不倫後のフラッシュバックのケア

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

不倫の発覚後、パートナーを傷つけた側の人の多くが、それまで以上に家庭に精力的に関わるなどして、謝罪の気持ちや誠意を示そうとします。

もちろん、それは悪いことではありません。

しかし、傷つけられた側の人は、「家のことを一生懸命やってくれるのは助かるけれど、それより気持ちに寄り添ってほしい」とおっしゃることがあります。

このズレは、傷つけた側の焦点が再構築に向かっている、前を向いているのに対して、された側は前を向くどころではなく、後方でうずくまって、傷を抱えて動けない状態でいることから起こります。

傷つけた側にとって「終わった」出来事であっても、傷つけられた側にとっては「傷つきの始まり」だからです。

この傷は、例えると心が骨折したような状態です。心をナイフで深くえぐられたような状態です。

骨折した状態で歩き出すことはできません。実際の骨折ならば、骨がひっついて、リハビリをして、日常生活に復帰します。

骨がひっついていないのに無理に進もうとして、より悪化させてカウンセリングにお越しになるケースもあります。

この投稿は、不倫をしてパートナーを傷つけた人に向けたものです。

フラッシュバックは心の悲鳴

不倫をされた側の人の多くにフラッシュバックが起こります。

フラッシュバックはトラウマの症状の一つです。再体験症状、侵入症状とも言います。文字通り、頭の中で再体験しています。苦しい場面や考えが頭の中に侵入してきます。それが繰り返し起こります。

様々なタイミングで起こります。テレビで芸能人の不倫のニュースが流れたとき。スケジュール帳を見たとき。食事をしているとき。忙しい中、ふっと力を抜いたとき。等々です。

フラッシュバックが起きるのは、強烈な傷を負ったにも関わらず、今が安心と感じられないからです。

頭ではもうないだろうと思っていても、傷ついた心と身体が安心を感じるまでには時間がかかります。それは、これ以上の傷を負わないための反応、自分を守るための反応です。

安心は、傷ついたことをしっかり共感的に理解された経験を積み重ねること、同じことが起こる可能性がほぼないと実感することによって得られます。

された側の話をしっかり聞いて理解して、できる限り不安を取り除く行動の実践が求められます。

逆に、「さびしかったから」などの正当化、「あなたにも原因がある」などの責任転嫁、ごまかしや隠し事は、傷を更にえぐって、回復・再構築を遠ざけます。

フラッシュバックの肯定的な側面

フラッシュバックは、大変つらい経験です。しかし、それが起こるのは必要だからでもあります。

繰り返しになりますが、危険を警告して回避するための機能があります。これ以上の傷つきを避けるための機能です。

記憶の処理を進める機能もあります。通常の記憶は、それを体験したときの感覚・感情・出来事などが、過去の物語として整理されています。

トラウマのような大きなショック体験の記憶は、それらが整理されずに未処理のまま残っていると考えられています。

フラッシュバックには、それらの未処理の記憶を意識下に浮上させて、処理を進める機能があります。トラウマの心理療法には、傷ついた記憶をあえて自ら振り返る技法があります。記憶の処理を促す技法です。

フラッシュバックは一定の期間必要なものであるとの認識を持って、パートナーへの寄り添いが求められます。

寄り添うとは

された側は、現在の傷だけではなく、過去も未来も傷つけられています。

過去の傷とは、これまでの夫婦生活、家庭生活の意味が変わってしまうことです。衝突することがあっても、ここまで概ね良い関係を築いてきたと思っていた夫婦生活、家庭生活が無意味なものだったのかと虚しさを感じます。

未来の傷とは、暗い将来しか想像できないことです。再構築と言葉にするのは簡単だけど、これだけの傷を負った今、明るい将来を思い描くことができない。将来に希望を持てないと感じます。

「寄り添う」とは、これだけの傷を負っているのを理解する、共感することから始まります。

パートナーの傷に向き合うことです。抑えきれない気持ちを語るパートナーにしっかり向き合います。パートナーの話を聞くときは、スマホを置いて、テレビを消して、パートナーに集中します。

たとえば、パートナーがつらい気持ちを話しているときに、「ちゃんと聞いているよ」と目を見てうなづくだけでも、パートーナーは安心を感じやすくなります。

「寄り添う」には、「からだをすり合わせるように、そばへ寄る。すぐ近くに寄る。寄りつく」という意味があります。一緒にいる、側にいることも寄り添いです。

自分の行動を透明化し、相手に信頼を示すことが必要です。たとえば、仕事の予定や外出の理由を事前に共有するなど、これらの小さな積み重ねも寄り添いです。

以上は一般的なより添いの形です。どのように寄り添うのが、どのように向き合うのが良いかは、人によって異なります。独りよがりで進めるのは望ましくありません。パートナーの要望を確認しながら行うことです。

言葉にするとテクニック的なことが多くなりがちですが、大切なのは共感と理解です。

「この苦しさを理解したんだな」「このつらさを和らげようとしているのだな」とパートナーが実感する機会が増えてくると、安心感も増えてきます。安心感が増えてくると、フラッシュバックは収まっていきます。

傷ついたパートナーは、しばしば強い感情をぶつけてくると思います。連日、長時間に渡って詰問していくることがあるかもしれません。

基本的には、それらを受け止める必要があります。しかし、自分がしたこととはいえ、強い感情や責めを継続して受け続けるのは困難なことがあります。「何をしても無駄かもしれない」と感じることもあります。

そのような場合は、カウンセラーなどの第三者のサポートを受けて下さい。継続してこそ意味があります。そのためには、傷つけた側の心もサポートが必要となるケースはめずらしくありません。小さな努力や誠実な態度の積み重ねが、傷ついた側にとっての安心につながります。