ブリーフセラピー(短期療法)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

悪循環を断ち切り、両樹冠を広げて解決に向かう

ブリーフセラピーは、「短期療法」と訳される心理療法です。

単に「短い期間で終わる」という意味ではなく、「必要なことにしぼって、できるだけ効果的に変化を起こす」ことを重視したアプローチです。効果的かつ効率的に解決を目指すカウンセリングと考えていただければ良いと思います。

困りごとの原因を「その人の性格のせい」「過去の体験のせい」といった個人の内側に求めるのではなく、周囲との関わりや日々のコミュニケーションの中で、どのように問題が作られ、維持されているのかに注目します。

そして、コミュニケーション(相互作用)を変えていくことで、問題の解消や、状況の改善をめざします。

参考ページブリーフセラピーとは | 国際ブリーフセラピー協会

ブリーフセラピーの特徴

原因探しをしない

問題について「なぜこうなったのか」を探り始めると、話は過去に遡っていきます。

  • 幼少期の体験
  • 親との関係
  • 性格の問題

原因を探せば探すほど、解決は遠のいていきます。

ブリーフセラピーでは、原因探しよりも「これからどうなりたいか」「今できることは何か」に焦点を当てます。過去は変えられませんが、未来は変えられます。

注:過去の出来事そのものは変えられません。しかし、その出来事が今に及ぼしている影響は変えることができます。思い出すと苦しくなる、同じような場面で身構えてしまう。そうした現在への影響には対処が可能です。

解決しようとする試みが問題を作っている

問題が起きると、当然ながら解決しようとします。この解決行動が、逆に問題を維持することがあります。

例えば、眠れないときに「早く寝なければ」と焦ります。焦れば焦るほど、目が冴えてしまいます。「眠ろうとすること」が「眠れないこと」を強めているのです。

別の例では、不安を感じたときに「考えないようにしよう」とします。しかし、考えないようにすればするほど、不安なことが頭に浮かんできます。

ブリーフセラピーでは、この「良かれと思ってやっていること」が問題を維持している可能性に注目します。そして「いつもと違うこと」を試してみます。

小さな変化から始められる

「性格を変えなければ」「根本から解決しなければ」と考えると、重荷に感じてしまいます。

ブリーフセラピーでは、小さな変化を大切にします。

  • 大きな変化は負担が大きく、「できない」と感じやすい
  • 小さな変化なら実行しやすく、すぐに取り組める
  • 一つの小さな変化が、関係性全体に影響を広げていく

人間関係や日常生活には、面白い特徴があります。たとえ一部に小さな変化が起きただけでも、全体がそれに反応してバランスを取り直そうとします。一つが「いつもと少し違うこと」をするだけで、関係性全体に影響が広がっていくのです。

この小さな変化が、悪循環に「くさび」を打ち込むきっかけになります。そして、小さな成功体験が次の小さな変化を引き起こし、やがて良い流れ(良循環)を生み出していきます。大きな決断や劇的な変化を求めるのではなく、できることから始めます。

関係性のパターンに注目する

日常生活には、繰り返されるパターンがあります。ある状況になると、いつも同じような展開になる。そのパターンこそが、問題を維持しています。

ブリーフセラピーでは、このパターンを一緒に見つけ、変えていきます。パターンが変わると、問題が問題でなくなることがあります。

具体的にどのような支援をするのか

ブリーフセラピーには、大きく分けて2つのアプローチがあります。

  • 悪循環を断ち切るアプローチ
  • 良循環を広げるアプローチ

この2つのアプローチを、状況に応じて使い分けながら支援を進めていきます。

悪循環を断ち切る

「良かれと思ってやっていること」が逆効果になっているケースがよくあります。

例えば、子どもが学校に行きたがらないとき、親は「学校に行きなさい」と促します。子どもはプレッシャーを感じて、さらに行きたくなくなります。親はますます心配して促します。この「心配して促す」という行動自体が、意図に反して「行きたくない」を強化してしまうのです。

  1. 子どもが学校に行きたがらない
  2. 親は「学校に行きなさい」と促す
  3. 子どもはプレッシャーを感じて、さらに行きたくなくなる
  4. 親はますます心配して促す
  5. 最初に戻る

この「心配して促す」という行動自体が、意図に反して「行きたくない」を強化してしまうのです。

カウンセリングでは、このような悪循環を一緒に見つけます。そして「いつもと違うこと」を試してみます。

親が促すのを控えてみる
→ 子どもの方から「明日は行ってみようかな」と言い出すことがある

親が「無理しなくていいよ」と伝えてみる
→ 子どもの緊張が和らぎ、少しずつ動き出すことがある

別の例では、職場で部下が失敗を恐れて上司に細かく確認します。上司は「いちいち聞かないで自分で判断して」と言います。部下は「やはり信頼されていないのでは」と不安になり、さらに細かく確認するようになります。上司は「また確認してきた」とイライラします。この循環が続きます。

  1. 部下が失敗を恐れて上司に細かく確認する
  2. 上司は「いちいち聞かないで自分で判断して」と言う
  3. 部下は「信頼されていない」と不安になり、さらに細かく確認する
  4. 上司は「また確認してきた」とイライラする
  5. 最初に戻る

この場合も、対応を変えてみます。

細かく確認する代わりに「こう考えたのですが、これで進めます」と報告する形にする
→ 上司は「自分で判断している」と受け取り、信頼するようになることがある

確認する前に「○○の件、自分なりに考えてみたのですが」と前置きしてから相談する
→ 上司の受け止め方が変わることがある

いつもの対応を少し変えるだけで、悪循環が止まり、新しい流れが生まれることがあります。

良循環を広げる

「いつも不安」と感じていても、実は24時間365日、常に不安なわけではありません。少し落ち着いている時間もあります。この「例外」こそが、解決のヒントです。

カウンセリングでは、例えば「最近、少しマシだった日はありましたか?」と尋ねます。多くの方が「そういえば昨日の午後は…」と思い出されます。

  • 散歩に出た
  • 好きな音楽を聴いた
  • 友人と少し話した

その時、何が違ったのか。この「たまたま」の中に、解決の種があります。「たまたま」を「意図的に」に変えていきます。毎日少しだけ散歩する時間を作る。この小さな変化が、生活全体を変えていくことがあります。

別の例では、「いつも家族と喧嘩してしまう」という相談があったとします。よく聞いてみると、「先週の日曜日は穏やかに過ごせた」と教えてくれました。

その日、何が違ったのか。

  • たまたま一緒に買い物に行った
  • お互い忙しくなくて余裕があった
  • 夕食を一緒に作った

この「たまたまうまくいった日」の要素を、意図的に増やしていきます。週に一度、一緒に買い物に行く時間を作る。夕食を一緒に作る日を決める。こうした小さな良循環が、関係性全体を変えていくことがあります。

ブリーフセラピーが目指すこと

ブリーフセラピーは、問題や症状を完全に消し去ることを第一の目標にはしていません。

うつや不安、対人関係の悩み、長く抱えている症状。これらを抱えながらも、日常生活を「うまくやっていけている」と感じられることを大切にしています。

人付き合いが苦手な方
苦手をなくすことを目指すのではなく、自分なりのペースで人と関われる方法を見つけていく

自分に自信が持てない方
自信をつけることを待つのではなく、自信がなくても一歩踏み出せることを増やしていく

完璧にできないと苦しい方
完璧主義をなくすことを目指すのではなく、「まあ、これくらいでいいか」と思える場面を増やしていく

家族との関係がうまくいかない方
関係を劇的に変えることを目指すのではなく、お互いが少し楽になれる関わり方を探していく

職場で緊張してしまう方
緊張をゼロにすることを目指すのではなく、緊張していても必要なことができる工夫を見つけていく

不安が強い方
不安がなくなることを待つのではなく、不安があっても動けることを増やしていく

うつ病を抱えている方
うつ病そのものをどうにかしようというよりも、うつと付き合いながら日々の生活でできることを見つけていく

統合失調症の方
症状をゼロにすることを目指すのではなく、症状があってもその人らしく生活できる方法を一緒に探す

「問題が問題でなくなる」「日常生活に支障がなくなる」といった、実際的で現実に根ざした解決を重視します。

人にはそれぞれの事情があり、それぞれの生活があります。ブリーフセラピーでは、「こうあるべき」という型にはめるのではなく、その人がその人らしく、少しでも楽に過ごせることを目指します。

カウンセリングの実際

初回で何をするか

初回のカウンセリングでは、まず今困っていることを伺います。

  • どのような状況なのか
  • どのようなパターンが繰り返されているのか
  • お話を聞きながら、問題を維持しているパターンを一緒に確認する

「どうなりたいか」「どうなったら良くなったと感じるか」も大切なテーマです。大きな目標でなくても構いません。

  • 少し楽になりたい
  • できることが増えたらいい
  • こんな風に過ごせたらいい

こうした具体的な希望を確認します。

2回目以降の進め方

2回目以降は、前回から今回までの間に起きた変化を確認します。

  • 「いつもと違うこと」を試した結果はどうだったか
  • うまくいったこと、うまくいかなかったことを振り返る
  • うまくいったことは続けていく
  • うまくいかなかったことは、別のやり方を一緒に考える

この積み重ねが、少しずつ状況を変えていきます。毎回の面接で小さな変化や新たな視点が得られるよう、「話すだけで終わらない」「日常に持ち帰れるカウンセリング」を目指しています。

期間と頻度の目安

面接時間は1回50分程度です。頻度は2週間に1回を目安としていますが、ご希望により調整可能です。

  • 数回で変化を感じる方もいる
  • 1回で終了するケースもある
  • 時間をかけて取り組む方もいる
  • 「ブリーフ(短期)」という名前にとらわれすぎず、一人ひとりのペースに合わせて進める

継続的なサポートが必要な場合は、柔軟に対応します。

よくある質問

Q
短期で本当に効果があるのですか
A

「短期」とは「短い期間」という意味ではなく「効率的」という意味です。

  • 原因探しに時間を使わない
  • 解決に直結することに焦点を当てる
  • 結果的に効率的な支援になる

ただし、急ぐことはありません。変化には時間がかかることもあります。

Q
具体的なアドバイスをもらえますか
A

ブリーフセラピーでは、日常生活において「こんなことを試してみませんか」と提案することが多くあります。また、「試せそうなことを一緒に考えてみましょう」とお声がけすることもあります。

ただし、これらはあくまで提案です。

  • 義務のようなものではない
  • 試すかどうか、どう試すかは、ご本人が決める
  • 状況によっては、具体的な提案をせず、お話を伺うことに専念する場合もある

あなたのペースを大切にしながら進めていきます。

Q
家族と一緒に来ないとダメですか
A

いいえ、一人でも大丈夫です。

ブリーフセラピーが家族療法から発展したアプローチであることをご存じの方の質問だと思いますが、個人のサポートにも広く用いられています。

  • 一人の行動が変われば、関係性全体に影響する
  • 「相手を変えよう」ではなく「自分の関わり方を変えてみる」
  • 相手の反応が変わることがある

ご家族やパートナーと一緒に来られる場合は、それも歓迎します。

補足:他の心理療法との違い

心理療法にはさまざまな種類があり、それぞれに異なる考え方や進め方があります。参考までに、代表的な心理療法との違いを簡単にご紹介します。

認知行動療法との違い

認知行動療法では、出来事や状況に対する「思考の偏り」や「行動のパターン」が問題の原因であると考えます。

  • 認知の再構成や行動実験など、理論に基づいた技法を使う
  • 段階的に変化を促していく
  • 現実に即した柔軟な思考や行動ができるようになることを目指す

ブリーフセラピーでは、問題の原因を個人の中に求めません。

  • コミュニケーション(相互作用)のパターンに着目する
  • そこに小さな変化を起こす
  • 問題が問題でなくなることを目指す

来談者中心療法との違い

来談者中心療法では、「自己受容(自分を受け入れる)」ができなかったり、「不一致(自分の中の本当の気持ちと、外に見せている態度や言葉がズレている状態)」が問題の背景にあるとされます。

  • 共感的な理解と無条件の肯定的関心を通じて支援する
  • 自己の気づきを促す
  • 十分に機能する人間としてのあり方を取り戻すことを目指す

ブリーフセラピーでは、問題そのものではなく、「問題がどのように維持されているか」に注目します。

  • 悪循環の遮断
  • 良循環の強化
  • 実際的で現実に根ざした解決を重視する

それぞれの療法に良さがあり、状況や相談内容によって適したアプローチは異なります。当カウンセリングルームでは、ブリーフセラピーを基本にしながらも、必要に応じて他のアプローチも取り入れながら、柔軟な対応を心がけています。

参考文献
  • 若島孔文・長谷川啓三 2018 新版 よくわかる!短期療法ガイドブック 金剛出版
  • 日本ブリーフセラピー協会編 2019 Interactional Mind Ⅻ (2019) 北樹出版
  • 若島孔文 2011 ブリーフセラピー講義-太陽の法則が照らすクライアントの「輝く側面」 金剛出版
  • 森俊夫・黒沢幸子 2002 〈森・黒沢のワークショップで学ぶ〉解決志向ブリーフセラピー ほんの森出版

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