【お知らせ】移転・リニューアルしました(2019.11.12)

「聞く」と「聴く」

以下のコピーに惹かれて読んでみました。

当代一流のノンフィクション作家のコミュニケーション・メソッド初公開!

イチロー、中田英寿、YOSHIKI、中村勘三郎といった超一流の人の信頼を勝ち得、彼らの本を書いてきた当代一流のノンフィクション作家・小松成美。

なぜ彼らは小松にだけ心を開いたのか?

人の心をひらく技術
人の心をひらく技術

傾聴がテーマだろうと予想できました。予想通りでしたが、違和感もありました。

「聞く」と「聴く」

著者は、「聴く」は受動的であり、「聞く」は能動的として、ご自身がやってるのは「聴く」でなく「聞く」とおっしゃっています。いちゃもんを付けるようですが、言葉の定義としては逆だと思うのです。辞書を引くと以下のように記されています。

「聞く」は”音や声を感じとる。また、その内容を知る。香をたく”の意。「雨の音を聞く」「講義を聴く」「香を聞く」

「聴く」は”注意して耳に入れる。傾聴する”の意。「音楽を聴く」「国民の声を聴く」

『スーパー大辞林 3.0(iPhoneアプリ)』三省堂 より引用

「聞く」は英語で「hear」です。「hear」は、聴覚で音を感知するというニュアンスです。

音楽を「聞く」と表現する場合は、流れているBGMが自然と耳に入ってくる感じでしょうか。積極的な関心はありません。

「聴く」は「listen」です。「listen」は、注意して聴いて理解するというニュアンスです。

音楽を「聴く」と表現する場合は、積極的に音を楽しんでいます。音楽が主で、BGMのようにながらではありません。

カウンセリングとしての傾聴

せっかくなので、カウンセリング手法としての傾聴について触れてみたいと思います。傾聴という言葉は一般的に使われていますが、ルーツは「来談者中心療法」というカウンセリング手法です。

心理療法には300を越える種類があると言われています。大きなくくりとして、精神分析、行動療法、人間性心理学という3つの学派と、その他の学派に分けることができます。傾聴(来談者中心療法)は人間性心理学に属します。

多くの心理療法が精神疾患の「治療」を目的として創始され発展しました。人間性心理学では、人は生まれながらして「自己実現傾向」を持っていると考えます。カウンセラーの役割は「治療」ではなく、自己実現傾向が発揮される「環境」を作ることと考えます。

自己実現傾向が発揮される環境を作る方法が「傾聴」です。傾聴によって、本人が自ら整理して、自己実現に向かう気づきが起こるように支援します。

傾聴って、オウム返しの技法でしょ

池見陽先生(関西大学専門職大学院教授)によると、来談者中心療法の創始者であるカール・ロジャーズが理論を発表したとき、「オウム返しの技法」と批判されたそうです。以降ロジャーズは、(本質を理解しない批判に嫌気がさして)技法について語ることをやめて、カウンセラーの態度を語るようにしたそうです。

カウンセラーの態度とは、有名な「受容」「共感」「自己一致」です。特に「受容」「共感」をご存じの方は多いと思います。一方で、誤解されている方も多いと思います。

「受容」とは、自分の価値観と異なったり、相容れないものであっても、そのように考えて行動する人もいるんだと認めることです。殺人という行為や殺人に至る考えを受け入れることはできないでしょう。しかし、そのような人がいるという事実を認めることはできます。「受容」とは、そういうことです。

「共感」とは、自分は同じように感じないけれど、目の前の人はそのように感じていると理解することです。同じように感じなければと思いがちですが、同じように感じる必要はありません。私自身は面接において、感じるより理解を大切にしています。「共感的理解」と表現するのが正解でしょう。

オウム返しについても触れておきます。

コミュニケーションにおいて、機械的にオウム返しすることは無駄ではありません。むしろ役に立ちます。

話し手:「上司から○○と言われて凹んだわー」
聴き手:「凹んだんやー」

聴き手が受け取ってくれたことが話し手に伝わります。「うん」や「ふーん」よりも話し手にとって好ましい反応でしょう。機械的なオウム返しも役に立ちます。

しかし、カウンセリングでは、それだけでは足りません。

話し手:「上司から○○と言われて凹んだわー」
聴き手:「凹んだんやー」
話し手:「みんなに良かれと思ってやったのに」
聴き手:「良かれと思ってやったのに、あんな言い方されて凹んだんや」
話し手:「というより、なんでいつもあんな言い方するんやろって」

カウンセリングにおけるオウム返しには、「このように感じているという理解で合っていますか?」という問いかけや、「自分の内側に響かせてみると、しっくりきますか?」と微妙なニュアンスを確かめるように促す意味もあります。

このように丁寧に自分の気持ちに触れるように促します。それが整理のプロセスを促進させて、気づきを促します。オウム返しという言葉では、以上の意味が表現できません。なので、人間性心理学のグループでは、オウム返しという言葉を使わずに、「伝え返し」や「リフレクション(reflection)」という原語が使われたりします。

カウンセリング手法としての傾聴について、ごく一部ですが紹介させていただきました。個人的には傾聴が最も難易度の高いカウンセリング手法だと感じています。

丁寧に積み重ねる

本の紹介や感想がまったくないまま、ここまで来てしまいました。少しですが、感想を書いてみます。以下の言葉にシビれました。

和紙のように言葉を重ね、信頼を重ねる

さすが作家さんですね。とても素敵な表現です。丁寧に目の前の人に関わっている様子が伝わってきます。大きく傷ついている人も、丁寧に丁寧に言葉を重ねて、言葉を交わしていくうちに、表情が柔らかくなり、笑顔を見せてくれます。しっかり傾聴できたと感じるときです。

自己一致

ちゃんと傾聴していると、クライエントは徐々に心を開いてくれます。

では、開かれるのは相手の心でだけでしょうか? もちろん、そうではありません。自分自身の心も話を聞いたことによって開かれていきます。

自己一致とは、カウンセラーが自分の中に生じてくる気持ちや感覚にも心を開いている状態です。クライエントとカウンセラーのお互いが心を開いて、お互いが自分の心に素直に向き合っているとき、カウンセリングが最も機能します。

本の感想を書くつもりが傾聴の復習になってしまいました。著者と私が辿ってきた道は全く異なりますが、同じ山の頂上を別のルートで登っているような感じがしました。

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