くよくよ悩んだり、ぐちぐち言ったりするのは、ネガティブなこととされる場合が多いです。しかし、くよくよ悩んだり、ぐちを言ったりした経験がない人は、ほとんどいないと思います。
ほとんどの人に経験があるのは、役に立つからであり、必要だからです。
【くよくよ・ぐちぐち】について、なぜ必要なのか。どのように役に立っているのか。なぜ嫌がられるのか。どのようにするのが良いのか。などなどを考えてみたいと思います。
【くよくよ・ぐちぐち】がショックから立ち直らせてくれる
くよくよ・ぐちぐちするのは、失敗などショックな出来事が起きたとき、起きた後です。くよくよ・ぐちぐちは、そのショックを乗り越えるプロセスを進めてくれます。
強いショックを受けると出来事と感情が分離する
思い出は、出来事と感情がセットになっています。
ふと過去のつらい出来事を思い出して、同時につらい気持ちがよみがえることがあります。しかし、そのつらさは過去のものであって、今に影響を及ぼすことはほとんどありません。出来事も感情も過去のものだからです。
ショックを受けたときは、出来事から感情が分離したような状態になります。
時間が過ぎて過去の出来事になったのに、感情的には今、起きているかのような状態です。その最たるものが心的外傷(トラウマ)体験です。くよくよ・ぐちぐちは、感情を出来事と同じ過去にするプロセスを促進します。
トラウマ(PTSD)の治療は医療機関など専門家に相談して下さい。
【くよくよ・ぐちぐち】が感情のみずみずしさを劣化させる
変な例えですが、野菜を冷蔵庫から何度も出し入れすると、新鮮さ失われていくことに似ています。ショックな気持ちも、くよくよ繰り返し思い出していくうちに、慣れてみずみずしさが弱まっていきます。
ぐちを聞いてもらうのは更に効果的です。繰り返し思い出すことに加えて、「大変やったね」「つらかったね」と気持ちを受け止めてもらうだけで、気持ちが安まる経験を持つ人は多いでしょう。
ショックな出来事が起きたとき、必要以上に自分を責めたり、自分や周囲に対する信頼が損なわれることがあります。そんなときに話を聞いて受け止めてもらうと、ゆらぎかけた自信が支えられる力になることがあります。
『援助者必携 はじめての精神科 第2版』(春日武彦著、医学書院、2011年)という精神科医による本には、患者さん等から不当な扱いを受けたときのストレス解消法として、「こういったとき、1人で考え込むのは最悪です」(中略)「仲間に愚痴をこぼすのが一番です」と記されてあります。
ありのままの気持ちを話して、受けて止めてもらい、共感してもらうことによって、傷ついた心や緊張がほぐれていくことを「カタルシス」と言います。
芸術療法(絵画療法、音楽療法、サイコドラマ、音楽療法など)では、話す以外の方法でカタルシス効果を得ます。
「聴いてもらうだけのカウンセリングに意味はない」という人がいますが、必ずしもそうではありません。大きなショックを受けている人には、聴く以上のことをするとかえって悪化するケースもあります。
【くよくよ・ぐちぐち】したくてもできないとき
当カウンセリングルームでは、夫婦・カップルの相談を多く承っています。夫婦・カップルの相談において多いテーマの一つに「不倫・浮気」があります。
パートナーに「不倫・浮気」された側のショックは相当なものです。しかも、されたことを誰にでも言えるわけではありません。職場や子どもの前で、くよくよするわけにはいきません。胸の中に閉じ込めておくしかありません。
話を聞いてもらう相手は、した側のパートナーになります。傷つきや悲しみなどの感情が大きくなると、それは怒りとして表現されます。毎日のようにパートナーに怒りをぶつけるケースはめずらしくありません。
した側に受け止めなければという気持ちがあっても、毎日のように怒りをぶつけられると苦しくなって、怒りに怒りで応えてしまったり、「終わったことではなく、前に目を向けよう」などと返すことがあります。
誰にでも話せることではない。パートナーは受け止めてくれない。時間は過ぎていくけれど、負った傷はそのときのままという状態が続きます。
不倫・浮気のカウンセリングの実際については、ここでの趣旨から外れますので、別の機会に紹介したいと思います。
不倫・浮気からの修復を目指すカウンセリングについて書いてみました。
なぜ【くよくよ・ぐちぐち】が嫌がられるのか
【くよくよ・ぐちぐち】が嫌がられる理由は色々あると思いますが、ここでは2つを紹介します。
受け止めるのがしんどい
職場の愚痴など、相手が異動するか退職するしか解決の道がないケースがあります。解決を手伝ってあげたいけれど何も出来ないという経験が繰り返されると、受け止めるのがしんどくなることがあります。
「そんなことないよ」を求められている気持ちになる
失敗して落ち込んでいる人に、「あんなことになったのは全部、私の責任だと思う」と言われたら、「そんなことないよ」と励ます人が多いと思います(実際、誰か一人にすべての責任があることは少ないと思います)。
しかし、それを何度も繰り返されると、なぐさめることを要求されている気持ちになります。聴き手が「落ち込んでいるのだから、なぐさめてよ」と要求されているように感じると、聴くのがしんどくなります
正しい【くよくよ・ぐちぐち】の聴いてもらい方
嫌がられる理由の逆を行けば良いと想像がつくと思います。
最初に「聴いてもらうだけでいい」と伝える
話を聴くのは思ったより結構な負荷がかかります。「聴いてもらうだけでいい」と伝えると、聴き手はプレッシャーから解放されて、より聴きやすい状態になることが期待できます。
「そんなことないよ」を求めない
「あんなことになったのは全部、私の責任だと思う」のような表現は、「そんなことないよ」を求められているように感じやすいです。「私の責任だと思うと落ち込む」と感情を表現すると、「それは落ち込むよね」と返しやすくなります。
人によっては多少の練習が必要なるかもしれませんが、「〜と感じている」という表現をするのが好ましいです。相手が受け取りやすくなります。
相手を選ぶ
安全な人を選びましょう。アドバイスが好きな人は避けた方が良いでしょう。そのような人はしばしば、相手の話を取ってしまうようです。相談したつもりが話を聴かされた、なんてこともあります。
まとめ
- 【くよくよ・ぐちぐち】はショックを乗り越えるプロセスを促進する効果がある。
- 【くよくよ・ぐちぐち】できないと、傷ついた気持ちを引きずることがある。
- 【くよくよ・ぐちぐち】が嫌がられるのは、聴き手に負担を与えるから。
- 最初に「聴いてくれるだけでいい」と伝えると、聴き手は負担を感じにくい。
- 「〜と感じている」と感情を表現すると、聴き手は受け取りやすい。
【くよくよ・ぐちぐち】は決してネガティブなことではありません。むしろ、必要なことと言っても良いでしょう。誰にも言えないことは、ぜひカウンセリングをご検討下さい。プロセスが促進されます。