ブリーフセラピーや認知行動療法では、生活における具体的な悩みの解決を積み重ねて、全体的な解決の達成を目指します。このようなお話しをすると「それは根本的な解決な解決にならないと思うのですが」と言われることがあります。
具体的な悩みの解決を積み重ねるとは
例えば、HSPの悩みを訴える方には、HSPによって起きている具体的な困りごとを伺っていきます。
以下のように解決に向かいます。
①「具体的な悩み」の対処力を向上を重ねると、
②「悩みの種類」の対処力の向上につながり、
③「特徴」の対処力の向上につながる
根本的な解決とは
根本的の言葉が意味するのは、
生活における具体的な困りごとの解決は対症療法であって、深層心理に変化が及ばない。それでは同じことが繰り返されるのではないか。
ということだと思います。
以下、そんなことはありませんよ、という話をしたいと思います。
同じことが繰り返されるのは「枠組み・パターン」が変わらないから
同じことが繰り返される例です。
① 人間関係がうまくいかない
② メンタルヘルス不調で休職
③ 休職と薬の効果で寛解して復職
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④ また、人間関係がうまくいかない
⑤ また、メンタルヘルス不調で休職
⑥ 休職と薬の効果で寛解して復職
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⑦ またまた、人間関係がうまくいかない
⑧ またまた、メンタルヘルス不調で休職
上記の例は、パワハラや過重労働などの環境要因がない場合、本人の思考・行動の枠組み・パターンが変わらないまま、休職と復職を繰り返している可能性が考えられます。
ブリーフセラピーや認知行動療法で取り組むのは、まさに思考・行動の枠組み・パターンの変化です。具体的な困りごとから、悪循環を維持する枠組み・パターンを明確化します。そして、好循環を起こす枠組み・パターンに変化する介入を行います。
枠組み・パターンが変わればいいので、深層心理がどうとか考える必要はありません。
休んで薬を飲んで何となく良くなったではなく、「何をどうしたからこうなった」ということが明確になります。再発しにくいメリットがあるとされています。
深層心理とは
深層心理を辞書で引くと「深層心理学」の項目がありました。
深層心理学 depth psychology
人間行動の理解に無意識を重視する心理学のことであるが、精神分析学と同義に用いられることがある。より表層的な意識の部分と深層の無意識という精神の階層構造論の立場から、意識よりも無意識によって人間の行動が左右されているとみる立場が深層心理学である。
心理学辞典 有斐閣 より引用(太字は当サイト管理者による)
深層心理とは、無意識のことですね。
無意識の概念を提唱したのは、精神分析療法を創始したフロイトです。フロイト以降の心理療法は、フロイトの理論を発展させる立場と、フロイトの理論を否定する立場に分かれて発展していきます。
発展させる立場に属するのは、例えばアドラー心理学です。否定する立場に属するのは、例えば認知行動療法です。ただし、どちらも全肯定でもなく、全否定でもありません。
認知行動療法のモデルを用いて
以下、認知行動療法のモデルを用いて説明します。
自動思考
同じ状況においても、人によって受け取り方が異なります。受け取り方のことを認知といいます。受け取り方が異なると、生じる感情・行動も異なります。
認知の中でも表層にあるものを自動思考と呼びます。
上図は、Xさん、Yさんの2人は、同じ出来事に遭遇しましたが、生じた自動思考は異なるものでした。自動思考によって生じる感情と行動も異なるものでした、ということを示しています。
Xさんは「Aさんが怒っているのでは(自動思考)」と、不安(感情)になりました。そして、Aさんを避ける(行動)ようになりました。
Yさんは「Aさんに何か悪いことがあったのかな?(自動思考)」と、Aさんが心配(感情)になりました。そして、後でLINEを送って気遣い(行動)ました。
媒介信念・中核信念
認知行動療法では、表層の認知を自動思考と呼びます。
深層に2つの層を定義します。思い込み・ルールを意味する媒介信念と、自分・他者・社会に対する信念である中核信念の2つです。自動思考の違いの作るのは、媒介信念・中核信念の違いです。
下図は、Xさんの媒介信念・中核信念と自動思考の関係を示します。
Xさんには、「私は好かれない」という中核信念があります。そんな自分が社会でうまくやっていくための「相手の気分を害してはいけない」という媒介信念があります。大阪駅での出来事は、ルール(媒介信念)違反を示唆しました。それが、Xさんを不安にさせました。
下図は、Yさんの媒介信念・中核信念と自動思考の関係を示します。
Yさんには、「相手も私も尊重される」という中核信念があります。その中核信念は「相手の気持ちは相手もので自分の問題ではない」という媒介信念を作ります。大阪駅での出来事は、「いつもと違う。どうしたのだろう」とAさんを心配させました。
自動思考の妥当性を検討する
自動思考は予想に過ぎません。Xさんの自動思考の妥当性を検討してみました。
・Aさんは概ね気分が安定している人
・仮に嫌いな人であっても無視するとは考えにくい
・19時の大阪駅は人があふれている
以上のことから、Yさんの予想が現実的だという結論に至りました。Xさんは次に同じようなことが起きたら、YさんのようにLINEをすることにしました。それを示すのが下図です。
行動実験を行う
後日、同じことが起こりました。Xさんは現実的な考えを採用しました。そして、LINEしました。すると「気づかなかった。ごめんね」と返ってきました。このような経験は、媒介信念・中核信念に影響を及ぼします。
偏った自動思考に待ったをかけて、現実的な思考を選択できるようになれば、徐々に媒介信念・中核信念が緩んでいくことも期待できるでしょう。
認知行動療法では、媒介信念・中核信念に取り組むことはあまりありません。現実的・適応的な思考と行動を選択できることをゴールとすることが大半です。
深層心理に踏み込まなくても、生活における具体的な悩みの解決を積み重ねれば、根本的な解決(問題を繰り返さない)にたどりつけるというお話しでした。