効果的な夫婦の対話の方法

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

お互いの理解を深める効果的な対話法

夫婦の間で建設的な対話を行うには、具体的な方法とコツがあります。この記事では、カウンセリングの現場で実践されている効果的な対話の方法について、具体例を交えながら詳しく説明します。

実際のカウンセリングでは、まず夫婦の間で行われている具体的な会話をお聴きした上で、それぞれのご夫婦の状況に合わせた適切なアドバイスをさせていただいています。ここでご紹介する方法は、そうした実践から得られた知見をもとにしています。

このページのポイント
  • 建設的な話し合いの具体的な進め方
  • 避けるべき話し方とその改善方法
  • 相手の気持ちに寄り添う聴き方のコツ
  • 効果的な対話を妨げる要因とその対処法

1. 建設的な話し合いの方法

コミュニケーションの方法は、大きく3つのタイプに分けることができます。

  • 受身的なコミュニケーション
    • 自分の気持ちや考えを抑えて、相手に合わせようとするものです。対立を避けられる反面、自分の気持ちが伝わらず、不満が溜まりやすくなります。
  • 攻撃的なコミュニケーション
    • 自分の考えを強く主張し、時には相手の気持ちを無視してしまうものです。自分の意見は通りやすい反面、相手との関係を損ねやすくなります。
  • アサーティブ・コミュニケーション
    • 相手も自分も大切にする方法です。自分の気持ちや考えは率直に伝えながら、同時に相手の立場や気持ちも尊重します。これは、夫婦関係を育てていく上で最も望ましいコミュニケーションの形と言えます。

特に夫婦においては、相手も自分も大切にするアサーティブな姿勢でのコミュニケーションを中心に行うのが望ましいです。

常にアサーティブでなければならないわけではありません。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自分の意思で受身的もしくは攻撃的なコミュニケーションを選ぶのであれば問題ありません。

ただし、夫婦の間で攻撃的なコミュニケーションを選択すべき場面は思いつきません。

アサーティブ・コミュニケーションを実践する具体的な方法の一つが、DESC法です。これは、感情的になりやすい話題でも、建設的な話し合いを可能にする手法として、カウンセリングの現場でも活用されています。

DESC法は4つのステップで構成されており、それぞれの頭文字を取ってDESC法と呼ばれています。

DESCの4つのステップ

以下の4つのステップからなります。前半のDとEがうまくできれば、後半のSとCは比較的スムーズに行えることが多いようです。また、DとEは「お互いを理解し合うための夫婦コミュニケーションの基礎」で紹介したアイメッセージでもあります。

  • D(Describe):状況を具体的に説明する
  • E(Express):感情を率直に表現する
  • S(Specify):具体的な提案をする
  • C(Choose):結果を示し、選択を促す

D(Describe):状況を具体的に説明する

  • 客観的な事実を述べる
  • 評価や判断を含めない
  • 「いつも」「絶対」などの言葉を避ける

【良い例】
「昨日、私が話しているときにスマートフォンを見ていたよね」

【避けたい例】
「いつも私が話しているときにスマートフォンばかり見ている」

E(Express):感情を率直に表現する

  • 自分の気持ちを「私は~」で表現
  • 相手を責めない
  • 具体的な感情を言葉にする

【良い例】
「私は大切な話をしているつもりだったので、とてもさびしかった」

【避けたい例】
「あなたは私の話なんて聞く気がないんでしょ」

S(Specify):具体的な提案をする

  • 望む変化を明確に伝える
  • 実現可能な提案をする
  • 選択肢を示す

【良い例】
「大切な話をするときは、スマートフォンを置いて話を聞いてほしい」

【避けたい例】
「もっと私の気持ちを考えてよ」

C(Choose):結果を示し、選択を促す

  • ポジティブな結果を示す
  • 相手の選択の余地を残す
  • 建設的な提案を心がける

【良い例】
「そうすれば、私もあなたに大切な話が伝えられるし、お互いの理解も深まると思う」

【避けたい例】
「そうしないと、私、もう話しかけないから」

DESC法の実践例

【場面1:帰宅時間について】
  • D:「最近、連絡なく遅くなることが増えているよね」
  • E:「連絡がないと心配になる」
  • S:「遅くなる場合は、一言メッセージがほしい」
  • C:「そうすれば私も安心できるし、スムーズに夕食の準備ができる」
【場面2:家事の分担について】
  • D:「平日の夕食の後片付けは、いつも私一人でしてるよね」
  • E:「仕事の後の家事で、とても疲れを感じている」
  • S:「夕食後の片付けを交代でやりたい」
  • C:「お互い少し余裕が持てて、リラックスした時間が作れると思う」

2. 避けるべき話し方とその改善方法

コミュニケーションの障害になり得る言葉には典型的な例があります。「いつも」「また」といった曖昧な言葉、怒りを伴う質問の形は、誤解や対立を引き起こす原因となります。また、身振りや手振り、口調などの非言語情報もコミュニケーションの重要な要素です。

【避けるべき表現】(1)一般化した表現

「いつも」「絶対」「全然」「必ず」などの言葉を使った表現は、常にそうであると主張しているように聞こえます。また、人格の批判になりうる表現です。相手が防衛的になったり、反発を引き出すことがあります。

【避けたい例】
「いつも私の気持ちを考えてくれない」
「絶対に変わろうとしない」

【改善例】
「昨日の件では、私の気持ちを理解してもらえなかったと感じた」
「この件について、もう少し考えを聞かせて」

【避けるべき表現】(2)レッテル貼り

一般化をさらに強めた表現がレッテル貼りです。人格を否定する意味に取られます。

【避けたい例】
「あなたは自己中心的な人だ」
「そんなところが嫌いなの」

【改善例】
「この行動は私にとって理解がむずかしい」
「その部分について、もう少し話し合いたい」

【避けるべき表現】(3)怒りを伴う質問の形

「どうしていつもこんなに無神経なの!?」といった質問の形をした言葉は、回答を求めているのではなく、相手を責めたり非難したりする気持ちによることが多いです。

質問されると答えます。その一生懸命な説明に対して、「それは言い訳」と切り捨ててしまうことがあります。

そうなると、説明する側も「何を話しても言い訳だと決めつけられるのなら、もう何も言わない方がいい」と考えるようになり、お互いの対話がさらにむずかしくなってしまう可能性があります。

非言語コミュニケーションの影響

私たちは、言葉だけでなく、声のトーン、表情、視線など、非言語でもコミュニケーションを行っています。

  • 言語情報(言葉)
  • 聴覚情報(声のトーンなど)
  • 視覚情報(身振り、姿勢など)

3つの情報が一致しているとき、気持ちが正確に伝わりやすいです。以下の例です。

「悲しい」(言語情報)と、伏し目がち(視覚情報)に、弱々しい声(言語情報)で訴えた

3つの情報が不一致のときはどうでしょう。

「悲しい」(言語情報)と、睨みながら(視覚情報)、声を荒げて(言語情報)で訴えた。

睨みながら、声を荒げながら、「悲しい」と訴えられると、「めっちゃ怒ってる!」と感じませんか。

3つの情報が不一致のとき、どの情報が優先されるかを研究した人がいます。メラビアンの法則として知られています。優先度は以下のようになります。

  • 言語情報(7%)
  • 聴覚情報(38%)
  • 視覚情報(55%)

言語情報は7%です。言葉でどれだけ「悲しい」と訴えても、口調と表情が怒りであれば、残念ながら悲しい気持ちは伝わりません。

3. 共感的な聴き方の実践

相手の話を効果的に聴くことは、話すことより重要かもしれません。人は誰しも、特に夫婦においては、理解され、受け入れられることを強く求めています。これは、共感を求めていると言い換えることができます。

共感には、認知的共感と情動的共感の2つがあるとされています。

  • 認知的共感
    • 相手の気持ちを頭で理解して、それに合わせた対応ができる能力です。例えば、友だちが悲しそうにしているときに「こういう状況なら、悲しい気持ちになるだろうな」と考えて、どう接すれば良いかを判断することです。
  • 情動的共感
    • 相手の気持ちを自然と感じ取って、自分も同じような気持ちになる能力です。例えば、友だちが悲しそうにしているのを見て、自分まで悲しい気持ちになることです。この能力は生まれつきの特徴や子どもの頃の経験が関係していると考えられています。

情動的共感(同じように感じる)の向上はむずかしいと考えられています。認知的共感(相手の気持ちを理解する)は向上が可能です。例えば、ABC理論に基づく気持ちの言語化は、認知的共感を向上させます。

共感的な聴き方の基本

1. 積極的な傾聴

  • 相手の話に集中する
  • 適切な相づちを打つ
  • うなずきや表情で反応を示す

2. 確認と質問

  • 理解を確認する質問をする
  • オープンクエスチョンを使う
  • 相手の言葉を繰り返す

3. 感情への注目

  • 言葉の背後にある感情を察する
  • 感情を言葉にして確認する
  • 批判や評価を控える

共感的な聴き方の具体例

【場面1:仕事の愚痴】

パートナー:「今日の上司の言い方、本当に気分が悪かった…」

【良い聴き方】
「つらかったね。もう少し詳しく話してくれる?」
「そう感じるのは当然だと思う。具体的にどんな場面だった?」

【避けたい聴き方】
「あなたにも原因があるんじゃない?」
「気にしすぎだよ」

【場面2:育児の悩み】

パートナー:「子どもの対応に疲れちゃって…」

【良い聴き方】
「毎日大変だよね。どんなところが特に疲れる?」
「私にできることある?」

【避けたい聴き方】
「私だってやってるでしょ」
「そんなの当たり前じゃない」

いつも聴き方ができるわけではありません。人間ですから、疲労やストレスが蓄積すると、刺々しくなることもあります。そのような事態に対応するには、話し合いの仕組みを作っておくことが望ましいです。

まとめ

  • DESC法を使って建設的な話し合いを心がける
  • 一般化や命令などの表現は避ける
  • 共感的な聴き方で相手の気持ちに寄り添う
  • 非言語コミュニケーションの重要性を意識する

効果的な対話方法は、練習を重ねることで必ず上達します。少しずつ実践していくことが大切です。

カウンセリングでのサポート

この記事で紹介した対話の方法は、一般的な指針として参考にしていただけるものです。しかし、実際の夫婦関係では、それぞれの背景や状況が異なりますので、カウンセリングではまず具体的な会話の様子をお聴きした上で、お二人の状況に最適な改善方法をご提案させていただいています。

対話の改善に悩まれている方は、まずは具体的な会話の例を含めてご相談いただければ、専門家の立場から適切なアドバイスをさせていただくことが可能です。

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料金・その他詳細

個人60分:8,000円
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お申し込みから終結・フォローアップまでの流れについて説明しています。完全予約制で対面とオンラインの両方に対応しています。事前の手続きをオンラインで行うことにより、面接時間はカウンセリングに集中できるようにしています。

心理カウンセリングの「フルフィルメント」とは

屋号の「フルフィルメント(fulfillment)」には、「達成感」「満足感」「充実感」といった意味があります。また、それらには大きく二つの意味があります。

  • 目標達成型の充実感
    • 仕事のプロジェクトを成功させた時の達成感
    • 資格試験に合格した時の喜び
    • 長年準備してきた海外旅行を実現できた時の満足感
  • 日常生活での深い満足感
    • 自分の価値観に沿った仕事や生活ができている実感
    • 家族との温かな時間や、友人との深い関係が続いている安心感
    • 日々の暮らしの中で「これが自分らしい生き方だ」と感じられる充実感

つまり、一時的な達成感に加えて、今やっていることや達成したことに感じる深い満足感、より継続的・内面的な充実感を意味します。

「心理カウンセリングのフルフィルメント」という名称には、ただ問題を解決するだけでなく、一人ひとりが自分らしく生きながら心を満たし、人生に充足を得られるサポートを提供したいという想いを込めています。

このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

親バカのカウンセラー / 人に原因を求めるのではなく、人と人との相互作用の悪循環に求めます。人に優しいカウンセリングをモットーとしています。

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