パナマ運河方式で行こう

執筆者:公認心理師・山崎孝

先日、ある男性が夫婦関係の相談でお見えになりました。次回は奥さまを連れて来てほしいとお願いすると、今日も一緒に来たかったけど「病気ちゃうのに、なんでカウンセリングに行かなあかんの!?」と断られたとのことでした。

まだまだ非日常的なカウンセリング

ご主人には留学経験があり、カウンセリングが日常生活に溶け込んでいる場面を体験されていました。海外ドラマがお好きな方も、カウンセリングが日常であるのを場面越しに経験される方がいっしゃいます。

「カウンセリングは病気の人だけが受けるもの」という誤解は根強くあります。その誤解を解けると、クライエントにもカウンセラーにも喜ばしいことなのですが、なかなか難しいのが現状です。

引き下げの法則

自尊心が傷ついたとき、人は傷ついた感情から回復するために何らかの行動をとります。

勉強が不得意な子がスポーツでがんばる。または、その逆。上司や先輩社員に理不尽な扱いを受けた怒りのパワーを仕事に向けて結果を出す。これらは健全な心の働きと言えますが、不健全な行動をとることもあります。

例えば、他者を貶める言動です。

臨床心理士は信頼性の高い資格として認識されています。劣等感からでしょうか、臨床心理士ではないカウンセラーによる、臨床心理士を貶める発言を聞くことがあります。

逆もあるでしょう。臨床心理士または修士課程の学生と思われる人による、臨床心理士ではないカウンセラーを貶める発言を目にしたことがあります。

どちらも「引き下げの法則」ですね。他者を下げることによって相対的に自分を上に置き、心の安定を得ようとしています。

私も無意識にやってるかもしれません。クライエントに選んでいただくために、勢い余って他者を引き下げる発言をしているかもしれません。お叱りや批判は素直に受け入れます。

パナマ運河

パナマ運河は、海抜26メートルのガトゥン湖を経由して、太平洋とカリブ海を行き来する運河です。閘門式という仕組みが用いられています。ガトゥン湖までの水路をいくつかの部屋に区切ります。部屋の水位を変えることによって船を上下させます。

パナマ運河

船を引っ張り上げるのは困難でも、水位を上げれば船も勝手に上がります。考えたものです。

全体が引き上げられれば自分も引き上げられる、と思う

日本ではカウンセリングは一般的ではありません。まだまだ誤解があるのが現状です。足の引っ張り合いをしている場合じゃないと思うのです。

運河の水位が上がれば船も上がるように、カウンセリングの正しい認識が広がれば、個々のカウンセラーが活躍できる舞台も広がると思うのです。

私はパナマ運河方式で行きます。