
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
悩みを抱えたとき、誰かに話を聴いてもらうだけで、少し心が軽くなった。そんな経験をされたことはありませんか。
来談者中心療法(クライエント中心療法)は、人は本来、自分の力で問題を乗り越え、よりよく生きていく力を持っているという前提に立った心理療法です。カウンセラーは、相談者がその力を発揮できるよう、あたたかな関係の中でそっと支えていきます。
数年前までは、「アメリカのホームドラマを見ていると、カウンセリングが日常生活に溶け込んでいるシーンが描かれていることがあります。そのような体験をしたくて来ました」とおっしゃる相談者さんがしばしばお見えになりました。
おそらく、そのシーンは来談者中心療法が行われていたのだろうと思います。
来談者中心療法では、カウンセラーが助言や指示を行うことは多くありません。「非指示的」が特徴の一つです。その代わりに、相談者の存在そのものを尊重する態度で接します。そうすることで、相談者は安心して自身の内面を探求できるようになります。
そして、カウンセラーとの対話を通して、これまで気づかなかった自身の気持ちや考えに気づき、自らの力で問題解決の糸口を見つけていくことができるようになるというのがこの療法の哲学です。
来談者中心療法(クライエント中心療法)は、アメリカの心理学者カール・ロジャーズによって提唱された心理療法です。
ロジャーズは、人が本来持っている、自らの可能性を発揮し成長していこうとする力、「自己実現傾向」を重視しました。来談者中心療法では、この内なる成長力が発揮されるような、安全で受容的な関係性の中でこそ、相談者は自ら問題解決の道を見つけ、自己理解を深められると考えられています。
この療法では、カウンセラーが助言や指示を行うことは多くありません。その代わりに、相談者の存在そのものを尊重する態度で接します。そうすることで、相談者は安心して自身の内面を探求できるようになります。
来談者中心療法において重視されるカウンセラーの姿勢として、以下の3つが挙げられます。
これらの態度は、「受容(無条件の肯定的関心)」「共感(共感的理解)」「誠実性(自己一致)」と表現されることもあります。
こうした関係性の中で、相談者は少しずつ安心を得て、自分自身の感情や考えに気づき、それを言葉にできるようになっていきます。そのプロセスが、自己理解や自己受容を促し、自らの力で問題解決の糸口を見つけていくことにつながります。
来談者中心療法は、相談者の自己成長力を信じ、それを支えるために特に関係性を大切にする心理療法です。
他の心理療法が、特定の理論モデルや介入方法を重視するのに対し、来談者中心療法はカウンセラーの態度(無条件の肯定的関心、共感的理解、自己一致)を通して育まれる関係性を最も重視します。関係性の質そのものが効果に直接的に影響を与えると考えます。
上記のグラフはカウンセリングの効果要因を研究によって得られた結果から、効果に影響を与える要因を推測した物です。
カウンセリング外の要因とは、クライエントの生活環境、家族や友人との関係、職場の状況など、カウンセリング外の状況を指します。
カウンセリングがお役に立てるのは60%で、その中でも最も影響が大きいのが関係性(クライエントとカウンセラーの信頼関係)です。このことからも、ロジャーズの理論の重要性がうかがえます。
来談者中心療法では、「相談者が自らの内面に気づき、自分の力で答えを見つけていく」プロセスを尊重します。そのため、面接の進め方も非常にシンプルでありながら、深く丁寧な関わりが求められます。
この療法においてカウンセラーが重視するのは、技法や分析よりも、「関係そのもの」です。助言や指示によって相談者を導くのではなく、共感的に話を聴き、そのままの気持ちを受け止め、安心できる関係性の中で相談者の変化を支えます。
以下は進め方の一例です。
当ルームでは基本的に「非指示的」なカウンセリングを行っていません(相談者が希望される場合を除く)。むしろ、ブリーフセラピーや家族療法のカウンセリングでは、何らかの提案を行うことが多いです。
ただし、来談者中心療法を否定するものではありません。中核3条件と呼ばれる基本的な態度(無条件の肯定的関心・共感的理解・自己一致)は、すべてのカウンセラーに求められる態度です。また、関係性が重要なのは、すべての心理療法に共通することです。
来談者中心療法は、「安心して話せた」「自分の気持ちを否定されずに受け止めてもらえた」という体験を通して、相談者自身の心の力を引き出していく心理療法です。特別な技法や即効性のある介入があるわけではありませんが、「話すこと」「聴いてもらうこと」そのものが深い癒しにつながります。
この療法の効果は、相談者が安心して自分の気持ちを見つめ直し、受け入れていけるようになることにあります。それにより、次第に自己理解や自己受容が進み、自信や安定感を取り戻していくことが期待されます。
来談者中心療法は、次のような相談内容に適していると言えます。
この療法は、相談者が「まずは安心して話すこと」を必要としているときに、大きな力を発揮します。
一方で、具体的な目標設定や行動の変化を中心にしたアプローチ(例:認知行動療法など)と比較すると、ゆっくりしたペースで、じっくり自分と向き合いたい方に向いているかもしれません。
また、上記のような悩みの他にも、人間関係の悩みや、漠然とした不安など、様々な相談に対応できます。相談者が「どこから話せばいいのかわからない」と感じている場合でも、無理に整理しようとせず、思いついたことから話していく中で、自分の中にある思いや考えが自然と形になっていくという体験が起きることもあります。
当ルームでは、来談者中心療法の基本姿勢を大切にしながら、主にブリーフセラピー・家族療法を用いています。また、必要に応じて認知行動療法も取り入れています。たとえば、「どうしても堂々めぐりしてしまう問題」に対しては、解決志向的な視点が役立つことがあります。一方で、「まず安心して話せることが何より必要」と感じる方には、来談者中心の関わりが支えとなります。