【セルフケア・ストレスコーピング】ストレスと上手くつきあう

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
強いストレスを感じている女性
ストレスをグッと我慢するだけではなく、他の対処法も取り入れるとセルフケア力が増します

セルフケアとは、自分自身の心身の健康を保つために行う行動や習慣のことです。セルフケアを行うことで、自分の感情や欲求に気づきやすくなり、ストレスに対処する能力が高まります。

ストレスコーピングとは、ストレスに対処するための具体的な方法のことです。ストレスに対する反応は個人によって異なるため、さまざまなコーピング方法を知っておくと、より効果的です。。

ストレス反応について

ストレス研究の先駆者はハンス・セリエです。セリエは、ストレスを受けたときに、生物がどのように反応するかを、警告期、抵抗期、疲憊(ひはい)期の三つの段階に分けて説明しました。

  • 警告期
    • ストレスを受けると一時的に抵抗力が低下します。その後、身体はストレスに対抗する準備をします。この段階が警告期です。
  • 抵抗期
    • 警告期の後、身体はストレス源に対処しようとします。この期間中はストレス耐性が高まります。この段階が抵抗期です。
  • 疲憊(ひはい)期
    • 長期間ストレスにさらされ続けると、身体は対処能力を超えます。この段階が疲憊(ひはい)期です。

疲憊(ひはい)期になる前に対処することが望まれます。疲憊(ひはい)期から回復するには労力とコストを要します。警告期、抵抗期の段階でセルフケアに取り組めば、少ない労力とコストでの健康維持が可能になります。

参考ページ【ストレスと上手くつき合う】3段階のストレス反応

リチャード・ラザルスとスーザン・フォルクマンは、ストレス反応を決めるのは、その人がストレス源をどのように評価するかで決まるとしました。自分にとって脅威であり、その脅威に対処できないと評価したときに強いストレスを感じます。

参考ページ【ストレスと上手くつき合う】私たちはストレスをどのように認識するのか(認知的評価と対処)

ストレスコーピングの種類

ストレスコーピングとは、ストレスに対処するための具体的な方法のことです。ストレスに対する反応は個人によって異なるため、さまざまなコーピング方法を知っておくと効果的です。

また、一つの方法に頼るのではなく、複数の方法を持つことで、さまざまな状況に柔軟に対応でき、より効果を得ることができます。

問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピング

ラザルスとフォルクマンは、ストレスコーピングを問題焦点型コーピング情動焦点型コーピングの2つに分類しました。

  • 問題焦点型コーピング
    • ストレスの原因を直接的に解決しようとするアプローチです。例えば、問題の情報を集める、解決策を見つける、計画を立てて実行するなどが含まれます。
  • 情動焦点型コーピング
    • ストレスに伴うネガティブな感情を管理するアプローチです。例えば、リラクゼーション、感情の表出、支援を求める、ポジティブな再評価などが含まれます。

情動焦点型コーピングをいくつかに分類することもありますが、その詳細を知ることに意味はほとんどありませんので簡単に触れるにとどめます。

  • 認知再評価型コーピング
    • ストレス状況を再評価し、視点を変えることで対処する方法
    • 例:ポジティブな再評価、意味付け
  • 社会的サポートの利用
    • 他者からの支援を求める方法
    • 例:友人や家族との話し合い、専門家の助けを借りる
  • 回避型コーピング
    • ストレス源を避ける方法
    • 例:状況から逃げる

各コーピングのメリット・デメリット

ストレスコーピングには、それぞれメリット・デメリットがあります。それぞれのメリット・デメリットを理解して、複数のコーピングを組み合わせて用いるのが効果的であり、望ましい取り組みです。各々のメリットとデメリットをあげます。

問題焦点型コーピングのメリット・デメリット

ストレス要因の直接的解決を図るのが問題焦点型コーピングです。

問題焦点型コーピングのメリット
  • 問題の根本的な解決を図ることができる。
  • 自己効力感が高まる。
  • 長期的なストレス軽減が期待できる。
問題焦点型コーピングのデメリット
  • 問題が解決困難な場合には効果が薄い。
  • 短期的なストレス軽減にはつながりにくい。

根本的な解決が図れる一方で、解決不能な問題(慢性的な健康問題・パワハラ上司・他)には他の対処が求められます。また、解決可能であっても、短期的な解決がむずかしい場合があります。

情動焦点型コーピングのメリット・デメリット

リラクセーション等により、ストレスによる心理的苦痛を和らげるのが情動焦点型コーピングです。話を聞いてもらうこともこのコーピングに含まれます。

情動焦点型コーピングのメリット
  • 速やかに感情的なストレスを和らげることができる。
  • 心理的安定を保つ助けになる。
情動焦点型コーピングのデメリット
  • 問題の根本的な解決にはつながらないことが多い。
  • 過度に依存すると現実逃避に陥る可能性がある。

「話を聞いてもらうことに意味はない」と考える人がいらっしゃいますが、そのような人もカウンセリング後には「来てよかった」とおっしゃるケースがほとんどです。何となくストレスを感じている状態と、その何かを明確な言葉で言語化した状態では、心のあり方が異なるのを体感されるからです。

「話すは離す」という言葉があるように、他者に話すことで、ストレスから少し距離を取れることがあります。距離を取ることで心理的負荷が低下することがあります。距離が俯瞰的な視点をもたらして、対処や解決につながる気づきをもたらすこともあります。

以下にメリット・デメリットを一覧にして示しました。

種類メリットデメリット
問題焦点型コーピング・問題の根本的な解決を図ることができる。
・自己効力感が高まる。
・長期的なストレス軽減が期待できる。
・問題の根本的な解決にはつながらないことが多い。
・過度に依存すると現実逃避に陥る可能性がある。
情動焦点型コーピング・速やかに感情的なストレスを和らげることができる。
・心理的安定を保つ助けになる。
・問題の根本的な解決にはつながらないことが多い。
・過度に依存すると現実逃避に陥る可能性がある。
認知再評価型コーピング・ストレス状況をポジティブに捉え直すことで、心理的負担を軽減できる。
・柔軟な思考を養うことができる。
・問題の解決には直接関与しないため、状況が変わらない場合がある。
・無理にポジティブに捉えようとすると、現実感を失うことがある。
社会的サポートの利用・他者からの支援や共感を得ることで安心感を得られる。
・問題解決の新しい視点やアイデアを得られる。
・適切なサポートが得られない場合、逆にストレスが増えることがある。
・過度に他者に依存すると、自立性が損なわれる可能性がある。
回避型コーピング・一時的にストレス源から離れ、心理的負担を軽減できる。
・短期的な対処として有効な場合がある。
・問題の根本的な解決を先延ばしにするため、長期的にはストレスが増加する可能性がある。
・現実逃避や無責任な行動と見なされることがある。
コーピングの種類とメリット・デメリット

ストレスコーピングの方法

ストレスコーピングの方法をいくつか紹介します。ここで紹介できるのはほんの一部です。様々な方法がありますので、ネットや書籍などから情報を得ることをお勧めします。個人的には書籍がおすすめです。ネット記事と比較すると情報量が豊富だからです。

呼吸法

呼吸法は、シンプルでありながら非常に効果的なストレスコーピングの一つです。呼吸法は副交感神経を活性化し、リラックス状態を促進します。特に腹式呼吸は、深いリラクゼーションを促す効果があります。

漸進性筋弛緩法

筋肉に意識的に力を入れた後にリラックスさせることで、全身の緊張を和らげる方法です。体全体の筋肉を順番に弛緩させることで、心身ともにリラックス効果を得られます。

参考ページ気軽にリラックス:大阪府

ストレッチ

筋肉の柔軟性を高め、身体の緊張を解放します。デスクワーク中に定期的にストレッチを行うことで、肩こりや腰痛の予防にもつながります。

日記を書く

感情を言葉にすることでストレスの原因を明確化し、解決策を見つけやすくなります。また、自己理解を深め、感情のコントロールを助けます。

個人的に強くお勧めします。感情表現が苦手な方は、「しんどい」の一言だけでもOKです。書いているうちに「◯◯◯で、しんどい」など言葉が増えてくるものです。増えなくても文字にして、離れて見ることで気づきが起きやすくなります。

ウォーキング

心臓を強くし、血流を改善します。自然の中でのウォーキングは特に、心のリフレッシュに効果的です。

アロマテラピー

特定の香りが脳のリラックスを促す部分に作用し、心身のリラクゼーションを促進します。ラベンダーやカモミールなどの香りは特に効果的です。

音楽を聴く

リラックスできる音楽や自分の好きな音楽を聴くことで気分が和らぎます。個人的には静かなクラシック音楽が合います。私にはあまり合いませんが、自然の音を使ったヒーリングミュージックが良いという人は多いです。

マインドフルネス

今この瞬間に意識を集中する練習を行います。例えば、5分間だけ自分の呼吸や周りの音に意識を向けるだけでも、心が落ち着きます。

お気づきだと思いますが、ここであげたものはすべて情動焦点型コーピングです。問題解決には時間がかかることが多いです。解決しないこともあります。心身のコンディションを整えることによって、解決に向かう態勢が整いやすくもなります。

ストレスコーピングの活用事例

ストレスコーピング手法の1つ1つは万能でありません。複数のコーピングを組み合わせて用いるのが効果的です。事例を紹介します。

<ストレス状況の事例>
会社員のAさんは、プロジェクトの締め切りが迫っており、同時に家庭では夫婦関係に悩んでいます。仕事量が多く、残業が続いているため、家族との時間も十分に取れていません。さらに、プロジェクトの進捗状況に問題があり、上司からのプレッシャーも感じています。

この事例では、以下のようなコーピングの組み合わせが考えられます。

問題焦点型コーピングと社会的サポート
  • プロジェクトのタスクを細分化し、優先順位をつけて効率的に進める。
  • 同僚や上司に相談し、業務の一部を分担してもらう。
情動焦点型コーピングと回避型コーピング
  • 昼休みに短時間の深呼吸などリラクセーションを行う。
  • 週末は趣味の時間を確保し、仕事のことを一時的に忘れる。
認知再評価型コーピングと社会的サポート
  • プロジェクトを自己成長の機会として捉え直す。
  • 家族に状況を説明し、理解と協力を求める。
問題焦点型コーピングと認知再評価型コーピング
  • 夫婦で家事の分担を見直し、効率的な家庭生活を目指す。
  • 夫婦関係の問題を、関係を強化するチャンスと捉え直す。
情動焦点型コーピングと社会的サポート
  • 信頼できる友人や家族に感情を吐露し、精神的な支えを得る。
  • 必要に応じて、カウンセラーに相談し専門的なアドバイスを受ける。

複数のコーピングを状況に応じて柔軟に使い分けることで、仕事と家庭のストレスの効果的な対処が期待できます。

ストレスとセルフケアの統計データ

定期的にセルフケアを行う人は、そうでない人に比べてストレスの影響を30%以上低減できることが研究によって示されています。

セルフケアを続けるために

がんばらなくても実践できるくらいのことから始めるのがコツです。がんばりが必要なことを継続するのはむずかしいです。効果を実感できるようになれば、がんばってやろうという気持ちになりやすいです。

専門家のサポートの利用

複雑なストレスや心理的な問題に対しては、カウンセリングを受けることが有効です。

おわりに

日々の生活にセルフケアとストレスコーピングの技術を取り入れることで、ストレスを効果的に管理し、より健康で充実した生活を送ることができます。この記事があなたのストレスマネジメントの一助となれば幸いです。