壁ドンの心理学

以前、大阪のテレビ局から取材の申込がありました。テーマは「壁ドン」。残念ながら直前にボツ。すっかり旬も過ぎて今さら感が満載ですが、ふと思い出したので加筆してメモとして残しておきます。

情動

恐くて震える、怒りで頭に血が上るというような、急激に起こり短時間で終わる、比較的強力な感情のことを「情動」と言います。ドラマの壁ドンのシーンで起きているのも情動ですね。

情動に関する理論は、生理的現象に焦点を当てることから始まりました。

「ときめく→ドキッ」ではなく「ドキッ→ときめく」なのだ

失恋すると、悲しくて(情動)、泣く(生理的現象)というように、情動⇒生理的現象の順に起こると認識している人が多いと思います。ジェームズという心理学者は、そうではなく生理的現象が情動に先行すると主張しました。

私事ですが、25年くらい前ニューヨークにて、現地の人にドンとぶつかられました。彼は手に持っているワインのボトルらしきものを私に見せて、割れたから弁償しろという意味のことを言ってきました。

同行者が無視すればいいと言うので無視して通り過ぎました。すると彼は追いかけてきて、ナイフを取り出して私に見せつけました。

その瞬間、私の心臓はドクン!!となりました。

ジェームズは生理的現象そのものを情動とみなしました。ドキッとした状態が恐怖という情動として意識されていると言いました。つまり、生理的現象⇒情動の順に起こると言うのです。

確かにそのときの私は、ドクン!!の反応が先で、それから恐怖に包まれたと思います。

ランゲという生理学者が同じ主張をしていたため、彼らの説はジェームズ=ランゲ説と呼ばれています。

「ドキッ→ときめく」のではなく「ときめく→ドキッ」なのだ

ジェームズ=ランゲ説に異を唱えたのがキャノンという生理学者でした。刺激を受けると、脳の情動を司る部位と、内臓を司る部位に、同時に信号が送られるとしました。

実感として概ね、情動⇒生理的現象の順でしょ、となると思います。信号は同時に送られても、内蔵の反応が情動に遅れるからと説明がつきます。バードという生理学者も同様の考え方を示しました。キャノン=バード説と呼ばれています。

情動の二要因理論

2つの説は「生理的現象」から情動を説明しました。後にシャクターという心理学者が、情動は「生理的現象」と、そのときの状況をどのように「認知」するかの2つの要因に影響を受けるとしました。これを情動の二要因理論と言います。

有名な「つり橋実験」は、この理論を実証するために、ダットンとアロンの2人の心理学者によって行われました。

「つり橋実験」は2つの橋を使って行われました。

1つは、高さ70m、幅1.5m、長さ135mの「不安定な吊り橋」でした。

もう1つは、高さがわずか3mの「頑丈な木製の橋」でした。

2つの橋を使って以下の手順で行われました。

1)被験者(男性)に橋を渡らせる。
2)橋の途中で女性または男性のインタビュアーが研究の協力を依頼する。
3)渡り終えた被験者に心理テストを行う。
4)「結果に興味があればお電話下さい」と電話番号を渡す。

電話をかけてきた人の数は以下の通りでした。

女性
インタビュアー
男性
インタビュアー
吊り橋
(不安定)
18人中9人
(50%)
7人中2人
(29%)
木製橋
(安定)
16人中2人
(13%)
6人中1人
(17%)

見ての通り、吊り橋・女性インタビュアーのパターンが最も多くなりました。

吊り橋を渡ってるとき生じた恐怖によるドキドキを、女性の性的魅力によるドキドキと認知したためだと説明されました。

ドキドキ(生理的現象)⇒ 吊り橋が不安定(認知)⇒ 恐怖(情動)
ドキドキ(生理的現象)⇒ 女性が魅力的(認知)⇒ 性的興奮(情動)

でも、50%ですから

壁ドンも同じように、驚きのドキドキを、ときめきのドキドキと認知したためと説明できます。

意中の異性をデートに誘うなら、ジェットコースター、お化け屋敷など、ドキドキを喚起するところへ行くと同じ効果を期待できるかもしれませんね。

でも、50%です。逆のことも起こり得ます。

ちなみに、私のニューヨーク体験の続きですが、同行者のアドバイスに従って無視し続けていると、彼はあきらめてどこかへ行きました。

同行者によると、ああやって日本人観光客からお金を取っているそうです。大体10ドルくらいだそうです。「山崎さん一人だったら払ってたでしょ。浮いた10ドルで私の昼飯をおごって下さい」となりました。

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