メッセージコントロール研修

執筆者:公認心理師・山崎孝

8月24日(水)、メンタルレスキュー協会の『メッセージコントロール』の研修を受講しました。最初にこの研修を受講したのは5年前でした。思うところがあって今年の4月、5年ぶりに受講しました。そして、今回が3回目の受講です。

メンタルレスキュー協会

メンタルレスキュー協会は、「うつ状態と惨事後のつらい状態」に限定した心理支援を対象として、研修や支援者養成を行っているNPO法人です。受講のきっかけは、理事長の下園壮太先生の著書を読んだことでした。

当時の私は、タイトルに「自信」「自己肯定感」「自尊感情」が入っている書籍を読みあさっていました。その中の一冊が下園先生の著書でした。

5年ぶりの受講を決めたのは、年初に下園先生の講演を聴いたからでした。カウンセリング力が伸びる人と伸びない人の違いという話がありました。詳細は省かせていただきますが、昨年の私は、伸びない人に当てはまっていました。ショックを受けました。

その講演の後、コーチングのトレーニングを中止することにしました。興味がわいた研修にはできるだけ参加していましたが、自分のテーマ・目標に合致するものに絞ることにしました。

メッセージコントロール

メッセージコントロールとは、一言で言うと傾聴です。ただし、一般的な傾聴を学んだ人が受講すると、しばしば面食らいます。

一般的な傾聴のトレーニングでは、「事柄より感情に焦点を当てましょう」「感情を理解して共感しましょう」と教わります。ところが、メッセージコントロール研修では、「事柄をしっかり聞きましょう」と指導されます。

メンタルレスキュー協会はこのように言います。「初級のレベルでは、感情に焦点を当てることを強調します。間違いではありませんが、あくまで初級レベルです。中級以上のレベルでは、浅い表面的な共感ではなく、深い共感が必要です。深く共感するためには、事柄を丹念に聴く必要があるのです」

傾聴のポイントは何ですか?と問われると、受容・共感ですと答えると思います。受容・共感は話を聴くときの態度です。態度でありスキルではありません。メッセージコントロール研修では、態度という曖昧なものではなく、具体的なスキルを教わります。

(傾聴といえば受容・共感・自己一致ですが、ここでは省きました)

当方では「うつ状態と惨事後のつらい状態」のカウンセリングは、ほとんど行っていません。むしろ、健康度が高い方のカウンセリングに重点を置いています。「なぜ、惨事カウンセリングをしないのに受講するのですか?」と問われると、「役に立つからです」が答えます。

クライエントと(可能な限り早く)関係を築くスキルとして、この研修で学ぶことはとても役に立ちます。

デブリーフィング(心理的デブリーフィング)

デブリーフィング(心理的デブリーフィング)とは、災害・事故・犯罪の直後に行われる心理的支援です。被災者・被害者がその体験を話すことで、ストレスの悪化やPTSDを予防するというものです。現在では、デブリーフィングの効果は否定されて、禁忌とするのが定説となっています。

メンタルレスキュー協会は、デブリーフィングについて以下のように述べています。

ただ、デブリーフィングについては、スキルが十分でない方が、盲目的に現場に適用したことが多かったため、学会などでかなり否定的に評価されていますが、実際にスキルのある人が、きちんと目標を意識しながら実施すると、現場ではかなり効果的なスキルなのです。

よくある質問 – 特定非営利活動法人 メンタルレスキュー協会 より引用

5年前に受講したときはデブリーフィングについて、「臨床心理士の方などは、デブリーフィングをしてはいけないと教わっていると思いますが、スキルのあるカウンセラーによるデブリーフィングは効果があるんです」のような柔らかい表現だったと記憶しています。

メンタルレスキュー協会では、デブリーフィングと目的を同じくする「惨事後ミーティング」を上級講座で学ぶようです。私は受講していないので内容はわかりません。

特徴の一つとして紹介しました。

研修の特徴

私が受講したのは基礎講座の一つです。

とにかく具体的です。わかりやすいです。うなずきにしても、「もっと聴かせて下さい」「つらかったですね」のうなずきの違いを具体的に示されます。資料もとてもわかりやすいです。図の工夫がすごいです。見るたびに、「うまく表現されているなあ」と感心します。

ロールプレイ中心の研修です。ロールプレイを録画できます。後で自分の面接シーンを録画で見る機会を持てます。この機会は貴重です。一人で恥ずかしい思いをすることもありますが。。。

今回のロールプレイで指摘されたのは、私の質問が裏メッセージとして受け取られる可能性があるという指摘でした。裏メッセージとは協会の造語で、カウンセラーの言葉が悪意に取られてしまうことです。

例えば、クライエントのがんばりを理解するために、「他に試みたことはありますか?」と質問することがあります。その質問をクライエントが「このカウンセラーは、試みが少ないと批判しているのだろうか」と考えることがあります。大きなショックを受けている人に起きやすい誤解です。

カウンセラーは悪意なく言葉を発しています。ほとんどの場合、クライエントはネガティブに感じたとは言ってくれません。クライエントの表情から気づくことありますが、常にではありません。どれだけ気を付けても、裏メッセージに取られてしまうこともあります。対処と起きてしまった後のリカバリーを復習する機会になりました。

カウンセラーも人間なので好不調があります。不調のときにメッセージコントロールを復習すると、不調から抜け出すきっかけになることがしばしばあります。