自立とは依存先を増やすこと

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

「自立とは依存先を増やすこと」
一見、矛盾しているように感じるかもしれませんが、(狭義の)自立と依存が(広義の)自立を構成していると考えるとわかりやすいかもしれません。

はじめに

自立という言葉を聞いて、多くの人は「一人で生きていくこと」や「他人に頼らないこと」を思い浮かべるのではないでしょうか。確かに、自分の力で物事を成し遂げ、自分の人生を切り開いていくことは重要です。しかし、本当の自立とは、そのような一般的なイメージとは少し異なるものかもしれません。

結論から申し上げると、「自立とは依存先を増やすこと」です。一見、矛盾しているようにも聞こえるこの言葉の意味を考えたいと思います。

自立と依存は、相反するものではありません。むしろ、自立とは、自分の力で生きていく能力と、必要なときに他者の助けを借りる勇気の両方を持つことです。完全な自立は不可能であり、私たちは常に誰かに頼る部分を持っています。

大切なのは、依存先を増やし、バランスを取ることなのです。

自立とは、人をあてにしなくても自分の力で生きられることと、自分ではできないときに素直に人に援助を求める能力を意味します。

子どもの心のコーチング―一人で考え、一人でできる子の育て方 (PHP文庫)P35より引用

頼らないのが自立ではなく、助力が必要ならばそれをきちんと他人に伝えられることが自立なのです。

ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)P55-56より引用

自立の誤解

誰にも頼らないことが可能なのか?

多くの人は、自立を「一人で生きること」や「誰にも頼らないこと」だと考えがちです。社会的に成功した人や、強い意志を持つ人は、一人で全てを成し遂げているように見えるかもしれません。しかし、これは自立の誤解だと言えるでしょう。

完全な自立は、現実には不可能です。私たちは、生まれたときから親に頼り、成長するにつれて友人、教師、そして社会に頼るようになります。仕事をするために同僚や上司に頼り、困ったときには家族や友人に助けを求めます。このように、私たちは常に誰かに頼る部分を持っているのです。

例えば、自分で料理をするにしても、食材を育てた農家や、調理器具を作った職人に頼っています。電気や水道などのインフラを使うことも、社会に頼る一つの形です。私たちは、一人では生きられない存在なのです。

助けを求める能力も自立に必要

自立とは、誰にも頼らないことではありません。むしろ、自分の力で生きる部分と、他者に頼る部分のバランスを取ることが重要なのです。自分でできることは自分でやり、必要なときに助けを求められることが、真の自立と言えるでしょう。

「自立とは依存先を増やすこと」を認識することで、私たちは自分の限界を受け入れ、他者との関わりを大切にすることができます。自分と他者の力を上手く活用していくことが、真の自立に必要なのです。

依存先を増やすことの重要性

自立を目指す上で、依存先を増やすことは非常に重要です。多様な視点の獲得、助けを求められる環境の構築につながります。

多様な視点や知恵を得られる

次に、多様な人々と関わることで、様々な視点や知恵を得ることができます。私たちは、自分の経験や知識だけでは物事を見落としがちです。しかし、異なる背景を持つ人々から意見を聞くことで、新しい発見やアイデアを得られます。これは、問題解決や個人の成長に役立ちます。

困ったときに助けを求められる環境を作る

例えば仕事で困っているときに助けを求められないことで、仕事が遅れて関わる人に迷惑をかけることになります。適切に助けを求めることで、組織やチームの損害を避けて利益をもたらすことができるます。

自立と依存のバランス

自立と依存は対立するものではなくバランスが重要

自立と依存は、一見すると相反する概念のように思えます。しかし、実際には、両者はバランスを取ることが重要です。自立と依存は対立するものではなく、むしろ互いに補完し合う関係にあります。

自分でできることは自分でやり、必要なときに助けを求める

自立した人生を送るためには、自分でできることは自分でやることが大切です。自分の力で問題を解決し、責任を持って行動することで、自信と自尊心を高められます。また、自分の能力を向上させ、より大きな目標に向かって前進することができます。

一方で、必要なときに助けを求めることも重要です。誰もが、すべてを一人でこなすことはできません。時には、専門家の知見や他者の支援が必要になります。そのような場合、適切に助けを求めることで、問題をより効果的に解決できます。助けを求めることは、自立した人生を送る上での重要なスキルなのです。

他者への過度な依存は避け、自分の責任も果たす

ただし、他者への過度な依存は避けなければなりません。自分の責任を他者に押し付けたり、常に他者の助けを当てにしたりすることは、自立とは言えません。自分でできることは自分でやり、助けが必要な部分だけを他者に頼るようにしましょう。

自立と依存のバランスを取ることで、自分の力を最大限に発揮しつつ、必要なサポートを得ることができます。これは、健全な人間関係を築く上でも重要です。

依存先

困ったとき、悩んだときの依存先として、以下のようなものが考えられます。

  • 家族や親しい友人
    信頼できる家族や親しい友人は、相談相手として頼りになります。彼らは、あなたの状況を理解し、精神的支援を提供してくれるでしょう。
  • 専門家(カウンセラー、医師、弁護士など)
    深刻な問題に直面している場合、専門家に相談することが有効です。カウンセラーは心理的な問題に、医師は健康上の問題に、弁護士は法的な問題に対処するための専門知識を持っています。
  • 職場の上司や同僚
    仕事関連の問題では、上司や同僚に相談するのが適切です。彼らは、似た状況に対処した経験を持っている可能性が高く、会社の方針に沿ったアドバイスをくれるでしょう。
  • 地域のサポートグループや団体
    特定の問題(依存症、疾病、育児など)に特化したサポートグループや団体があります。同じ問題を抱える人々と話をすることで、共感と実践的なアドバイスを得られます。
  • オンラインのフォーラムやソーシャルメディア
    インターネット上には、様々な問題に関する情報交換の場があります。匿名性が保たれる場合もあり、気兼ねなく相談できるでしょう。ただし、情報の信頼性には注意が必要です。
  • ヘルプラインや相談窓口
    多くの組織や政府機関が、特定の問題に関する電話やオンラインの相談窓口を設けています。訓練を受けたスタッフが、適切な助言やリソースを提供してくれます。

まとめ

  • 自立とは、人をあてにしなくても自分の力で生きられることと、自分ではできないときに素直に人に援助を求める能力
  • 頼らないのが自立ではなく、助力が必要ならばそれをきちんと他人に伝えられることが自立
  • 自立と依存のバランスを保ちながら、柔軟に生きることが大切