【伝わるコミュニケーション】相手の状態に合わせたコミュニケーション

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

夫のこともあれば、妻のこともあるでしょう。わが家の平和のために夫を悪者にします。

結婚前はどちらかといえばスリムだった夫。今では、良く言えば貫禄がついて、悪く言えばブクブク太って、あの頃の面影はどこへ…。少しは痩せてほしい。

年齢とともに太るのはある程度仕方ないけれど、健康診断で赤信号が出ているのだから、自覚して取り組んでほしい。

発言小町というネット上の掲示板に、まさにそのような相談がありました。

  • 結婚して20kgも太った夫がイヤ。
  • 本人も太りたくないとは言う。
  • 食事制限に協力するも当の夫は隠れて食べている様子。
  • そんな夫の太った身体を見ると嫌悪感を催す。
  • どうしたら夫は痩せてくれるか。

このような相談です。

書き込まれたアドバイスは大きく次の3つでした。

  • 食事のアドバイス
  • 運動のアドバイス
  • あきらめる

私なら、行動変容ステージモデルを用いて提案します。

相手の状態に合った働きかけとは

行動変容ステージモデルとは、喫煙などの生活習慣を変えようとするとき、変化の段階を5つのステージに分けて、ステージに合った働きかけを行い支援するというモデルです。5つのステージとは以下です。

  • 【無関心期】問題意識も実行する意志もない
  • 【関心期】問題意識はあるが実行する意志はない
  • 【準備期】行動しようとしている
  • 【実行期】行動を始めている
  • 【維持期】行動を継続している

それぞれの時期にどのような働きかけが望ましいか説明します。

無関心期・関心期

関心の有無が異なりますが、やる気がないのはどちらも同じです。掲示板の夫はステージでしょう。

このステージの人に「食事制限しよう」と言っても、中々素直に聞き入れてもらえません。私のサラリーマン時代の上司は、「タバコは健康のバロメーター」と言っていました。見苦しいですね。でも、やる気のない人に言ってもそんなものです。

このステージの人へのアプローチの基本は「情報提供」です。その生活習慣を継続することによるデメリットを詳しく具体的に伝えるようなアプローチです。タバコをやめない未成年の息子に、タバコのデメリットの詳細をデータや画像などを用いてプレゼンを行い、禁煙させるのに成功した父親の話を聞いたことがあります。

無関心期の人にも心のどこかに、「今のままでは良くない」という思いがあるかもしれません。その気持ちをより膨らますアプローチが望ましいと言えます。

関心期の人は、失敗を重ねて自信を持てないから行動へ踏み切れないなどの可能性があります。背中を押してあげるアプローチが有効かもしれません。成功した人の具体的な取り組みなどの情報提供も役に立つかもしれません。

準備期

まさに行動を起こそうとしている状態ですから、本人が望めば計画立案のお手伝いをするなどして、スムーズにスタート切れるサポートが望ましいです。

実行期・維持期

取り組みが始まったら、ほめたり、労ったり、励ましたりして、継続できるようにサポートします。取り組みを始めて6ヶ月超が維持期の定義です。この時期になると、継続の障害が起きても自力で対処するようになっています。

コミュニケーション不全が起きやすいのは無関心期・関心期でしょう。本人の準備ができていないのに、サポートする側が先走ってしまうのが、ありがちな失敗のパターンです。掲示板の例は、妻はウエアに着替えて走る準備ができているけど、夫は寝起きでついていけない状態と言えそうです。

アドバイスを受け入れるには、自分の気持ちを理解してもらう体験が必要

カウンセリングでも同じような失敗が起きることがあります。カウンセラーががんばりすぎて、クライエントさんがついてこれない、という失敗パターンです。

クライエントさんは問題などの解決を求めて来談されます。来談目的を伺うと「(解決のための)アドバイスがほしい」とはっきりおっしゃる方も多いです。だからといって、すぐにアドバイスすると多くの場合、失敗します。

カウンセリングに来られるのは、解決を求めると同時に、誰かに聴いてほしい、理解してほしいという気持ちもあります。誰にも話せなかった葛藤や割り切れない思いなどを話して、理解してもらえたという体験を経て、アドバイスやサポートを受け入れる態勢ができます。

カウンセリングでは、クライエントさんの役に立ちそうだと思ったとき、「提案させていただいてもよろしいですか」とお聴きすることがあります。

しっかり話して理解してもらえたという実感を得たクライエントさんは、「ぜひ」と身を乗り出すような態勢になります。十分に聴いてもらっていないと感じているクライエントさんは、「はあ」と気乗りしない反応をされます。

「はあ」のときは、カウンセラーがクライエントさんの前を走りすぎていると考えます。そんなときは、傾聴(クライエントの話に耳を傾ける)に戻ります。クライエントさんのペースに戻るのです。

掲示板の夫も、しっかり話を聴いてあげると、より耳を傾けやすい状態になってくれるはずです。簡単なことではありませんが、まずは意識することから始めてみてはいかがでしょう。きっと役に立つはずです。