多重関係の禁止

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

多重関係とは、同じ人と複数の関係を同時に持つことをいいます。例えば、上司が部下をカウンセリングするようなケースです。このケースでは、上司・部下の関係カウンセラー・クライエントの関係同時に存在しています。

カウンセリングでは多重関係禁止されています。

上司がカウンセラーになると、部下の心に悪い評価を受ける不安が起きて、十分に自己開示ができなくなる可能性があります。また、もともと弱い立場である部下が、より弱い立場に陥る恐れがあります。カウンセリングが機能しないどころか、悪化させることにもなりかねません。

カウンセラーの側にもデメリットが生じます。クライエントを客観的に見る視点が損なわれるおそれがあります。中立の立場にいるのがむずかしくなるケースも懸念されます。クライエントに偏見予断を持つ可能性も生じます。

多重関係を完全に避けるのが困難な場合があります。 実店舗を持つ場合、クライエントの多くは地域コミュニティーの住民です。地域コミュニティーの中で、偶然に多重関係となってしまう可能性があります。

意図せず多重関係になってしまった場合、カウンセラーはそのリスクをクライエントに説明して、カウンセリングを継続するか、他のカウンセリングルームに紹介するか等をクライエントと相談します。

コーチングでは多重関係は禁止されていません。目的が目標達成の支援であることから、カウンセリングにおける多重関係と同じリスクは起きにくいと考えられているのでしょう。

しかし、当カウンセリングルームでは、コーチングでも多重関係を避けるべきと考えます。上司がコーチの場合、悪い評価を受ける不安を完全に拭い去るのは不可能でしょう。不安が自己開示を妨げてコーチングが機能しないこともありえます。

その懸念が拭えない限り、行うべきではないと考えます。

多重関係の禁止は、クライエントの安全を守るために必須のルールです。