心を守る働き(防衛機制)が自分を苦しめる

執筆者:公認心理師・山崎孝

イソップの「すっぱい葡萄」は、心が過度につらくならないように防衛する働きの一例です。

キツネが、たわわに実ったおいしそうなぶどうを見つけました。

食べようとして跳びつきますが、高くて届きません。

何度試みてもダメでした。

あきらめたキツネは、

「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう」

と捨て台詞を残して立ち去りました。

すっぱい葡萄 – Wikipedia

私たちの心には、危機・不快・欲求不満などを感じたとき、そのつらさを軽減しようとする働きがあります。このような心の作用を防衛機制といいます。防衛機制には以下の種類があります。

  • 【抑圧】
    無意識下に抑え込んでなかったものとする。
  • 【合理化】
    もっともらしい理由をつけて正当化する(すっぱい葡萄は合理化)
  • 【同一視】
    他人に自分を重ね合わせて自尊心を高めようとする(例:著名人の言動を真似る)。
  • 【投影】
    認めたくない自分の感情を他人のものとして非難する(例:自分が苦手とする人が自分を嫌っていると思う)。
  • 【反動形成】
    抑圧した気持ちや態度を正反対の形で表現する(例:好きな異性にそっけない態度を取る)。
  • 【逃避】
    困難な状況から逃れようとする。現実への逃避(試験前に掃除する)、空想への逃避(楽しい将来の想像に浸る)、病気への逃避(試験前に腹痛を訴える)がある。
  • 【退行】
    赤ちゃん返りは退行の典型例です。赤ちゃん返りによって、弟・妹に向かっている母親の愛情を自分に向けようとします。
  • 【昇華】
    社会的に受け入れられない欲求や実現不可能なことを、社会的に容認・賞賛される目標に置き換える。適応的で自己実現・成長に導くものと考えられる(例:失恋を機に勉強や仕事に力を入れる)。

キツネは【合理化】によって、心の安定化を図りました。

おいしそうだけど食べられない(不快) ➡ すっぱくてまずいから食べない方が良い(安心)

防衛機制はプラスに働くことが多いようです。キツネが葡萄にとらわれてクヨクヨし続けても仕方ありません。さっさと切り替えるのが望ましいです。

しかし、常にプラスに作用しないのがむずかしいところです。すっぱい葡萄はキツネ個人で完結する話です。キツネ個人が気持ちを切り替えれば済む話です。他者が関係すると話は簡単でなくなります。

例えば夫婦です。夫(または妻)に一生懸命伝えているのに受け取ってもらえない。伝える努力に疲れてしまった。もう、わかり合えなくても良い(と考えて楽になる)。

わかってほしいのに伝わらない(苦痛) ➡ 伝わらなくても問題ない(納得)

この合理化はある程度機能します。子育て期は夫婦関係を一旦脇に置いておくことができます。そうせざるを得ないことがあります。

しかし、永遠に機能し続けるとは限りません。子どもたちが独立して2人だけの生活が訪れたとき、大きな問題として立ちはだかることがあります。コロナ禍で一緒に過ごす時間が増えて、問題に直面した夫婦もあるでしょう。

当カウンセリングルームは、コミュニケーション理論に基づく支援を得意としています。夫婦の相談に代表されます。興味のある方は以下のページをご覧下さい。

<参考文献>
無藤隆・森敏昭・池上知子・福丸由佳 編(2009)『よくわかる心理学』ミネルヴァ書房
鈴木晶(2001)『フロイトの精神分析』ナツメ社