家族療法

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

関係性とコミュニケーションを変化させることで問題解決を目指す家族療法

当カウンセリングルームでは、家族療法(特にブリーフセラピー)の考え方に基づいて支援を行っています。

カウンセリングで話を聞くと、興味深いことに気づきます。例えば、

  • は「が怒るから黙るしかない」と言い、
    • は「が黙るから怒ってしまう」と言います。
  • は「子どもが言うことを聞かないから叱る」と言い、
    • 子どもは「が叱るから反発する」と言います。
  • 部下は「上司が厳しいから萎縮する」と言い、
    • 上司は「部下が萎縮するから厳しくなる」と言います。

どちらも「自分は反応しているだけ」と感じています。この「お互いが相手のせいだと思っている状態」こそが、家族療法が注目するポイントです。

家族療法では、問題や原因を個人に求めるのではなく、人と人の関係性、相互作用(コミュニケーション)に焦点を当てて、問題の改善・解決を図ります。

「家族療法」という名称から、「家族が一緒に来談しなければならない」「家族以外には使えない」というイメージを持たれることがありますが、実際には適用範囲は家族に限られません。個人カウンセリングであっても、家族療法としてのサポートが可能です。

家族療法の特徴

家族療法は、個人の問題をその人自身の内面にのみ原因があると捉えるのではなく、その人を取り巻く関係性やコミュニケーション(相互作用)の中で問題が形づくられているという視点からアプローチする心理療法です。

問題は個人ではなく関係の中にある

家族(夫婦・職場・友人等の人間関係)を1つのシステムとして捉える

家族・夫婦・職場などの集団をひとかたまりのシステムとして捉えます。

  • システムとは、お互いに影響を与え合っている関係のこと
  • 問題の原因を個人に求めない
  • システム内の相互作用(コミュニケーション)によって問題が生じていると捉える
  • 「問題がある人はいない。問題を作るシステムがある」との立場を取る

これは、人にやさしいカウンセリングの考え方です。

例を示します。以下の図は、子どもが1人いる3人家族において、夫婦の関係が悪く、お互いに不満をぶつけ合っている状態を示しています。矢印の方向は関心(この場合は不満)を向ける相手です。矢印の数は関心の量を示しています。

不満をぶつけ合う夫婦

夫婦の関係の悪さが続くと、子どもが病気になったり、不登校になったりすることがあります。子どもが病気または不登校になると、お互いが相手に向けていた関心が子どもに向くことになります。その結果、夫婦の争いが収まることがあります。

子どもが不登校になる

この場合、カウンセラーは「お子さんは身体を張って夫婦の争いを止めたのかもしれませんね」と言うかもしれません。そして、「不登校がなくても争わなくて良い方向を考えてみませんか」と言うかもしれません。

安定した夫婦関係

このように、システム内の相互作用を変化させて、問題の改善・解決に向かう支援を行います。

原因と結果は循環している

私たちは普通、問題が起こると原因を探します。「原因 → 結果」と考えます。この捉え方を直線的因果律といいます。

直線的因果律

夫婦の問題を直線的因果律で考えると、「夫が黙るから妻が怒る」または「妻が怒るから夫が黙る」のどちらかが原因になります。しかし、実際には、どちらが先だったかを決めることはむずかしいです。

家族療法では、直線的因果律の立場を取りません。原因と結果は円環的に循環していると捉えます。これを円環的因果律といいます。

円環的因果律
  1. 夫が声を荒げる
  2. 妻が無視
  3. 夫が声を荒げる
  4. 妻が無視
  5. 最初に戻る

どちらの行動も原因であり、同時に結果でもあると捉えます。この悪循環を断ち切ることで、問題の改善・解決を目指すのが家族療法の考え方です。

人数が増えても同じです。

円環的因果律
  1. 父親が母親を責める
  2. 母親が抗議する
  3. 夫婦ケンカになる
  4. 子どもが泣く
  5. 父親が母親を責める
  6. 母親が抗議する
  7. 子どもが泣く
  8. 最初に戻る

このようなパターンを一緒に見つけ、そのパターンを変えていくことで、問題の改善・解決を目指します。

人にやさしい

家族療法の大きな強みは、人にやさしいことです。

  • 問題を「誰が悪いか」で考えない
  • 個人の性格や内面に原因を求めない
  • 関係性のパターンに注目する
  • 「どのようなパターンが問題を作っているか」を考える

夫婦の問題を「夫が悪い」「妻が悪い」と考えると、解決よりも責任追及に時間を費やしてしまいます。家族療法では、問題を人から切り離して、関係性のパターンに注目します。

「人」の「間」と書いて「人間」です。人は社会的な存在であり、心は人と人の間、つまり関係性にあるのではないか。個人的に、そのように意味づけています。家族療法は、この関係性に働きかけるアプローチです。

「どちらが悪いか」ではなく「どのようなパターンが問題を作っているか」を考えることで、協力して解決に向かいやすくなります。

一人でも始められる

個人のカウンセリングでもシステムに働きかける支援が可能

家族療法は必ずしも複数人の参加を必要としません。

  • 個人カウンセリングでも家族療法の支援が可能
  • 一人の行動が変われば、関係性全体に影響する
  • 「相手を変えよう」ではなく「自分の関わり方を変えてみる」
  • システム全体が動き出すことがある

一人で来談されても、家族や職場など関係性全体を考慮しながら、できることを一緒に探していきます。

家族療法が目指すこと

家族療法は、「誰が悪いか」を決めることや、個人を変えることを目指しません。関係性のパターンを変えることで、問題が問題でなくなることを目指します。

夫婦関係の悩み
お互いを責め合うパターンから、協力できるパターンへ

親子関係の悩み
対立するパターンから、お互いの気持ちが伝わるパターンへ

職場での悩み
萎縮するパターンから、安心して働けるパターンへ

家族全体の悩み
誰かに負担が偏るパターンから、バランスの取れたパターンへ

問題そのものをなくすのではなく、問題を維持しているパターンを変えることで、日常生活が楽になることを大切にしています。

人にはそれぞれの事情があり、それぞれの関係性があります。家族療法では、「こうあるべき」という型にはめるのではなく、その関係性がその関係性らしく、少しでも楽に過ごせることを目指します。

カウンセリングの実際

パターンを一緒に見つける

カウンセリングでは、まず「どのようなやりとりが繰り返されているか」を一緒に確認します。

  • 図に描いたり、言葉で整理したりする
  • 関係性のパターンを可視化していく
  • 客観的に見ることで気づきが生まれる

「あ、確かにこのパターンだ」「いつもこうなる」と気づかれる方が多いです。

小さな実験を試す

パターンがわかったら、「いつもと少し違うこと」を試してみます。

  • 大きな変化を求めない
  • ほんの少しだけ違う対応をしてみる
  • この「実験」の積み重ねが、関係性を変えていく
  • うまくいったことは続け、うまくいかなかったことは別のやり方を考える

変化は小さなところから始まります。

面接の構造

当カウンセリングルームでは、以下のような形で進めていきます。

  • 時間:1回50分程度
  • 頻度:2週間に1回を目安(ご希望により調整可能)
  • 期間:数回で変化を感じる方もいれば、時間をかけて取り組む方もいる
  • 来談される方の状況やご希望に応じて、柔軟に進め方を調整

家族全員が一緒に参加する場合もあれば、必要に応じて一部のメンバーのみ、あるいはお一人でお話をうかがう形でも進められます。重要なのは、「関係性全体の中で、どのような変化が起きるとよいか」を考える視点を持つことです。

よくある質問

Q
家族と一緒に来ないとダメですか
A

いいえ、一人でも大丈夫です。

・一人の行動が変わることで、関係性全体が変わることがある ・家族が同席に応じてくれない場合、切り出しにくい場合は一人でお越しください ・個人カウンセリングでも、関係性の視点を持った支援が可能

ただし、暴力が起きているときは、原則として複数人での面接は行いません。

Q
過去の出来事を振り返る必要がありますか
A

基本的には「今」と「これから」に焦点を当てます。

  • 「今、何が起きているか」
  • 「どんな変化が起きれば現状が改善に向かうか」
  • 過去を深く掘り下げるよりも、現在と未来に注目する

ただし、過去の話が必要な場合は伺います。

Q
どのくらいの期間がかかりますか
A

変化を感じるタイミングは、人それぞれです。

  • 数回で変化を感じる方もいる
  • 1回で終わるケースもある
  • 時間をかけて取り組む方もいる
  • 一人ひとりのペースに合わせて進める

焦らず、できることから始めていきます。

Q
家族以外の関係(職場・友人など)にも対応できますか
A

はい、対応できます。

  • 家族療法は家族に限定されない
  • 職場の人間関係、友人同士の関係なども対象
  • さまざまな人間関係を「システム」として捉えることができる
  • 関係性のパターンに注目するアプローチは、あらゆる人間関係に応用可能

「家族療法」という名称ですが、実際には幅広い人間関係の問題に対応できます。

補足:理論と背景

家族療法は、ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィによって提唱された「一般システム理論」を理論的な土台としています。この理論では、家族を単なる個人の集まりではなく、お互いに影響し合いながらまとまりをもった「システム」として捉えます。

この視点に立つことで、問題の原因を特定の誰か一人のせいにするのではなく、家族というシステム内での相互作用やバランスの中で理解しようとするアプローチが生まれました。

家族療法の第1世代には、システムをどのように捉え、どこに介入の焦点を当てるかに応じたさまざまな理論があります。

  • コミュニケーション派:問題を生み出しているのは、個人の内面ではなく、家族内のコミュニケーションパターンにあると考えます。現在のブリーフセラピーの源流にもなっています。
  • 構造派:家族の中にある「構造(家族の役割や境界のパターン)」に注目し、柔軟性を欠いた構造が問題を生んでいると捉え、構造を再編成することで変化を促します。
  • 多世代派:家族を代々続く感情的なシステムと捉え、世代を超えて伝わるパターンや課題に注目します。個人の自立と、まわりに振り回されずに自分の考えを持つことを促すことが中心的な目標です。

これらの理論を基盤としながら、家族療法は第2世代、第3世代へと発展してきました。

  • ナラティヴ・アプローチ:問題を「人の中」にあるのではなく、「物語(ナラティヴ)」として捉え、クライエントが問題の語りから距離を取り、自分らしい語りを再構築していくことを支援します。
  • 解決志向アプローチ(SFA):問題の原因探しではなく、「うまくいっていること」や「望ましい未来」に焦点を当て、小さな成功を積み重ねることで変化を生み出します。

これらは家族療法の枠を超え、個人カウンセリングや教育、福祉、医療の現場にも広がりながら発展してきました。当カウンセリングルームでは、こうした理論的背景を踏まえつつ、一人ひとりの状況やニーズに応じて柔軟にアプローチを選び、実践しています。

補足:他の心理療法との違い

心理療法にはさまざまな種類があり、それぞれに異なる考え方や進め方があります。参考までに、代表的な心理療法との違いを簡単にご紹介します。

ブリーフセラピーとの関係

ブリーフセラピーは、家族療法から発展した心理療法です。

  • 家族療法の「関係性に注目する」という視点を受け継いでいる
  • 「悪循環を断ち切る」「良循環を広げる」という具体的な方法を発展させた
  • 効率的に変化を起こすことを重視している

当カウンセリングルームでは、ブリーフセラピーを基本にしながら、家族療法の視点を活かした支援を行っています。

認知行動療法との違い

認知行動療法では、出来事や状況に対する「思考の偏り」や「行動のパターン」が問題の原因であると考えます。

  • 個人の認知や行動に焦点を当てる
  • 認知の再構成や行動実験など、理論に基づいた技法を使う
  • 段階的に変化を促していく

家族療法では、問題の原因を個人の中に求めません。

  • 関係性のパターンに焦点を当てる
  • 相互作用を変えることで問題の改善を目指す
  • システム全体に働きかける

来談者中心療法との違い

来談者中心療法では、「自己受容(自分を受け入れる)」ができなかったり、「不一致(自分の中の本当の気持ちと、外に見せている態度や言葉がズレている状態)」が問題の背景にあるとされます。

  • 個人の内面的な成長を重視する
  • 共感的な理解と無条件の肯定的関心を通じて支援する
  • 自己の気づきを促す

家族療法では、個人の内面よりも関係性に注目します。

  • 問題がどのように維持されているかに焦点を当てる
  • 関係性のパターンを変えることで問題の改善を目指す
  • システム全体の変化を促す

それぞれの療法に良さがあり、状況や相談内容によって適したアプローチは異なります。当カウンセリングルームでは、家族療法・ブリーフセラピーを基本にしながらも、必要に応じて他のアプローチも取り入れながら、柔軟な対応を心がけています。

参考文献
  • 長谷川啓三(編), 若島孔文(編) 2002 事例で学ぶ家族療法・短期療法・物語療法
  • 中釜洋子, 野末武義, 布柴靖枝, 無藤清子 2008 家族心理学 有斐閣
  • 若島孔文, 長谷川啓三 2018 新版 よくわかる!短期療法ガイドブック 金剛出版
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