自立とは依存先を持つこと

執筆者:公認心理師・山崎孝
ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)

近所の本屋さんで目に止まりました。ニーチェの著作はしんどそうだけど、これなら電車のお供にできるだろうと。

ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)
ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)

おもしろかったです。「超訳 ニーチェの言葉」が売れるなど、今改めて注目されるのも納得できました。ただ、ブログに書こうと思ったのは、解説の西研氏によるニーチェへの反論に共感したからです。

頼ること

「ツァラトゥストラ」の主要テーマの1つ、『超人』に対する疑問です。

孤独に一人でがんばるというイメージが伴うニーチェの『超人』。ニーチェにはまりやすい人の中には、他人と打ち解けない「孤独病」の人がいるそうです。果たして人間は、一人でがんばり切れるものなのか?また、がんばるべきものなのか?と疑問を呈しています。

ぼくは思うのですが、一人でがんばるイメージではなく、お互いに共振し刺激し合う空間のなかで一緒に高まっていくイメージを抱いたほうが「生きることのイメージ」としてはよりよいと思うのです。
そうした生き方のために大事なことの一つは、「頼ること」と学ぶということだとぼくは思っています。

ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)P54より引用

日本の自殺者は14年連続3万人。その7割が男性。「男は弱音を吐いてはいけない」の価値観が影響しているのは間違いないところでしょう。その価値観が他人に「頼れない」自分を作っているのでしょう。

一見、怖い人に見える私でも、クライエントの9割は女性です。他人に相談する習慣のない男性が大多数だと思われます。

尋ね合う

これまで信じられてきた価値が失われてしまい、人々が目標を喪失してしまうニヒリズムにおいては、ニーチェは自分なりに創造的な方向を見つけて行くことが大切としました。

西氏は孤独ではなく、他者と意見のキャッチボールができる関係が人を創造的にすると言います。

尋ね合う関係が場のなかにできていくと、メンバーは安心します。誤解が少なくなり、仮に誤解が生まれてもすぐにその場で訂正ができるからです。「本当に自分がいいたいことをいっても大丈夫なんだ」という安心感が生まれる。この安心感が土台となって、議論がクリエイティブになっていきます。

ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)P54より引用

「新しいアイデアは、古いアイデアの新しい組み合わせ」なんて言われます。他者との関係がより新しい組み合わせを促進すると思うので、西氏の意見に賛成です。

自立とは

「親に頼っていると自立できない」は間違いではありませんが、常に正しいわけでもありません。

自立とは、人をあてにしなくても自分の力で生きられることと、自分ではできないときに素直に人に援助を求める能力を意味します。

子どもの心のコーチング―一人で考え、一人でできる子の育て方 (PHP文庫)P35より引用

頼らないのが自立ではなく、助力が必要ならばそれをきちんと他人に伝えられることが自立なのです。

ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)P55-56より引用

家庭では、子どもがピンチの時、即座に親に相談し頼れる空気を作りたいと常々思っています(助けるときと突き放すときの線引きが難しいのでありますが・・・)。

ニーチェは晩年、精神を病んで死んでしまったそうですが、

その人生を一言でいうと「若くして成功に恵まれたが、後年は挫折と苦悩を抱えつつ執筆し、最後は精神を病んで死んでしまった」ということになるでしょう。

ニーチェ「ツァラトゥストラ」2011年8月(100分de名著)P11より引用

「頼ること」ができ「尋ね合う関係」を持っていたら、違う人生を送っていたかもしれませんね。