田中将大投手の『体技心』

執筆者:公認心理師・山崎孝

田中将大投手の「体技心」

今日の朝刊スポーツ欄に、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手が特集されていました。

関心を引かれたのは『体技心』という言葉。心・技・体の順ではなく、体・技・心の順です。田中投手の言葉で、「まずは体と技術を整えて、最後は気持ちをしっかりし合いに持っていく」と説明されています。

これ、カウンセリングにも共通します。また、セルフケアの知識として、この順序を知っておくことは有益です。

感情に翻弄されているとき、物事を多面的に見るのがむずかしくなります。一元的にしか見れなくなります。闘うか逃げるかの状態は、その典型的な例ですね。

このようなときに、客観的に見よう、考え方を変えてみようとしてもうまくいきません。まずは、暴れている感情を冷ますことが必要です。感情が落ちついてくると、多面的、客観的な見方が徐々にできるようになります。

『体』に働きかける『技』を使って『心』をリラックスに向かわせる

感情を冷ますには、体に働きかけることが有効です。腹式呼吸や漸進的筋弛緩法などのリラクセーション。ヨガやマッサージなど。身体が緩むと感情も落ち着く方向へ向かいます。

強い感情に翻弄されているときには、通常のリラクセーションでは何も変わらないことがあります。

強い怒りに乗っ取られているときには、その場から離れるのが効果的です。怒りが持続するのは6秒と言われています。その6秒を作ることです。

強い不安や恐怖に乗っ取られたときには、腹式呼吸を3倍増しくらいの強度で行うと、不安や恐怖の強度を下げることができます。少ししか下がらないかもしれませんが、この少しが、次の対処に向かう態勢作りを可能にします。

ちなみに、腹式呼吸で大切なのは「吐く」ことです。吸おうと意識しなくても大丈夫です。息を吐ききって力を抜くと、身体が勝手に吸ってくれます。「吐くはリラックス」「吸うは緊張」と覚えておくと良いかもしれません。

『体』に働きかける『技』を使って『心』に対処します。その次に、物事の見方、とらえ方、考え方に取り組むのが望ましい順番です。

認知行動療法も同じ

認知行動療法の代表的な技法に、認知再構成法(コラム法)があります。「認知行動療法=認知再構成法」や「認知行動療法とは、偏った認知を修正することによって問題や症状を改善する療法」と認識している人がいるかもしれません。

それは間違いです。認知行動療法は、たくさんの技法から成る心理療法です。多くの場合、複数の技法を用いてクライエントを支援します。

最初に認知再構成法を行うことは少ないと思います。リラクセーション・行動活性化を行い、次に認知再構成法という順番が多いはずです。リラクセーションや行動から入るのは、『体技心』と同じですね。少々こじつけ感がありますが。

認知行動療法では、クライエントが自分自身のカウンセラーになることを目指します。それには、クライエントに技法を習得してもらう必要があります。認知行動療法のカウンセラーは、問題や症状を軽減・消失する支援に加えて、クライエントが技法を使えるようになる支援も行います。

厚生労働省のページにて、認知行動療法のマニュアルをダウンロードできます。治療者向けですが、うつ病に関しては「患者さん向けの資料」があります。興味のある方はご覧下さい。

心の健康 |厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/

余談ですが、田中投手の記事の「良い加減」いう言葉もいいですね。私の好きな言葉の一つに、「ええ加減は、いい(良い)加減」というのがあります。