来談者(クライエント)中心療法

執筆者:公認心理師・山崎孝

カウンセリングといえば傾聴を思い浮かべる人が多いかもしれません。米国の心理学者、カール・ロジャーズが提唱したカウンセリングにおける「聴き方」です。来談者(クライエント)中心療法として知られています。

ロジャーズが提唱したカウンセラーの3条件(受容・共感・自己一致)は、学派を問わずカウンセラーが備えておくべき態度して認識されています。

人には自然に成長に向かう力が備えられている

カール・ロジャーズは、個人には成長、成熟、肯定的変化を指向する潜在的な力を生まれながらに備えている。そして、クライエントはその力が発揮される場が提供されると、自ら成長に向かうとしました。

その力が発揮される場とは、クライエントが安心してみずからの問題に取り組める場です。カウンセラーの役割はその場を提供することであり、それはカウンセラーの態度によってつくられます。

心を癒すのは理論ではなく関係

場とはクライエントとカウンセラーの信頼関係(ラポールと呼ばれるもの)を含みます。カウンセラーがクライエントと信頼関係を作るための態度条件が以下の3つです。

【無条件の肯定的配慮(受容)】
クライエントの思考、感情、行動などを否定することなく、背景などを肯定して受け入れるように聴く

【共感的理解】
クライエントの立場や考え、受け止め方などを理解

【自己一致】
クライエントとの関係において、カウンセラーが自分に正直であること

カウンセラーが以上のように接することで信頼関係が生まれて、クライエントが安心して自己を探索する場になります。クライエントは気づきを積み重ねて、自ら成長に向かうとしました。カウンセラーは指示をしないことから、当初は非指示的療法と呼ばれました。

ロジャーズは理論や技法を明確に示しませんでした。オウム返しの理論と揶揄されることに嫌気がさして、理論より態度を語るようになったと言われています。現在では一学派というより、すべてのカウンセラーが備えておくべき態度として共有されています。

関係の重要性

Lambert, M.: Psychotherapy outcome research. Handbook of Psychotherapy Integration. Basic Book, NY 1992 

上記のグラフは心理療法の効果要因を研究した有名な論文によるものです。この論文によるとカウンセリングの効果は以下のようになっています。

  • 40%:治療外要因(クライエント要因、カウンセリング外の要因)
  • 30%:治療関係要因(クライエントとカウンセラーの関係)
  • 15%:希望やプラセボ
  • 15%:心理療法の技法

カウンセリング外の要因が40%です。カウンセリングがお役に立てるのは60%に対してです。その中で最も大きいのはクライエントとカウンセラーの関係です。どの心理療法を行っても影響は15%にとどまります。○○療法にこだわるより、信頼関係を築けるカウンセラーに出会えることが大切のようです。

ただし、以上の論文には妥当性に欠けるという批判もあることを付け加えておきます。

まとめ

  • 人に備わっている成長に向かう力への信頼から生まれた来談者中心療法。
  • その力を発揮させるのはクライエントとカウンセラーの信頼関係。
  • 3つの条件はすべてのカウンセラーが備えるべきものとして共有されている。

参考文献

下山晴彦編(2009)『よくわかる臨床心理学[改訂新版]』ミネルヴァ書房

諸富祥彦(1997)『カール・ロジャーズ入門―自分が“自分”になるということ』コスモスライブラリー

スーザン・ノーレン・ホークセマ,バーバラ・フレデリックソン,ジェフ・ロフタス,クリステル・ルッツ(内田一成翻訳)(2015)『ヒルガードの心理学 第16版』金剛出版