捨てる勇気

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

オルティーズシフト
オルティーズシフト。セカンドの場所wそりゃサードにセーフティーもしたくなるわ。 |papi2967の投稿画像

サードベース方向を完全に捨てる守備の潔さ。

MVPとエースの対談

去る3月22日(土)、NHKBSにてヤンキースの黒田と引退した松井の対談番組が放映されました。録画したものの見る時間が取れずにようやく視聴。

二人は同い年なんですね。知らなかった。

松井は高校生の頃からスター。一方、黒田の高校時代は控え投手。歩んできた道は異なるものの、同じチームで松井はワールドシリーズMVP、黒田は実質エース。その二人の対談。待ってました!という感じです。

通用しなかった日本での成功パターン

松井は満塁ホームラン、黒田は勝利投手でMLBデビュー戦を飾りました。2人とも最高のスタートを切ったわけですが、後に苦しむことになります。

MLBの投手はフォーシーム(速い変化しない直球)をあまり投げません。速球であっても手元で変化させて、バットの芯を外そうとします。松井はその球に対応できませんでした。凡打を重ねるうちについたあだ名は「ゴロキング」。

黒田は日本では(剛)速球投手でした。彼のフォーシームをまともに打ち返せる打者はわずかでした。力で相手をねじ伏せるピッチャーでした。ところが、MLBの打者を相手にすると、日本のようには行きませんでした。

生き残るために捨てた

松井は打撃のスタイルを変えました。ボールをより手元まで引きつけて、変化を見極めて打つスタイルに変えました。これが意味するのはホームランの減少。MLBではホームランバッターではなくなりました。

黒田はフォーシームをほとんど投げなくなりました。ほぼ全ての球を変化する球にしました。剛速球で抑える投手から、打たせて取る投手に変わりました。

松井は言いました。

「メジャーで生き残るには、これまでのスタイルを捨てる勇気がいるよね」

黒田はその言葉に深くうなずきながら言いました。

「まったく同感!」

もし、彼らが日本での成功パターンに執着していたら、ヤンキースの主力選手になることはなかったでしょう。松井の引退はもっと早かったかもしれません。黒田は日本に帰ってきてたかもしれません。

あきらめたら楽になった

昨年から今年にかけて約一年間、NLPの講座に通ってました。正直、あまり興味がなかったのですが、友人であるトレーナーのお誘いと上手なクロージングに乗りました(笑)でも、行ってよかったです。「NLPに興味が」という方には、彼の1日講座をオススメします。

NLPのワークの一つに「ブラインドウォーク」なるものがありました。目を閉じて歩くだけのワークです。2人1組になって、1人は誘導役、1人は歩く役。誘導役は安全に配慮しながら背中を押したり方向を変えたり。歩く役は目を閉じて促されるまま歩きます。

誘導役がいても、目を閉じて歩くのは恐かったです。つま先で地面をなぞるようにして、状況を把握しようともがいたりしました。「俺って気が弱いなー」とか「ムダな抵抗って、このことを言うんだなー」とか思ってました。

ある時点で、あきらめることにしました。「自分が誘導役なら安全を優先するわ」「彼も同じやろ」と思って、誘導役に委ねることにしました。

すると、とっても楽になりました。外に向いてた意識が内に向き、ワークを忘れて物思いにふけっている自分がいました。最初のおどおどした歩き方から、堂々とした歩き方に変わっていたはずです。

「執着を捨てるって、こういうことなんだ」と実感しました。

松井がホームランを捨てたとき、黒田がフォーシームを捨てたとき、楽になった感覚はあったのでしょうか?「きっと、あったはずだ!」「同じ人間なんだから!」と妙に力みながら見てました。