ネガティブでも大丈夫

執筆者:公認心理師・山崎孝

現在地は?

今年も4ヶ月が過ぎました。あと8ヶ月しかありません。

そんな話をすると、「8ヶ月『しか』ではなく、8ヶ月『も』です!」と返ってくることがあります。ポジティブシンキングってやつでしょうか。

ポジティブシンキングのワナ

「『しか』ではなく、『も』です!」と言われて、「確かにそうだな」と受け入れられる人には、ポジティブシンキングは効果的かもしれません。

「そうは言っても・・・」と考えてしまう人には、ポジティブシンキングは逆効果です。「ポジティブに受け取れない私はダメだ・・・」と自己否定に走ります。

自己否定を積み重ねると、ますますネガティブになります。

実は私、ポジティブシンキングというやつが嫌いです。やつのせいで、より苦しくなっている人を見てるからです。

テレビでもご活躍の植木理恵さんの著書には、「ポジティブシンキングがうつの原因になることも」と書かれてありました。

心が迷子に

「自分が何を望んでいるのかわからない」「自分の感情がわからない」と口にする方がいらっしゃいます。心が迷子になったかのようです。

その時々の素の気持ちや考えを脇に置いて、別の尺度で考え、行動してきた結果なのでしょう。

例えば、「本心を言ったら受け入れられない」「相手の気に入ることを言わなければならない」との考えから、いつも他者の心中を(わかるわけがないのに)一生懸命推し量っている。

例えば、常に「ポジティブであるべき」「前向きにならなければ」から思考がスタートする。

自分の気持ちは置いてきぼりです。心が迷子になっても不思議じゃありません。

迷子ということは、今どこにいるのかわからない状態です。現在地がわからなければ、目的地がわかっていても、どちらへ進めばいいのか分かりません。

自分を受け入れる

素の気持ちや考えを脇に置いて、それらを見ない習慣ができたため、心が迷子になってます。現在地を知るとは、それらに気づき、受け入れることです。

脇に置いたものには当然、ネガティブなものもあるでしょう。それも受け入れます。受け入れても大丈夫です。逆に、受け入れるからこそうまく行くのです。

ネガティブでもいいんです。というか、ネガティブも必要なんです。

「戦場で最初に死ぬのは恐怖を知らない奴」という言葉を聞いたことがあります。恐怖や不安は、自分を守るために必要なのです。ネガティブすぎる人はバランスが悪いのです。自分を受け入れることからスタートすれば、徐々にバランスを取り戻せます。

自分を受け入れると成長しない?

ちょっと長いんですけど、ダイエーホークス内川聖一選手の言葉を引用します。内川選手は、日本の現役プロ野球選手の中で最も優れた打者の一人です。

「あの、僕、基本的に強くないんですよ、メンタル。例えば、最近の若い選手って『試合を楽しみます』って言うじゃないですか。僕からすれば、『楽しめるわけねぇだろ!』って思うんですよ。やっぱり144試合全部で緊張するし、試合前なんかは『打てんかったら嫌やなぁ』とか不安になりますからね」

メンタルの弱さを認めながら、しっかりと結果を残しているではないか。そう問いかけると解答については、「弱い自分を受け入れること」だと内川は述べる。

「それも自分なんで。よく、緊張していたりすると『落ち着け。普段通りにやれば大丈夫だから』って言ってくれる人がいるじゃないですか。その言葉自体はありがたく受け取るんですけど、でも実際は、“普段通りにできない”のが僕の普段なんですよ。だから、『いつも通りにやろう』って自分に言い聞かせることにエネルギーを使うくらいなら、緊張したり不安な自分を受け入れたほうがいいというか。

いずれにしたって打席に入ったら逃げ場がないんで、そこで『よっしゃ! やってやるぞ!!』って腹を括ることに集中したほうが僕はいいと思っているんですよ」

250本ペースでも不満顔の内川聖一。打撃の哲学者が追求する「理想像」。 (2/6) – Number Web : ナンバーより引用

「ネガティブな自分も受け入れたらいいんです」と言うと、「ネガティブな自分を受け入れたら、成長しないんじゃないですか?」と返ってくることがあります。

内川選手は受け入れてますよね。ネガティブな自分を「今はこれでOK」と受け入れてます。「受け入れる」から「成長する」って言ってもいいんじゃないですか。

自己肯定感と自己効力感

「今はこれでOK」という感覚を『自己肯定感』と言います。

『自己肯定感』を持ってる人は、失敗しても必要以上に落ち込みません。「今はこれでOK」だからです。切り替えて次に向かいます。そのうちできるようになります。

『自己肯定感』が欠けている人は、失敗すると自分を全否定(今の自分はNO)しがちです。またそんな思いをするのは苦痛です。次に向かえなくなります。

「自分はできる」という感覚を『自己効力感』と言います。

『自己肯定感』がある人は、失敗を過度に恐れません。あの手この手でチャレンジを重ねるうちに、できる瞬間がやってきます。そうして『自己効力感』を得ます。

『自己効力感』は『自己肯定感』を高めます。『自己肯定感』が高まると、ますますチャレンジします。良い循環が起こります。

その循環の始まりは、ポジティブシンキングではなく、自分を受け入れることからです。ネガティブでも大丈夫です。