お互いを理解し合うための夫婦コミュニケーションの基礎

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

相互理解を深める夫婦の会話

夫婦関係を育てていくには、お互いの気持ちを理解し合う力が必要です。この記事では、お互いの理解を深めるコミュニケーションの基礎について、具体例を交えながら説明します。

実際のカウンセリングでは、まず夫婦の間で行われている具体的な会話をお聴きした上で、それぞれのご夫婦の状況に合わせたアドバイスをさせていただいています。ここでご紹介する方法は、そうした実践から得られた知見をもとにしています。

このページのポイント
  • 仲の良さと関係の良さの本質的な違い
  • 効果的な気持ちの伝え方(アイメッセージ)
  • 自分の気持ちを理解する方法
  • より良い夫婦関係を築くための具体的なヒント

1. 「仲の良さ」と「関係の良さ」を理解する

「仲は良いです」「趣味や食の好み、笑いのツボも同じです」「休日はほとんど一緒に過ごしています」。このように仲の良い夫婦でも、「でも、大事な話になると衝突します」「ケンカしたくないので、そのような話をしないようにしています」という悩みを抱えていることがあります。

日常会話ができても、休日を一緒に楽しむことができても、肝心なことを話し合えないとしたら、それは「仲は良いけれど、関係が良くない」状態かもしれません。

仲の良さとは

仲の良さは、主に親密さや相性の良さを意味します。具体的には、

  • 一緒にいて楽しい、リラックスできる
  • 趣味や好みが合う、共通の話題が多い
  • 何気ない会話が弾む、たわいもない話で盛り上がれる
  • 思い出を共有している、共通の経験が多い
  • お互いの長所を認め合える
  • 休日の過ごし方が合う

仲の良さは、夫婦関係にとって大切な要素です。しかし、これだけでは十分ではありません。

関係の良さとは

関係の良さは、お互いを一人の人間として尊重し、協力し合える関係を指します。具体的には、

  • 重要な決定を一緒に行える
  • 意見が違っても話し合える
  • お互いの成長を支え合える
  • 困ったときに助け合える
  • 相手の価値観を尊重できる
  • 衝突を恐れずに本音で話せる

夫婦には、仲の良さと関係の良さの両方が必要です。特に、子育てや親の介護など、人生の重要な場面では、関係の良さが重要になってきます。

実際の相談事例から

【相談例1】

「私たち、趣味も同じだし、休日も楽しく過ごせています。でも、子育ての方針や親との付き合い方など、大切な話になるとお互いの意見が合わなくて。話し合いがケンカになるので、最近はそういう話を避けるようになってしまいました」

このケースは、典型的な「仲は良いが、関係が良くない」例です。趣味や日常会話では問題なく過ごせていますが、価値観が関わる重要な決定では対立が生じています。

【解決のポイント】
  • 意見の違いは自然なことと受け止める
  • 「正しい・間違い」ではなく、「お互いの価値観の違い」として捉える
  • 少しずつ話し合いの練習を重ねる

【相談例2】

「夫は優しい人で、私の言うことに何でも『うん、うん』と頷いてくれます。でも、本当はどう思っているのか分からないんです。もっと本音で話し合える関係になりたいのですが…」

このケースは、表面的な調和は保たれていますが、深い理解や信頼関係が築けていない例です。

【解決のポイント】
  • 安心して本音を話せる環境づくり
  • 小さな話題から少しずつ深い会話に挑戦
  • 相手の意見を否定せず、まずは受け止める姿勢を示す

2. 気持ちを伝えるスキルを身につける

相手に気持ちを伝えるとき、「あなたはいつも…」「また…」という言い方をしていませんか?このような言い方は、相手を責めているように聞こえ、防衛的な反応を引き起こしやすいものです。

ユーメッセージとアイメッセージ

ユーメッセージとは、「あなた(You)」を主語にして相手の行動を指摘したり批判したりする言い方です。例えば「あなたは考えが足りない」「あなたはいつも」のように、相手を責めるニュアンスを含みやすい表現です。

アイメッセージとは、「私(I)」を主語にして自分の気持ちや考えを伝える方法です。例えば「私は心配です」「私はさびしく感じます」のように、自分の気持ちを素直に表現します。

ユー(あなた)メッセージ
  • 「あなたはいつも…」で始まる
  • 相手の行動を非難する
  • 相手を追い詰める
  • 防衛的な反応を引き出しやすい
アイ(私)メッセージ
  • 「私は…」で始まる
  • 自分の気持ちを伝える
  • 相手を責めない
  • 建設的な対話を促す

アイメッセージのほうがユーメッセージより伝わりやすく、受け取ってもらいやすい傾向があります。具体例を見ていただくとわかりやすいと思います。

具体例

ユーメッセージとアイメッセージは、同じ気持ちを伝えようとしていても、その表現方法が大きく異なります。ユーメッセージは相手の言動について指摘するのに対し、アイメッセージは自分の気持ちを表現します。

【場面1:片付けについて】
  • ユーメッセージ:「何で散らかしっぱなしなの?」
  • アイメッセージ:「私は片付いていると落ち着けるの。一緒に片付けてくれる?」
【場面2:遅い帰宅について】
  • ユーメッセージ:「どうしてこんなに遅いの? 昨日もそうだった」
  • アイメッセージ:「遅くなるときは連絡がほしいな。心配になってしまうから」

「何で?」と問うと、「〜だから」と理由が返ってくることがあります。片づけてほしいのに「〜だから」と返ってくると、イライラが募るかもしれません。そのイライラは自分が引き寄せていることもありそうです。

【場面3:約束を忘れられたとき】
  • ユーメッセージ:「また約束を忘れたの? いつも適当だよね」
  • アイメッセージ:「約束を忘れられると、私は大切にされていないように感じてしまうの」

このユーメッセージの後に、売り言葉に買い言葉のケンカに発展するシーンをイメージしてしまいます。さびしさや不安がそうさせると予想しますが、感情との付き合い方をサポートさせてほしい気持ちになります。

これらの例からお分かりいただけるように、同じ思いを伝える場合でも、受け取る側の印象は大きく異なってきます。相手を責めるような表現は防衛的な反応を引き出しやすく、一方で自分の気持ちを素直に伝える表現は、相手の理解を得やすいのです。

3. 自分の気持ちを理解する

アイメッセージで気持ちを伝えるには、自分の気持ちを理解して言葉にする必要があります。これは当たり前のように聞こえますが、意外とむずかしいものです。そのための方法として、心理学のABC理論を紹介します。

ABC理論

同じ出来事でも、人によって異なる感情や反応が生じます。それは、その出来事をどのように受け取るか、その出来事にどのような意味づけをするかが、人それぞれ異なるからです。

ABC理論は、この「出来事」と「感情」の間にある「受け取り方・意味づけ」の重要性を説明するものです。出来事(A)が直接的に感情(C)を引き起こすのではなく、その出来事をどのように受け取り、どのような意味づけをするか(B)によって、生じる感情が決まってくるのです。

元々は、自分の考え方の偏りに気づき、修正するためのカウンセリングの技法ですが、夫婦のコミュニケーションにも役に立ちます。以下の要領で気持ちを言葉にします。

  • A(Activating event):きっかけとなる出来事
  • B(Belief):その出来事に対する受け取り方・考え
  • C(Consequence):その結果として生じる感情や行動

以下に例を示します。

例1
  • A:夫が仕事から帰ってきて、スマートフォンを見ながら私の話を聞いていた
  • B:「私の話に興味がないのかな」「軽く扱われているのかな」
  • C:さびしい、悲しい
例2
  • A:妻が私の提案を黙って聞いているだけだった
  • B:「否定的に考えているのかな」「理解してもらえていないのかな」
  • C:不安、焦り

お気づきの方もいらっしゃるでしょう。

  • ユーメッセージは、A(出来事)を言葉にしています。
  • アイメッセージは、B(受け取り方・考え)とC(感情)を言葉にしています。

そして、

  • 相手に伝えたいのは、B(受け取り方・考え)とC(感情)であり、
  • 理解したいのは、相手のB(受け取り方・考え)とC(感情)です。

良いコミュニケーションでは、お互いのB(受け取り方・考え)とC(感情)を理解した上で、必要に応じて何らかの対処がなされているはずです。

B(受け取り方・考え)は、「理解してもらえていないのかな」のように、フレーズ・文として表現されます。C(感情)は、不安、焦りのように単語として表現されます。

ただし、BとCの正確さにこだわる必要はありません。相手に伝えたいのはBとCの両方であり、理解したいのもBとCの両方です。

BとCを言葉にするのがむずかしいとき

B(受け取り方・考え)とC(感情)を言葉にするのは、案外むずかしいものです。最初は面倒でも紙に書いたり、スマホのメモに書き込むなどして練習するのが望ましいです。

どうしても言葉にできないときは、A(出来事)だけ書いておきましょう。後で見返したときに、ふとBとCが言葉になることがあります。Aだけでも書いていると、BとCが出やすくなっていくものです。

怒りの裏にある気持ち

注意が必要なのが怒りです。強い怒りの表現を続けていると、取り返しがつかない事態を招くことがあります。

怒りは多くの場合、別の感情から生まれてきます。

  • さびしさから生まれる怒り
    • 怒りの表現「なんで話を聞いていないの!」
    • 元の気持ち「私の話を大切に思ってくれていないのだろうか」
  • 不安から生まれる怒り
    • 怒りの表現「どうしていつも遅いの!」
    • 元の気持ち「何か問題が起きているのだろうか」
  • 傷つきから生まれる怒り
    • 怒りの表現「そんな言い方ないでしょ!」
    • 元の気持ち「私の気持ちを分かってくれないんだ」

元の気持ちに気づければ、それをアイメッセージで表現すればいいのですが、怒りを自分で扱うのがむずかしくなっている場合は、カウンセリングなど外部のサポートを利用するのが望ましいです。

よくある質問

Q
相手が話を聞いてくれないときはどうすればいいですか?
A

まず、相手が話を聞ける状態かどうかを確認しましょう。疲れているときや他のことに集中しているときは、「今は忙しい?」と確認し、話をする時間を決めることをお勧めします。

Q
アイメッセージは効果がないと感じることがありますが
A

アイメッセージは魔法の言葉ではありません。大切なのは、相手を責めないという姿勢です。すぐに効果が表れなくても、継続することで少しずつ変化が現れていきます。

Q
自分の気持ちがよくわからないときはどうすればいいですか?
A

気持ちを言葉にするのがむずかしいと感じる人が一定数います。まずはA(出来事)だけで良いので書き留めます。続けているうちに、B(受け取り方・考え)とC(感情)が出やすくなっていくものです。カウンセリングのサポートも検討してみて下さい。

お互いを理解し合うことでより良い関係に

夫婦関係では、意見の違いや価値観の違いが生じるのは自然なことです。大切なのは、そうした違いを問題と考えるのではなく、お互いをより深く理解し合うチャンスと捉えることです。

「仲の良さ」と「関係の良さ」を意識し、アイメッセージを使いながら気持ちを伝え合い、自分の気持ちを理解する努力を重ねることで、夫婦関係はより深いものになっていきます。

まとめ

  • 夫婦には「仲の良さ」と「関係の良さ」の両方が必要
  • 気持ちを伝えるときはアイメッセージを使う
  • 自分の気持ちを理解することが、相手を理解することの第一歩
  • 違いや対立は、お互いを理解し合うチャンス

お互いを理解し合うのは簡単ではありませんが、少しずつ努力を重ねることで、必ず関係は良い方向に変化していきます。悩みが大きいときは、カウンセリングを利用することで、専門家のサポートを得ながら一緒に改善方法を考えることができます。

カウンセリングでのサポート

この記事で紹介した対話の方法は、一般的な指針として参考にしていただけるものです。しかし、実際の夫婦関係では、それぞれの背景や状況が異なりますので、カウンセリングではまず具体的な会話の様子をお聴きした上で、お二人の状況に最適な改善方法をご提案させていただいています。

対話の改善に悩まれている方は、まずは具体的な会話の例を含めてご相談いただければ、専門家の立場から適切なアドバイスをさせていただくことが可能です。

カウンセリングのご案内

料金・その他詳細

個人60分:8,000円
90分:12,000円
夫婦90分:12,000円
お支払い方法現金・クレジットカード・電子マネー
備考税込価格、延長料金等ナシ、面接報告書は有料にて
2025年3月1日より価格改定します

カウンセリングの流れ

お申し込みから終結・フォローアップまでの流れについて説明しています。完全予約制で対面とオンラインの両方に対応しています。事前の手続きをオンラインで行うことにより、面接時間はカウンセリングに集中できるようにしています。

心理カウンセリングの「フルフィルメント」とは

屋号の「フルフィルメント(fulfillment)」には、「達成感」「満足感」「充実感」といった意味があります。また、それらには大きく二つの意味があります。

  • 目標達成型の充実感
    • 仕事のプロジェクトを成功させた時の達成感
    • 資格試験に合格した時の喜び
    • 長年準備してきた海外旅行を実現できた時の満足感
  • 日常生活での深い満足感
    • 自分の価値観に沿った仕事や生活ができている実感
    • 家族との温かな時間や、友人との深い関係が続いている安心感
    • 日々の暮らしの中で「これが自分らしい生き方だ」と感じられる充実感

つまり、一時的な達成感に加えて、今やっていることや達成したことに感じる深い満足感、より継続的・内面的な充実感を意味します。

「心理カウンセリングのフルフィルメント」という名称には、ただ問題を解決するだけでなく、一人ひとりが自分らしく生きながら心を満たし、人生に充足を得られるサポートを提供したいという想いを込めています。

このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

親バカのカウンセラー / 人に原因を求めるのではなく、人と人との相互作用の悪循環に求めます。人に優しいカウンセリングをモットーとしています。

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