社交不安症(社会不安障害)

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
社交不安症の人は、人と接する場面で強い不安や恐怖を感じます

社交不安症の人は、自分がどう見られているかを非常に気にします。「失敗したらどうしよう」「恥をかいたらどうしよう」といった考えにとらわれがちです。自分に自信を持てないと訴える人の中には、社交不安症に相当する人もいらっしゃいます。

社交不安症とは

社交不安症(社会不安障害)とは、人と接する場面で強い不安や恐怖を感じる心の状態です。誰でも人前で緊張することはありますが、社交不安症の場合、その不安が日常生活に支障をきたすほど強くなります。

単なる「内気」や「シャイ」とは異なります。社交不安症は、医学的に認められた精神疾患の一つで、適切な治療やサポートによって改善が可能です。

よく見られる症状
  • 人前で話すときに手が震える
  • 他人の目が気になって落ち着かない
  • 会議や飲み会に参加するのが怖い
  • 電話をかけるのに勇気がいる
  • 人と目を合わせるのが苦手
  • 赤面や動悸、発汗が激しくなる
  • 失敗や批判を極端に恐れる

これらの症状が強く、長期間(通常6ヶ月以上)続く場合、社交不安症の可能性があると考えられます。ただし、診断は精神科の医師が行います。カウンセラーは診断できません。また、症状の程度や頻度は人それぞれです。

カウンセラーは、医学的な診断基準を満たすか否かに関わらず、日常生活に支障を来していることの改善・解決をサポートします。

社交不安症の特徴

  • 生涯有病率は13%程度と高い(一生のうち一度でも社交不安障害にかかる割合が、7人に1人程度)
  • 発症年齢が若いため(平均13歳)、社交不安が自分の性格と捉えられやすく、未治療である場合が多い。
  • 成人になってから突然発症する場合もあるが稀である。
  • 併存疾患を有する場合が多い(うつ病、その他の不安障害、アルコール依存など)。
  • 自然に症状が改善していくことは稀であり(自然寛解率 30~40%)、慢性の経過をたどることが多い。
  • 参考文献
    • 厚生労働省. (2021). 社会不安症(社交不安障害)の認知行動療法マニュアル.
    • Stein, M. B., & Stein, D. J. (2008). Social anxiety disorder. The Lancet, 371(9618), 1115-1125.

日常生活での具体例

視線恐怖
周囲の視線が怖くて目を閉じて耐えている

社交不安症の症状は人それぞれですが、日常生活の中での例をあげてみます。

仕事や学校で
  • 会議で意見を求められると、頭が真っ白になる
  • プレゼンテーションの前夜、不安で眠れない
  • 同僚や同級生との雑談が苦手で、昼食を一人で食べることが多い
人間関係
  • 知らない人に話しかけるのを極端に恐れる
  • デートの誘いを断る理由を必死に考える
  • SNSに投稿するとき、他人の反応を過度に気にする
日常的な場面
  • レジで店員さんと目を合わせられない
  • 電話をかけるのを何度も先延ばしにする
  • 人混みを歩くとき、自分の歩き方が変だと感じる

これらの背景にあるのは、他人からの評価が心配でたまらない、悪い結果ばかりを考えて行動を制限するといった、思考のクセとも言えるものです。さらに、失敗を避けるために準備に過度に時間や労力をかけすぎて、生活に負担がかかります。

また、不安や緊張が心身にあらわれます。心の反応は、

スピーチ恐怖、対人恐怖、電話恐怖、視線恐怖、会食恐怖

等としてあらわれます。身体の反応は、

赤面、発汗、身体のふるえ、腹鳴恐怖、排尿恐怖、自己臭恐怖

等です。

これらの結果、特定の場面に限らず、生活全般に不安を感じる人もいます。

社交不安症の影響

社交不安症は、単に「人見知り」や「内向的」といった性格の問題ではありません。先に紹介した厚生労働省のマニュアルによると、自然に寛解するのは30〜40%です。適切に対処しないと、日常生活のさまざまな面に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

日常生活への影響

学業や仕事への支障
  • グループワークや会議での発言を避ける
  • プレゼンテーションや公の場での発表を極端に恐れる
  • 上司や先生とのコミュニケーションが困難になる
人間関係の制限
  • 新しい友人を作ることが難しくなる
  • 恋愛関係の構築や維持が困難になる
  • 家族や親しい友人との関係にも緊張感が生まれる
日常的な活動の制限
  • 外食や買い物などの日常的な活動が苦痛になる
  • 公共交通機関の利用を避ける
  • 電話やビデオ通話の使用を極端に恐れる

長期的な影響

メンタルヘルスへの影響
  • うつ病を併発するリスクが高まる
  • 自尊心や自己評価の低下
  • 不安障害の他の形態(パニック障害など)を発症する可能性
キャリアへの影響
  • 能力を十分に発揮できず、昇進や昇給の機会を逃す
  • 就職活動や転職が困難になる
  • 自分の希望や適性に合わない職業を選択してしまう
生活の質の低下
  • 社会的孤立により、生活の満足度が低下
  • ストレス関連の身体症状(頭痛、胃腸の問題など)が増加
  • アルコールや薬物に依存するリスクが高まる

社交不安症の影響は個人によって異なり、症状の程度や持続期間によっても変わります。しかし、適切な治療やサポートを受けることで、これらの影響を軽減し、より充実した生活を送ることが可能です。

社交不安症は決して珍しい問題ではありません。先にも触れましたが、厚生労働省の資料によると、生涯有病率は約13%とされており、7人に1人程度が生涯のうちに社交不安障害を経験しています。多くの人が同様の悩みを抱えています。あなだだけではありません。

社交不安症の原因

電話恐怖
電話している声を聞かれるのが怖い

社交不安症の正確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、研究によると、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。生物学的要因、心理的要因、環境要因に分けられます。

  • 【生物学的要因】遺伝的影響、脳の構造と機能、神経伝達物質のバランス
  • 【心理的要因】否定的な社会経験、認知の偏り、学習された回避行動
  • 【環境要因】養育環境、文化的背景、社会的プレッシャー

原因の詳しい説明を省いて、抽象的な表現で済ませたのは理由があります。

社交不安症に限らず、心の病は原因の特定が困難です。そのため、特定の症状が一定期間にわたって持続することが診断基準として示されています。

原因がわかっても、日常生活の困難が解決するわけではありません。解決の取り組みが必要です。それなら初めから、「問題の消失=解決」に取り組むのが効率的で効果的です。

社交不安症の治療

社交不安症の治療には、主に心理療法と薬物療法の2つのアプローチがあります。

心理療法

心理療法では、思考と行動のクセを柔軟にすることを目指します。当カウンセリングルームでは、ブリーフセラピーと認知行動療法を折衷的に用います。

  • 不安を引き起こす考え方のパターンを特定し、より現実的で適応的な思考に変える練習をします。
  • 徐々に恐れている社会的状況に向き合う「段階的曝露」を行います。
  • 社会的スキルの向上や、リラックス法の習得なども含まれます。

心理療法は通常、数週間から数ヶ月にわたって行われ、セッションの間の自己練習も重要な部分を占めます。

薬物療法

薬物療法は、大きすぎる不安を和らげる効果があります。主に以下の種類の薬が使用されます:

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
  • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
  • ベンゾジアゼピン系抗不安薬(短期的な使用に限定)

薬の種類や用量は、症状の程度や個人の状況に応じて専門医が慎重に決定します。

段階的アプローチ

治療は通常、症状の程度に応じて段階的に行われます。

  • 【軽度の場合】自己学習や生活習慣の改善から始める
  • 【中等度の場合】心理療法を中心に行う
  • 【重度の場合】心理療法と薬物療法を組み合わせて行う

日々の取り組み

専門家のサポートに加えて、日々の取り組みも重要です。

  • リラクセーション(深呼吸、瞑想など)を日常的に実践する
  • 少しずつ苦手な状況に挑戦する
  • 家族や友人のサポートを得る

カウンセリングでは、リラクセーション技法の指導や少しずつ苦手な状況に挑戦する計画づくりを一緒に行います。意思の力だけでがんばるのではなく、継続できる仕組みを作りながら解決に向かいます。

長期的な視点

社交不安症の解決は、即効性を求めるのではなく、長期的な改善を目指すことが大切です。症状の改善には時間がかかることもありますが、継続的な取り組みにより、多くの人が症状の軽減や生活の質の向上を経験しています。

専門家のサポートを受けながら、自分のペースで着実に進んでいくことが、社交不安症の克服への近道となります。一人で抱え込まず、勇気を出して支援を求めて下さい。

カウンセラーのメッセージ

心はどこにあるのでしょうか。脳や心臓を指す人もいますが、「人間」という言葉が示すように、心は「人の間」、人間関係の中にも存在します。これは、私が依拠する家族療法の理論とも一致する考え方です。

人間関係は、心の傷の原因にも、そして癒しの源にもなります。多くの悩みは人間関係から生じますが、同時に、人間関係を通じて癒されます。例えば、上司の言葉に傷つき、同僚や友人に話を聞いてもらってリフレッシュする経験は、まさにこのことを示しています。

しかし、「日々の生活が息苦しい」「自分らしく生きるのが難しい」といった深い悩みや、家庭内トラウマのような心の傷には、単に話を聞いてもらうだけでは不十分な場合があります。専門的なサポートが必要となります。

同時に、安心・安全な場所(人間関係)も重要です。自由に話せ、否定されず受容され、無用なアドバイスをされない環境が、大きな悩みや深い心の傷の回復を可能にします。

私がライフワークとする自信も人間関係を通じて育まれます。自信には「自己効力感」(能力的な自信)と「自己肯定感」(存在や人格への肯定的評価)があります。特に自己肯定感の問題を解決するには、そのままの自分でOKという体験を積み重ねる必要があり、これは人間関係を通じてしか得られません。

私は、専門的なサポートと安心・安全の人間関係を提供することを通じて、あなたの心の健康に貢献します。

このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

親バカのカウンセラー / 人に原因を求めるのではなく、人と人との相互作用の悪循環に求めます。人に優しいカウンセリングをモットーとしています。

最初の一歩踏み出しましょう!