がんばっているはずです。何らかの対処を考えたり、試したりしている場合もあるはずです。その姿勢は大いに労われるべきです。
相互作用とは
私たちは通常、問題が起こると原因を探します。下図のように直線的に考えます。
ブリーフセラピーでは下図のように双方向的に捉えます。妻が怒るから夫が黙る。夫が黙るから妻が怒る。この相互作用が問題を作り、維持していると考えます。
直線的に考えると、原因とされた方が悪者になってしまいます。夫に言わせると怒る妻が悪者。妻に言わせると黙る夫が悪者。これでは解決が遠のいてしまいます。問題を人から切り離して相互作用に求めると、解決に向かって協力しやすくなります。
問題解決志向ではなく解決志向
問題に対処しなければ解決はない。これが問題解決志向です。
問題と解決は直結しない。問題について知らなくても良い。解決志向ではそのように考えます。解決した状態(解決像とします)には当然ながら問題は存在しません。解決像を構築できれば、もはや問題について考える必要がありません。
24時間365日、常に問題が起きているわけではありません。問題が起きていないとき、もしくはマシなときもあります。その例外は解決の欠片(かけら)です。解決の欠片を広げて解決に向かいます。
問題解決志向は過去志向であり、解決志向は未来志向です。
問題の原因は過去にあります。問題解決志向では、現在から過去に戻り、未来の解決に向かいます。解決志向では、現在から未来の解決へ向かいます。過去に戻らない分、ブリーフ(短期)のカウンセリングになります。
困りごとの対処と自信の回復
カウンセリング全般に共通することですが、ブリーフセラピーで支援するのは病気の治療ではなく、困りごとの対処です。病気の有無に関わらず、困りごとがありながらも何とかやっていける自信を持って、日々の生活を充実させていけるようになることに焦点を当てます。
歴史・起源
ブリーフセラピーはの起源は家族療法です。少し歴史に触れてみたいと思います。
心理療法はフロイトの精神分析から始まりました。近代心理学は意識の研究から始まったとするのが定説です。そこにフロイトは無意識の概念を持ち込みました。その後、フロイトの理論を発展させる立場と、フロイトを批判する立場の2つに分かれて発展していきます。
フロイトの理論を批判する立場で発展したのは、行動療法(認知行動療法)、来談者中心療法、そして家族療法です。
ブリーフセラピーは家族療法を起源としています。家族療法には様々な学派があります。その中の一つが Mental Research Institute という研究所で生まれたMRI派です。コミュニケーション(相互作用)を重視することから、コミュニケーション派とも呼ばれます。
MRIの研究所内に開設されたブリーフセラピーセンター(Breif Therapy Center)での活動がブリーフセラピーの起源です。MRIアプローチと呼ばれます。
その後、MRIから派生した解決志向アプローチ(SFA)とミラノ派のブリーフセラピーが創始されました。現在は「ブリーフセラピー = SFA」と認識されることが多いようです。しかし、正確には以上の3つの派があります。
まとめ
- ブリーフセラピーは問題を個人内ではなくシステムの相互作用に求める。
- ブリーフセラピーは解決志向であり未来志向である。
- ブリーフセラピーは困りごとの対処と自信の回復を支援する。