誰もが持ってる心を安定させようとする働き
イソップの「すっぱい葡萄」という物語をご存じでしょうか。
キツネが、たわわに実ったおいしそうなぶどうを見つけました。
食べようとして跳びつきますが、高くて届きません。
何度試みてもダメでした。
あきらめたキツネは、
「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう」
と捨て台詞を残して立ち去りました。

不快な気持ち、欲求不満な状態になったとき、私たちの心は安定した状態を取り戻そうとします。このような心の作用を「防衛機制」と言います。
キツネは以下のようにして、心の安定化を図りました。

防衛機制には、キツネのようにネガティブなものあれば、スポーツが苦手だから芸術でがんばろう!というポジティブなものもあります。
ネガティブな方法を選択してしまったとき、自分の心を守るためのはずが、かえって自分を悩ませたり、苦しめたりすることがあります。
「夫が大嫌い!」な妻の心の底にあったのは
夫のことが嫌いで嫌いでたまらないという女性がいました。彼女の心の器は、「夫が嫌い!」で満たされているようでした。

その女性の話をしっかり聴いていくと、以下のことがわかりました。
- 昔はコミュニケーションが良好だった
- 夫が昇進して忙しくなり、朝早く出て、深夜に帰宅するようになった
- 帰宅した夫はいつも疲れていて、風呂と食事を済ませるとすぐに寝るようになった
- 育児に追われている私にとって、夫との会話が唯一ストレス解消だった
- なのに、夫婦の会話がほとんどなくなってしまった
- 夫にとって自分は何なのだろうか
さらに聴いていくと、「もう離婚!」くらいの勢いだったのが、実は逆でした。
- さびしい
- 仕事が大変なのはわかるが、もっと構ってほしい
- 夫を愛している
- 離婚したくない
「嫌い!」の気持ちの奥には、「さびしい」「構ってほしい」の気持ちが隠れていました。

「さびしい」「構ってほしい」けど、その気持ちをわかってくれない。
この矛盾した状態のままではつらいので、夫を嫌いと思うことで、心のバランスを保とうとしていました。キツネと似ていますね。

自分を守り苦しめる「心の鎧(よろい)」
彼女は「夫が嫌い!」と思うことによって、自分の心を守ろうとしていました。「夫が嫌い!」は、自分を守るための「心の鎧」とも言えそうです。
こんなとき、「本当はさびしいんじゃないの?」などの言葉をかけると、彼女は反発するだけです。心に鎧をまとっているのは、それを認めるとつらいからです。
「素直に気持ちを伝えては?」などのアドバイスも同じです。自分を守るための心の鎧がはね返してしまいます。

彼女が心の鎧を脱がない限り、心の奥にある本心は出てきません。本人自身が心の奥にある気持ちを自覚してないケースもあります。
心の鎧を脱がすには
ほとんどの人がわかっていると思います。まずは、話をしっかり聴いてあげることです。自分と違う考え方でも受け止めて、気持ちに共感しながら。
「わかってくれる!」「受け入れてくれる!」の実感は、「思っていることを話していいんだ!」という安心につながります。安心と感じたら、心の鎧を脱ぐことができます。

実際は、一気にではなく、少しずつ心の鎧を脱いていきます。そうしているうちに、話し手本人の目が心の奥に向き、隠れている本当の気持ちに気づきやすくなります。
心の鎧を脱げば、アドバイスなど異なる考えを受け入れられる状態になってます。何を言ってもムダ、ということにはならないでしょう。
自分を苦しめる「心の鎧」をまとわないために
子どもが急に道路に飛び出して、自動車が急ブレーキ!!
そんなときのお母さんの反応には、以下のようなものがあります。
- 「飛び出したらダメ!って言ったでしょ!!」と怒る
- 「轢かれたらどうしようかと思った!」と抱きしめて涙ぐむ
2つの感情
感情には「一次感情」と「二次感情」があるとされています。
一次感情
何らかの出来事や状況に置かれたときに生じる感情を一次感情と言います。
二次感情
一次感情が引き起こす感情。例えば、傷つくことを言われると悲しい(一次感情)から怒る(二次感情)。構ってくれなくてさびしい(一次感情)から怒る(二次感情)。怒りは二次感情であることが多いようです。
一次感情に気づく
怒りの気持ちが生じたとき、さびしいからなのか、悲しいからなのか、それとも自尊心が傷ついたのか、一次感情に気づくことが大切です。
一次感情に気づくのは案外難しいかもしれません。普段から、イヤな感情を抱いたとき、「なぜ、こんな気持ちになったのだろう?」と自分に問いかける習慣をつければ気づきやすくなります。要するに慣れです。
コミュニケーションのコツ
悩みの多くは人間関係によるものです。良い人間関係は良いコミュニケーションからです。
一次感情を伝える
良いコミュニケーションのコツは、第一感情を相手に伝えることです。
「怒り(第二感情)」をぶつけられると相手は、怖れ(第一感情)を感じたり、その怖れがあなたへの怒りを引き起こしたり、自分を守ろうとして拒絶の体勢になったりします。
I(アイ・私・愛)メッセージで伝える
I(アイ・私・愛)メッセージとは、相手に気持ちをぶつけるのではなく、気持ちを表現・表明することです。自己開示することです。「私」が主語と考えればわかりやすいでしょう。
(私は)あなたと話す時間がなくてさびしい。
Iメッセージの対極にあるのが、YOU(あなた)メッセージです。相手に向けられる言葉です。主語は「あなた」になります。
(あなたが)私の話を聞いてくれないからでしょ。
一次感情をI(アイ・私・愛)メッセージで
「一次感情」を「I(アイ・私・愛)メッセージ」で伝えられた言うことなしです。すぐにできないかもしれませんが、常に意識して心がけているうちに、相手の反応も変わってくるはずです。