近い人だからこそ、不安で恐くて話せなかった

執筆者:公認心理師・山崎孝

コーチング体験

当時、あるセミナーを受講していました。コーチングスキルを自分に活用しようという内容だったと思います。コーチはスタッフの一人でした。体験コーチングのようなものでした。

コーチングとは目標達成の支援です。カウンセリングとの違いについて以下のページに書いています。

体験コーチングを受けた感想は、どちらかというとネガティブでした。話せて良かった感覚はまったくありませんでした。むしろ、話すように促されるのが不快だったかもしれません。

当時は色々行き詰まっていました。そのセミナーを受講したのは、現状を打破するきっかけや手段を求めてのことです。悩んでいましたが、誰かに相談したい気持ちはありませんでした。むしろ、悩んでいることを他者に知られたくありませんでした。

不安と恐怖

相談したい気持ちより、「コーチが私の悩みを知ったら、どう思うだろう?」という不安が大きかったです。コーチと私には共通の友人がいます。「彼から友人に伝わってしまうのでは?」という恐怖もありました。

振り返ってみると、聴いてほしい気持ちも確かにありました。コーチが話すように促したのは、私の様子から感じとったのでしょう。しかし、不安と恐怖が上回り、話すことができませんでした。

カウンセリングにお越しになるクライエントさんの中にも、あのときの私と似た気持ちの方がきっといらっしゃるだろうと思います。決して忘れることのないよう、心にとどめておきたいと思っています。

安心・安全な関係と環境

心の器が満タンのときは、物事を一面的にしか見られないものです。白か黒かの二項思考になりがちです。どんなに素晴らしいアドバイスであっても入るスペースがありません。かき混ぜるとあふれますから、断片をつなぎ合わせて整理するといったことができません。

話すことで心の器にスペースができます。心が軽くなります。そのスペースを使って、心の中にある断片を整理できるようになります。心が柔軟になり、物事を多面的に見られるようになります。気づきが起きやすくなります。

そのような営みを起こすのに必要なのは、安心・安全な関係と環境です。

カウンセリングでは多重関係(例えば、上司・部下とカウンセラー・クライエントの2つ以上の関係を同時に持つこと)は禁忌です。多重関係はクライエントの安心・安全を脅かすからです。

日常から離れて自分に向き合う時間を持つからこそ、気づきが生まれやすくなります。という意味でも、多重関係は禁忌とするのがふさわしいと思います。コーチングには多重関係の制限はありませんが、個人的には多重関係を持たないほうがより良い時間になると思います。