コミュニケーションから推測できる夫婦関係の悪化レベル

執筆者:公認心理師・山崎孝

夫婦・カップル2人でお越しになった際、2人の会話を聴くだけで、関係性をかなり正確に予想できることがあります。何を材料にしているかを紹介します。

レベル1:行動の批判

乱暴な言葉を投げられたときに、「その言い方はやめて」「穏やかに話して」など、行動の批判にとどまるのは健全なレベルです。「そんな言い方するなー!!!(怒)」は違います。暴力に相当する場合があります。

レベル2:人格の批判

「あんたは『いつも』そんな言い方をする」のように、『いつも』がつくと意味合いが変わります。人格の批判と受け取られやすくなります。「いつもじゃない。昨日は、ちゃんとした!」と返されて、意味のない言い合いに発展することもあります。

「『また』そんな言い方をする」のように、『また』は『いつも』と同じようになりがちです。「そんな言い方をする『人』」も同じです。人格の批判と受け取れる言い方には注意が必要です。

とは言うものの、『また』や『いつも』と言いたくなることがあるのも事実です。そのようなときは、アサーションやアサーティブコミュニケーションと呼ばれる表現方法が望ましいと言われています。後で紹介します。

レベル3:脅迫・家族の批判

脅迫

「この通りにしてくれなかったら離婚ね!」「言うことを聞いてくれないなら別れるしかないね!」のような言葉でパートナーに譲歩を強いるのは、パートナーにとって脅迫になり得ます。崖っぷちに追い込まれるような体験になり得ます。

パートナーが折れてくれている間はいいのですが、ずっと折れ続けてくれるとは限りません。毎度、追い込まれることに疲れたパートナーの心に、「もう、離婚でいいわ」と開き直った考えが浮かぶことがあります。

この開き直った状態のパートナーは、多くがスッキリした表情をしています。「絶対に離婚回避!」という執着から解き放たれて、心が自由になったかのようです。統計を取ってないので正確なことは言えませんが、この状態から修復に向かうカップルは極めて少ない印象があります。

家族の批判

「口を開けば不平・不満。お義母さんそっくりやね」「あの家族で育ったと考えたら、あなたの無神経さも理解できるわ」

書いている私自身がイラッとしてしまいました。言うまでもありませんが、家族の関係が悪かったり、パートナー本人が家族の批判をしていても、(たとえ配偶者でも)他者から言われるのは不快に感じる人が多いです。

レベル4:暴力

配偶者による暴力は、身体的暴力と精神的暴力があります。DV防止法(正式名称「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」2001年に成立・施行)にも定義されています。

第一章 総則

(定義)

第一条 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。

(太字は当サイト管理者によるもの)

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 | 内閣府男女共同参画局より引用

問題が起きる前の対処が望ましい

予防医学では予防を、一次予防、二次予防、三次予防と3つの段階に分けて考えます。

  • 一次予防:生活習慣の改善など病気にならないための取り組み。
  • 二次予防:健康診断や人間ドックなどによる早期発見、早期治療。
  • 三次予防:治療、回復、再発防止。

早めの対処がダメージを小さくするのは病気に限りません。夫婦・カップル関係も同様です。生活習慣の改善に相当するものとして、アサーション・アサーティブコミュニケーションと呼ばれるコミュニケーション法を紹介します。

アサーション・アサーティブコミュニケーション

アサーションまたはアサーティブコミュニケーションとは、人間関係やコミュニケーションの考え方やスキルです。「自分も相手も大切にする自己表現」として知られています。ここではDESC法と呼ばれるスキルを紹介します。

DESC法とは

D(Describe:描写する)、E(Explain:説明する)、S(Specify:提案する)、C(Choose:選択する、代案を出す)の頭文字をとってDESC法です。伝えたいことをDESCの順で表現します。

自分の気持ちを整理してみる

このような事例で考えてみます。

初めての子ども。慣れない育児。家事の夫の分担を増やしてほしいとリクエストしたい。

まずは自分の気持ちを整理します。

  • はじめての育児で要領がつかむに至らず時間がかかる。
  • 夜泣きもあるし、気持ちも体力的にもつらい。
  • 夫は二人で話し合った家事の分担をしっかりやってくれている。
  • 育児負担は予想以上にきつく、夫の家事分担を増やすことで助けてほしい。

DESC法で表現してみる

整理した気持ちをDESC法に当てはめて表現します。

  • D(Describe:出来事・状況を具体的・客観的に描写する)
    • 育児に追われて家事をする頃には日が変わってるの。
  • E(Explain:自分の主観的な気持ちを説明する・表現する)
    • 夜泣きもあるし、体力的にも気持ちもつらい。助けてほしい。
  • S(Specify:具体的な要望・解決策を提案する・提示する)
    • 夫の家事分担に不満はないけど、休日の洗濯をお願いしたい。
  • C(Choose:選択する、代案を出す)
    • (返答がYesの場合)ありがとう。できないとき言って。そのときは私がやるから。
    • (返答がNoの場合)洗濯物を取り入れるだけならどう。

Dのコツは、出来事や状況を具体的に表現することです。ここでは(主観的な)感情は表現しません。感情と状況を同時に表現すると、伝えたいことがぼやけます。感情は次のEで表現します。

Eのコツは、主語を「私」にして主観的な気持ちを表現することです。「あなた」を主語にすると攻撃的な表現になりやすいです。例えば、嫌なことを言われたとしましょう。「(あなた)どうしてそんなことを言うの」と言い返すのと、「(私)その言葉は傷つくわ」と返すのとでは、同じ意味でも感じ方が違うはずです。

Sのコツは、具体的な提案をすることです。「思いやりを見せて」のような抽象的な要望は不適切です。

Cで返答がNoの場合、代案を提案します(上記の例では洗濯物の取り入れを頼む)。代案に対してもNoなら、改めてDやEからスタートします。

  • C(Choose:選択する、代案を出す)
    • 洗濯物を取り入れるだけならどう。
    • (夫の返答)えー、休日はゆっくりしたいなあ。
  • E(Explain:自分の主観的な気持ちを説明する・表現する)
    • 私も休日はゆっくりしたいよ。
  • D(Describe:出来事・状況を具体的・客観的に描写する)
    • でも、家事と育児は休日も同じようにあるから。
  • E(Explain:自分の主観的な気持ちを説明する・表現する)
    • 少しも分担してくれたら助かるんだけど。

アサーションについて詳しい内容を知りたい方は、書籍やインターネット上でたくさんの情報が得られます。アメリカで生まれた考え方、スキルです。日本に最初に持ち込んだ平木典子先生が日本における第一人者として知られています。